2018年11月1日

『顕れ』パリ日記(12・最終回)

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月21日(金)
~上演二日目、楽器のこと、警備イジドールさんのお話、カリブ海諸島のこと、コリーヌ国立劇場のこと~

 
私は今日が滞在最終日なので、この日記は今回が最終回。

昨夜取材してくれたAFP通信の方から、楽器の名前を教えてほしいとの依頼があり、作曲の棚川寛子さんに伺う。アフリカの楽器はジャンベ、ジュンジュン(ともに打楽器)、カリンバ(親指ピアノ)など。吉見亮さんが「今回手でジャンベを叩くのはぼくだけ、アフリカ系の方の前でやるのはとても勇気がいります」と言っていた。他の作品で使っていたバラフォン(ひょうたんを共鳴体とする木琴)は、今回演奏スペース(オーケストラピット)が小さいので断念したという。他にも、さまざまなシロフォン(鉄琴)やディジェリドゥー(オーストラリア先住民の楽器)、仏具のおりんなど、不思議な楽器がたくさん。

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▲ツアー終盤にお客様対象のミニ講座として、楽器紹介や演奏のデモンストレーションを行いました。

警備担当のイジドールさんのお話。イジドールさんはこの劇場でもう17年、5人のディレクターと仕事をしてきたという。

イジドールさん

「ワジディが来てから、このホワイエにベンチができたり、前の道路を閉鎖して歩行者専用にしたり、この劇場もだいぶ変わったよ。毎年クリスマスにはここで働いている人が家族連れで集まって、ワジディも家族と子どもたちを連れてきて、一緒にごはんを食べるんだ。時々みんなでバーベキューもやるよ。二階のテラスで、私が肉を焼くんだ。火の管理は大事だからね!
これが一番給料のいい仕事というわけじゃないけど、たぶん定年までここにいると思うよ。やっぱり一番大事なのは人と人との関係だからね。
この劇場は30年前、フランソワ・ミッテランがフランス文化を広めるためにつくったんだ。だけど、ワジディが来てから、世界中の人たちがここに来るようになった。今はアフリカのアーティストもたくさん来るようになったよ。
レオノーラ・ミアノはカメルーン出身なんだね。海外に連れて行かれた奴隷の話か。私はグアドループ(カリブ海にある島で、フランス海外県)の出身で、アフリカのことはあんまりよく知らないけど、ジャマイカとかハイチとかプエルトリコとか(アフリカ系の人が多く住むカリブ海の島々)には昔よく行ったな。家族はほとんどパリにいる。グアドループにはあんまり仕事がないから。
ここでやってる作品はみんな見てる。『顕れ』はきっと来週観に行くよ!」

『顕れ』には、一人だけアフリカ出身ではない登場人物がいる。ラスカルは「はじまりの大陸」の人々が「帰らずの地」と呼ぶ土地、つまりカリブ海諸島やアメリカ大陸で奴隷として生まれ、反乱に加わったためにアフリカ大陸へと追放される。そしてそこで生き延びるために「ゴロツキどもの売り買いをしたこともあった」、と語る。ラスカルだけは、自分たちが「黒人」と呼ばれる存在になっていることを知っている。この物語は「コンゴ人」や「カディオール人」がいかにして「黒人」となったか、という話でもある。

グアドループ島を含むカリブ海の「西インド諸島」は長年にわたって大西洋三角貿易の拠点の一つだった。原住民の多くは絶滅し、アフリカから定期的に補充される奴隷によってサトウキビなどが栽培され、フランスに大きな利益をもたらしていた。1789年にフランス革命が起きると、カリブ海のフランス植民地でも、黒人奴隷たちが自由を求めて戦い、一度は奴隷制が廃止されるに至った。フランス領サン=ドマング島ではハイチ革命が起こり、近代以降はじめての黒人共和国が成立した。

ところがナポレオンはカリブ海諸島に出兵し、奴隷制をふたたび導入。フランスで最終的に奴隷制が廃止されたのは1848年のことだった。カリブ海で最後まで残ったフランス領マルティニークとグアドループが植民地ではなくフランス本国の県と一応同等の「海外県」となったのには(1946年)、マルティニーク出身の「黒人」劇作家・詩人で国会議員ともなったエメ・セゼール(1913-2008)の貢献が大きい。

かつてムアワッドの制作担当として静岡に来たこともある事務局長のアルノーさんは「高校時代から通っていた劇場で働けてうれしい」という。この劇場に来て感じるのは、本当にみんな劇場が好きで、ワジディ・ムアワッドのことが大好きだということ。

コリーヌ国立劇場はフランスに5つある演劇用の国立劇場のうちで最も新しい。1988年にできたので、今年で30周年になる。「現代に書かれた作品」に特化した劇場ができたのは、フランスの公立劇場ではモリエールやシェイクスピアやギリシャ悲劇といった「古典」のほうが上演されることが圧倒的に多いからだ。多くの場合、名前くらいは誰もが知っている作品の方が、お客さんも来やすいし、学校の鑑賞事業でも選ばれやすい。となると、現代作家の新作を上演するのは比較的リスキーということになり、そのリスクを冒すことができる劇場は限られてしまう。だが、現代に書かれた作品が上演されなくなってしまったら、当然演劇はつまらなくなってしまう。そこで、このコリーヌ国立劇場が作られたわけだ。

「SPAC秋→春のシーズン」では、基本的には「演劇の教科書に載るような古典」をメインに上演し、中高生鑑賞事業も行っている。だが、このレオノーラ・ミアノの『顕れ』は、古典に匹敵する力をもった作品と考え、「SPAC秋→春のシーズン」で来年1月~2月に上演する予定となっている。

今日も9割くらいの入り。客席数は500ほどで、静岡芸術劇場よりも一回り大きいから、静岡で満席になるよりもお客さんが入っていることになる。この規模の劇場で一ヶ月間、27回の公演を行うというのは、なかなかできない経験。

二日目。今日も、固唾を呑んで見守るような客席。ラストの曲では体を揺らして微笑んでいる方々も。

徐々に拍手の音が高まり、トリプルコール。

二日目カーテンコール

世界で最もアフリカ系住民の多い都市の一つでもあるパリは、しばしば皮肉を込めて「アフリカの首都」などと呼ばれたりもする。

エッフェル塔のお土産売り場

アフリカの多くの国々は1960年代に独立を果たしたが、フランスにはなお「海外県」が残り、フランス国内で生きることを選んだアフリカ系住民も少なくない。エメ・セゼールは、アフリカ系の奴隷が自由と独立を勝ち取ったハイチ革命(1804年)を描く『クリストフ王の悲劇』(1963年発表)について、「もはやわれわれは、容易に識別できる共通の敵というものに対して立ち上がるのではなく、われわれ自身の内で、われわれ自身に対しての戦いを行わなければならないのです」と語っている。私たちも、これから一ヶ月間、パリの人々とともに「われわれ自身に対しての戦い」を戦うことになる。

ワジディ・ムアワッドさんとコリーヌ国立劇場のおかげで、大変な作品に出会うことができた。静岡での初日は2019年1月14日。日本のお客さんに出会うことで、この作品も変容していくだろう。ぜひ見届けていただきたい。

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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
作:レオノーラ・ミアノ
翻訳:平野暁人
上演台本・演出:宮城聰
音楽:棚川寛子

日本語上演・英語字幕

◆公演の詳細はこちら


2018年10月19日

『顕れ』パリ日記(11) ~初日(続き)~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月20日(木)

*前回のブログはこちら
『顕れ』パリ日記(10) ~初日~

ヴァグラムさんは、舞台を見てのご感想を、改めて寄せてくださった。
「『顕れ』と演出家宮城聰さんとの出会いが、私にとってどれだけ重要な演劇的事件だったのかをお伝えしたいと思います。そこには舞台がテクストに与えうることの全てがあったように思えました。日本文化のコードによるラディカルな提案と繊細かつ美的に表現された死後の世界の夢幻的な舞台美術、苦悩や恐怖、そして儚さや優しさを表現し、それに付き添い、高みへと押し上げる音楽。全てが私たちを揺り動かし、レオノーラの言葉との感動的な交感を促して、儀式の最後(イニイエの退場)の絶頂へと到達させてくれます。この舞台の終わりは、人間的なものを分かち合うということがそうあるべき高みに達しています。
私のなかに住む”女優”は、この私たちの病んだ世界が演劇という芸術によってあがなわれることを、ふたたび期待することができました。
この作品が、書かれたところの文化とも、その物語の文化とも異なる形で上演されるのを見ることで、私たちは「他者へと向かう」よう促され、大きな価値観の転換を迫られます。
感謝の念を伝えたく存じます。」

AFP通信の取材。宮城さんの話。
「歴史的な規模の犯罪となると、その行為の重さ故に加害者も口をつぐんだまま死んでゆくことが多い。こうして、被害者の魂だけでなく、加害者の魂もまたこの世に対する悔いや怨恨を抱え込んだまま、あの世に行くことができないでいる。これがこの世の不幸の原因となる。そこで加害者が口を開く場をつくり、その告白を死者も生者も皆で共有することで、被害者の魂も加害者の魂も怨恨を離れることができる、というのがこの作品だと僕は考えています。」

コリーヌ国立劇場2019年間プログラムでのワジディ・ムアワッドさんの言葉。
「人間にとっては、いつだって、復讐することのほうがずっと簡単なことだった。今日ではいよいよそうなってしまった。メディアとSNSが、司祭やイマームやラビ(それぞれイスラム教・ユダヤ教の指導者)の役割を、あまりにも見事に肩代わりしてくれて、私たちに毎朝、どう考えるべきか、誰を告発すべきか、そして誰を血祭りにあげるべきかを教えてくれる。
そんな状況のなかで、現代の劇作品のための国立劇場をどう位置づければよいのだろうか。この道徳化の風潮が強要する裁判官の役割を逃れようとする他ないだろう。なぜなら、もしディレクターとしての私がこの圧力に屈してしまったら、作家の役割は観客を被害者と同じくらい加害者にも感情移入させることだということをどう伝えればよいのか。ほとんどの戯曲は、何かしらの形で、犠牲にされた者、罪人、「悪人」を舞台に上げて、悪という問題について問いかけている。これはギリシャ悲劇以来の演劇の機能だ。ではどうやってこのような登場人物を演じ、弁護すればよいのか。クレオンを、『女中たち』を、『ロベルト・ズッコ』を、理解することも愛することもなく演じることができるだろうか。罪人を舞台に上げるということは、必然的に彼らに近づくことでもある。その人のことを深く知り、「彼は私だったかもしれない」と思うことだ。もしそこで見たこと、聞いたことを信じて、それに参加したのであれば、劇場から出たあと、どうして翌日道徳に戻り、メディアの俎上に載せられた最初の罪人にリンチを要求することができるだろうか。どのようにして芸術作品の前で経験されたことと、その経験が日常生活のなかで変化していくこととのあいだをつなぐことができるのか。・・・どのようにして芸術の力を本当に信じることができるのか。」

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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2018年10月18日

『顕れ』パリ日記(10) ~初日~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月20日(木)

 
本番日なので、衣裳はつけず、稽古着で稽古。
宮城さんからマイブイエ(これから生まれる魂たち)たちに、「ちょっとスキップやってみて」と注文。
なかなか合わない。
「あ、幼稚園が違うとスキップも違うんだね・・・」
稽古

近所のレストランなどにポスターが貼ってある。
ポスター

今日はついに初日。劇場の書店にはレオノーラ・ミアノの本が並んでいる。
書店

劇場が長い眠りから醒めたように、入口に人が集い、ざわめきが少しずつ高まっていく。
IMG-6513

レストランも大忙し。
レストラン

20時半開演。

今日はパリの多くの劇場でシーズンが開幕する日で、競争が激しく、ちょっと不安だったが、500ほどある客席がほとんど埋まっていた。アフリカ系のお客さんがけっこう来てくれている。一割弱くらいだろうが、これまでパリで演劇を見ていて、こんなにアフリカ系の方を見かけたことはなかったかもしれない。じっと舞台を見つめてくれている。

終演。静まりかえった客席から、徐々に割れるような拍手が。カーテンコール。
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多くのお客さんが「ありがとう、すばらしかった」と帰り際に声をかけてくれる。
女優のデリア・セピュルクル・ナティヴィさん(ふじのくに⇄せかい演劇祭2016で上演された『少女と悪魔と風車小屋』で主演)は「アンティゴネも大好きだったけど、こっちの方がもっと好きです。すごくダイレクトに今のことを語っているから、すごく心に響きました」とおっしゃってくれた。

舞台や映画で活躍する女優のミレーヌ・ヴァグラムさんが宮城さんに話しかけてくれ、「一つずつ段階を踏んで神話的世界へと連れて行ってくれるのが、本当にすばらしかったです。なかなかフランスでは見ないタイプの舞台ですね。私はミアノさんの作品をよく知っているのですが、宮城さんの演出はミアノさんの戯曲に、さらに普遍的な次元と深みを付け加えていたと思います」とおっしゃっていた。ミレーヌさんは以前、『顕れ』を含む「レッド・イン・ブルー三部作」の別の作品のリーディング公演に参加している。
ミレーヌ・ヴァグラムさん

ミレーヌさんから後日、ミアノさんとの出会いについてうかがった。

ヴァグラムさんはカリブ海とフランスの二つの文化の間で育った。パリで生まれ、マルティニーク島の祖父母のもとで幼少期を過ごした。マルティニーク島はカリブ海にあるフランス海外県。はじめ読者としてミアノ作品に出会い、ミアノ本人と出会ってから、リーディング公演などにも起用されるようになった。

「レオノーラのうちで私が好きなところは自由なところです。それに触れることで、自分のなかの自由も呼び覚まされます。そのラディカルさ、勇気も、私を力づけてくれます。・・・きっと彼女も、私のうちに同じようなものがあると思ってくれているのでしょう。
きっと私たちは二人とも、人間の経験というものは一つの場所に結びつけられるものではなく、それを超えるもので、自分がどこから来たのかを知ることは、そこに閉じこもることではなく、世界に向かって言葉を発するためのはずみを得ることなのだ、という確信を共有しているのだと思います。」

『顕れ』パリ日記(11)に続きます。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年10月17日

『顕れ』パリ日記(9) ~ゲネ、コリーヌ国立劇場年間プログラム~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月19日(水)

 
今日はゲネ(最終通し稽古)。

字幕チェックをしに来てくれた劇場の方が、「舞台に目を奪われそうになって、字幕ばかり見てるのが悔しかった。明日はお客さんとして見ます!」とおっしゃってくれた。

明日からついに公演がはじまる。シーズンの開幕。

ふつうフランスでは、9月から6月までが劇場の「シーズン」。だがコリーヌ国立劇場では、今年から1月~12月の年間プログラムに移行しようとしている。そのため、今回は2017年9月~2018年12月という変則的な年間プログラムになっていて、この『顕れ』の上演は昨年7月のアヴィニョン演劇祭からすでに告知がされていた。

その理由の一つは、「劇場が学校のスケジュールに従属するのはおかしい」ということ(フランスの学校は9月に始まる)。ムアワッドはジュネを引用しながら、アーティストの役割は「教える」ことではない、ということを強調している。

「おれがお前にやるのは意味のない、不器用な助言だ。それに従うことができるやつなんていない。でもおれがしたかったのはそれだけなんだ。この芸術について、お前の頬に熱がこみ上げるような詩を書くことだ。お前に教えたかったんじゃない、お前を熱くしてやりたかったんだ。」
ジャン・ジュネ『綱渡り芸人』(1983)、コリーヌ国立劇場2017-2018年間プログラムより

その代わりに、「シーズンは四つあるはずだ」と言って、自然のリズムに沿って、春・夏・秋・冬それぞれの「シーズン」のプログラムを紹介している。

とはいっても、パリでは今週から公演がはじまる劇場が多く、コリーヌ国立劇場にとっても夏休み後の最初の公演で、劇場の顔となる公演であることにはかわりない。年間プログラムのなかでも、これほど出演者が多い作品は他にない。

コリーヌ国立劇場の年間プログラムは「アルマナ(Almanach)」という名前になった。これは「カレンダー、年鑑」といった意味だが、これはアラビア語の「贈り物」という言葉から来ていて、新年にカレンダーを贈りあう習慣に基づいているともいう。

アルマナ

コリーヌ国立劇場の作品紹介では一切写真を使っていない。コリーヌ国立劇場は現代戯曲の上演のための劇場とされていて、言葉を伝えるのが一番大事、ということなのだろう。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年10月16日

『顕れ』パリ日記(8) ~稽古、「連帯のレストラン」~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月18日(火)

 
トレーニング、稽古。

宮城さんのノーツ。

「ウブントゥ(「我らあり、ゆえに我あり」という意味)という名前が出てくるときにはビックリしてほしい。たとえば突然子どもたちが声を揃えて「万国の労働者よ、団結せよ」と言い出した、みたいな。」

ウブントゥ

この『顕れ』では、人々の理想が空疎なものとなっていき、さまよう魂の群れの名前になっていく。

サラディン・カティールがデザインした巨大な月と太陽を、フランス人スタッフは「カマンベール」と呼んでいる。

SPACがフランスで全くの新作を作るのはこれが初めて。これまでは少なくとも一度は静岡で公演してから海外ツアーに出ていた。今回はもちろん日本側からも技術スタッフが参加しているが、二日目の公演まででほとんどが帰国してしまい、最終的にはフランス側のスタッフだけで公演を回すことになる。本番中に装置の転換をするフランス人スタッフも、日本風に黒子になって、日本語の台詞を聞きながらきっかけをつかんでいくことになる。

黒子

双方にとって、大きな挑戦。

村松さんとフランクさん

「連帯のレストラン 女性シェフの食卓」を運営しているアミナさんのお話。

アミナさん

アミナさんは、かつては観光名所にもなっているキャバレー「リド」で、ただ一人の女性シェフとして活躍していて、この道35年という。「女性シェフの食卓(La Gamelle des Cheffes)」というのは、20区の近所の人たちと一緒にやっているアソシエーションの名前。

女性シェフたちの食卓

今はラオス出身のエリザさんが代表を務めている。そこでお料理教室などをやっていたが、地元のイベントで料理を作るようになった。文化大臣や区長が出席するイベントにも料理を提供してきた。そういったパーティーをきっかけに、コリーヌ国立劇場の人に声をかけられ、このレストランを運営するようになった。今年が二年目。

「劇場の食事は冷凍食品が多いけど、ここでは新鮮な食材を使ったものを出してます。すごく手間はかかるけど、ちゃんとしたものを食べてほしい。私の目的は安くていいものを食べてもらうこと、そして仕事のない人に経験をつけてもらって、仕事をつくること。
ムアワッドさんは本当に謙虚で、人間的で、若い人たちを助けたいと思っていて、とても働き者。すごく気が合うので、やりがいがある。
私は料理が好きで、子どもの頃からお芝居が好きだったから、ここは本当に自分のホームだと思ってます。モロッコ生まれで、お父さんが厳しくて、お芝居はできなかったけど、ここでやるものはだいたい観ています。昨日の初日のパーティーでお客さんたちの話を聞いたけど、『顕れ』はすごく評判がいいから、こっちが落ち着いたら必ず観に行きます。」とおっしゃっていた。

今週のお勧めはアミナさんのチキンカレーと、パキスタン出身のアイシャさんのパキスタン風ファラフェル。

アイシャさん

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年10月15日

『顕れ』パリ日記(7) ~『マハーバーラタ』パリ公演下見~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月17日(日)

 
11月にパリ公演予定の『マハーバーラタ』下見のため、ラ・ヴィレット公園へ。

かつて食肉市場だった「レ・グランド・アール(「大市場」の意味)」は一辺が350メートルあるという巨大な会場。今回はそのなかにリング上の舞台を設営する。

グランドアール
▲「レ・グランド・アール」昼の顔

グランドアール夜
▲「レ・グランド・アール」夜の顔

昼間の公演もあるので、遮光法を確認するために、幕が吊ってあるところまで登ってみる。

高所から

技術監督のレミさんのご案内。誰かに似ていると思ったら、なんとアヴィニョン演劇祭でお世話になった技術監督フィリップさんの弟だという。レミさんとフィリップさんのご縁もあり、すぐに資料が手に入ったと聞く。
ラ・ヴィレットのプログラムを担当している方が、アヴィニョン演劇祭での『マハーバーラタ』公演を見て提案してくれたとのこと。

そのあと、SPACで『ブラスティッド』『ガラスの動物園』『盲点たち』を演出してくれたダニエル・ジャンヌトーがディレクターを務めるジェヌヴィリエ劇場を訪問。

ジャンヌトーとジュヌヴィリエ劇場

ジャンヌトーは劇場の屋上にある庭園でトマトの採り入れをしていた。

トマトの採り入れ

この10月、東京芸術祭で『ガラスの動物園』のフランス版を上演予定。静岡で生まれた作品がフランスで育ち、ふたたび日本に戻ってくる。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
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2018年9月28日

『顕れ』パリ日記(6) ~日曜日の稽古~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月16日(日)

 
日曜日なので、人通りが少ない。入口の警備員室が空だと思ったら、アフリカ系の警備員さんが稽古を観に来てくれていた。

ムアワッドさんは今シーズンの年間プログラムにこう書いていた。「あらゆる公共の場所に入るたびにバッグを開けなければならず、テロ警戒体制が日常になってしまったら、どうやって自由に語りつづけることができるだろうか。」

最後の場面の稽古。宮城さんのダメ出し。

「うまくやろうとすると、自分の体に敏感になれない。自分の体にびっくりしていれば、必然的にたどたどしくなる。それを見せればいい。
こんな無防備な生き物を見てしまっていいのか、とお客さんが思うくらいでなければ持たない。」

照明さんのダメ出し。

「あ、ちょっと止めてください、ハシゴの影が見えてます!」「なにい!」「すみません、大高さん下ろしてください」「ハシゴ消えた。あ、また出た」「あ、たぶんこれ、俺の足です」「あー!このまま大高さんのタッパを上げます・・・」

大高さんの足

今日は20時に早めの退館。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
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2018年9月26日

『顕れ』パリ日記(5) ~字幕作業、舞台美術家・木津潤平さん講演会~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月15日(土)

 
字幕調整作業。字幕作成担当のモハメドさんに来ていただいて、操作担当の制作大石さんと、昨日の稽古でずれていた箇所などを確認していく。

字幕作業

パリ日本文化会館で『マハーバーラタ』『アンティゴネ』の舞台美術を手がけた木津潤平さんの講演会。

パリ日本文化会館

ヨーロッパの額縁状の舞台では、奥が遠近法の消失点になっていて、無限につづく空間を表現できるが、日本の舞台は奥行きがあまりなく、水平方向に広がる絵巻物的な画面になっている。だが、この日本的な舞台を曲げながらぐーっと伸ばしていって円形にすると、永遠が表現できる舞台になる、という。

木津さん1

そうしてできたのが、アヴィニョン演劇祭2014のブルボン石切場で上演された『マハーバーラタ』のリング状舞台。

木津さん2

静岡でも2015年と2018年のふじのくに野外芸術フェスタで上演された。今度は11月にパリのラ・ヴィレット公園で上演される予定(公演詳細:https://lavillette.com/evenement/satoshi-miyagi/)。すでに地下鉄にポスターが貼ってあった。

ラ・ヴィレットのポスター

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年9月21日

『顕れ』パリ日記(4) ~ムアワッドさんのお話、場当たり~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月14日(金)

 
13時半、劇場が滞在中のアーティストたちのための「ウェルカムドリンク」をオーガナイズしてくださった。今、コリーヌ国立劇場では『顕れ』を含め、四作品を準備中。その四つのチームとスタッフで、全部で100人近くが劇場地下のレストラン前に集合。

コリーヌ国立劇場ディレクターのワジディ・ムアワッドさんのお話。

ムアワッドさんのお話1

「この劇場はクリエーションのための劇場です。なので、クリエーションをしているみなさんは、自分のホームだと思ってください。

今、この劇場ではフランス語、日本語、ドイツ語、ヘブライ語、アラビア語、英語、ルーマニア語が話されています。でも、日本から来た人がアフリカの話をしているように、みんな自分の話をするのではなく、他者の話をしています。これは演劇にとって、とても大事なことだと思っています。」

ムアワッドさんのお話2

ムアワッドさんご自身はツアーに向けて『私たちはみな鳥(Tous les oiseaux)』という作品の稽古中。主にイスラエル人とドイツ人の俳優が出演。初演時には劇場の外に当日券を求める人が長蛇の列をなすほどに評判になったという。

コリーヌ国立劇場のレストランは「連帯のレストラン 女性シェフたちの食卓」といい、三人の女性シェフが食事を提供している。かつては業者に委託して運営していた。だがムアワッドさんは、近所に料理がうまい人がいて、仕事を探しているのに、業者に委託するのはもったいない、と思い、この地区に住む人たちに声をかけて、運営してもらうようにしている。北アフリカの出身者が多い。

連帯のレストラン

衣裳を着けての場当たりが進む。

場当たり

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
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2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年9月20日

『顕れ』パリ日記(3) ~仕込み二日目・三日目、俳優到着、舞台美術サラディン・カティールさんの話~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月12日(水)

 
舞台スタッフは午前9時から作業。
午後5時頃、第二陣の俳優たちがパリ・シャルル・ド・ゴール空港に到着。大荷物。
スタッフは24時まで作業。

太陽と月

 

2018年9月13日(木)

午後2時に俳優が劇場に到着。別の稽古場でトレーニング。

トレーニング1

トレーニング2

劇場スタッフと顔合わせ。

顔合わせ1

顔合わせ2

舞台はだいぶ準備が整ってきた。
早速楽器や小道具を運び込み、設置。

楽器セッティング

この『顕れ』の舞台美術を担当してくれたのはサラディン・カティールさんという舞台美術家。現場で作業も進めてくれている。

サラディン作業中1

カティールはShizuoka春の芸術祭2010で上演した『彼方へ 海の讃歌』、ふじのくに⇄せかい演劇祭2013で初演し、世界各地で上演を重ねた『室内』、そしてふじのくに⇄せかい演劇祭2018の『夢と錯乱』など、近年のクロード・レジ演出作品の舞台美術を一手に引き受けてきた。SPACとの共同製作だった『室内』を一緒に作ってきたこともあり、気心の知れた仲間。

カティールは、はじめレジ作品の舞台美術を手がけていたダニエル・ジャンヌトー(今秋東京芸術祭で『ガラスの動物園』を上演)のアシスタントとして現場に入り、ジャンヌトーが演出家となってレジの現場から離れてからは、舞台美術のコンセプトや設計も手がけるようになった。フランスでは比較的珍しい、現場叩き上げの舞台美術家。もともとは舞台装置やインスタレーションを実際に作る仕事をしていて、川俣正の作品も手がけたことがある。素材選びと加工については自信がある、という。

サラディン作業中2

(参考)レジ『彼方へ 海の讃歌』奮戦の記(2010年4月19日)

サラディン・カティールさんの出自は、この『顕れ』の物語と少し関係している。

サラディン

カティールという名前はトルコ語から来ているが、トルコ人ではない。オスマントルコによるアルジェリア支配の名残だという。サラディンという名は十字軍から聖地エルサレムを奪い返し、エジプトにアイユーブ朝を樹立したクルド人の武将の名にちなんでいる。

両親は北アフリカ・アルジェリアの出身。お父さんはカビリア人。アルジェリアのカビリア地方に住むベルベル系の民族で、色が白い。サラディンさんがお父さんの故郷に行くと、「黒人」と見られるという。

お母さんもアルジェリア出身だが、色が黒かった。お母さんのお母さんはアラブ系とベルベル系のハーフのエジプト人で、色が白く、青い目をしていた。黒人のモーリタニア人と結婚したために、村から追放されたという。このお母さんのお父さんは元奴隷だった。

北アフリカのアラブ人たちは、かつてモーリタニアなどブラックアフリカの人々を奴隷としていた。そしてフランスによる北アフリカの植民地化が始まってからも、すぐに奴隷がいなくなったわけではなかった。お母さんは1936年生まれだというので、20世紀はじめの話。

カティールさんにしても、日本を通じてアフリカと出会うことになったわけで、ちょっと不思議な縁を感じる。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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