2018年12月11日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(14)アブドゥルアジーズ王世界文化センターのこと、仕込み初日

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月29日(木)

アブドゥルアジーズ王世界文化センターについて、改めて。

夜の「世界文化センター」、制作大石さん撮影(CG合成ではありません)。

夜の世界文化センター

ダーランは世界最大の原油生産量を誇る国営石油会社サウジアラムコが本社を構える石油の町。20世紀初頭には砂漠の片隅に過ぎなかった。だが、ここで1931年に発見された油田が、サウジアラビアの歴史を大きく変えることとなった。

サウジアラムコによって建てられたアブドゥルアジーズ王世界文化センターは、TIME誌による「今すぐ体験したい場所100選」特集の中で「世界で最も素晴らしい場所2018」として選出されている。2008年着工、2016年落成、2017年12月に正式オープン。劇場の他、博物館や図書館もある。オスロとノルウェーに拠点を置く設計事務所スノヘッタが設計を手がけ、10万平米の敷地に4億米ドルをかけて建設された。

上記リンクのサウジアラムコの日本語サイトによると、「知的探求、創造性、異文化交流を担い、国と地域の架け橋となることを目指し、サウジアラムコによる企業の社会的責任イニシアチブの一環として建設され」たとのこと。このイニシアチブは、今から85年前の1933年にサウジアラビアの初代国王で現国王の父にあたるアブドゥルアジーズ王がソーカル(現シェブロン)との原油採掘権契約交渉で、採掘がサウジ市民の利益となるものにするための条項を強く要求したことに由来する。このためもあって、このセンターには初代国王アブドゥルアジーズの名が冠されている。

世界文化センター公式サイトには、このように紹介されている。「世界は、発展し、変革し、変化しています。そしてサウジアラビアはさらに急速なスピードで変化しています。アブドゥルアジーズ王世界文化センター(Ithra)では、人間の可能性こそが変化の最も重要な源泉だと考えています。だから私たちは創造性を支援し、人の心にインスピレーションを与え、才能が開花できるようにすることを使命としています」としている。つまり、この世界文化センターは「急速に変化しつつあるサウジアラビア」の象徴として、その変化をさらに加速するべく作られたようだ。センターのアラビア語の通称「イスラー(إثراء, Ithra)」には「さらに豊かにする、知見や意識をさらに深める」という意味があるという。上演会場となる劇場は「イスラー劇場」と呼ばれている。

芸術監督のエリー・カラムさんは英語もフランス語も堪能なレバノン出身の演出家で、ヨーロッパの演劇事情にも詳しい。そのエリーさんが、ここで初めての本格的な演劇作品として、ヨーロッパの作品などではなく、あえてSPACの『マハーバーラタ』を選んだのは、この作品こそがサウジアラビア文化を「世界文化」とつないで変化を促し、さらに豊かにするのにふさわしいと思ってくれたためだろう。

技術スタッフと俳優の一部は午前8時半ホテルロビー集合、午前9時前に劇場入り。各セクションに別れて仕込みがはじまる。

舞台スタッフチーフの多くはヨーロッパ人。ベルギー人やフランス人が多くて、ここでもけっこうフランス語が通じる。不思議な感じ。

仕込み
仕込み2

一歩外に出てみると、少し曇っている様子だが、すごく眩しい。アブドゥルアジーズ王世界文化センターはちょっとストーンヘンジのようにも見える。

世界文化センターと大石さん

劇場前のウチワサボテンにイチジクのような実がなっている。

ウチワサボテン

サウンドチェックのためにスピーカーから大音量で音楽をかけていたら、突然ガイドツアーが劇場に入ってくる。アバヤを来てマイクをつけた女性のガイドさんが音響スタッフに声をかけて音楽を止めさせ、解説をはじめる。「この劇場ではロシアのマリインスキー劇場のオーケストラによるコンサートがあり、次回は『マハーバーラタ』の公演です!」等々(と言っているらしい)。たまたま劇場に入ってきた制作の方が「あー入って来ないでって言ったのに・・・」とあわてて確認に行く。

ガイドツアー

午後22時退館。

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『マハーバーラタ』(アブドゥルアジーズ王世界文化センターのウェブサイトへリンク)
https://www.ithra.com/en/eventshub/events/201812-mahabharata

『マハーバーラタ』サウジアラビア公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_saudiarabia2018.html
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2018年12月9日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(13)下見

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月28日(水)

 
ダーランは夏には50度近くなるときもあるというが、冬は過ごしやすい。今日は最高気温23度、最低気温16度。パリに比べると15度近く暖かいことになる。

午後1時半、女性陣はアバヤを試着。よく見るといろんなデザインがある。サウジで女性が公共の場所に出る際には、体の線が出ないように、このゆったりとした黒い服で体を覆う必要がある。

アバヤ

午後2時、劇場を下見。どこも真新しい感じ。まだあちこちで工事している。技術スタッフはベルギー出身の方が多い。制作米山さんとそっくりな方も。

客席

午後3時、芸術監督のエリーさん、芸術監督アシスタントのカイリーさんとお話。エリーさんはレバノン出身で、カイリーさんはオーストラリア出身。アヴィニョン演劇祭で『マハーバーラタ』と『アンティゴネ』を見てくれていて、昨年アヴィニョンで声をかけてくれたのはエリーさんだった。

エリーさんの話。
「みなさんがサウジアラビアに来てくれて本当にうれしい。この企画をなんとか実現できてよかった。この劇場はサウジアラビアではほとんど初めての本格的な西洋型の劇場で、一般のお客さんに見てもらうようになってからまだ6ヶ月しか経っていません。
この最初のシーズンはゲルギエフ指揮によるマリインスキー劇場のオーケストラで幕を明け、ロシアのクラウンやラジャスタン(インド)の音楽作品などを紹介してきましたが、ほとんどのお客さんにとって、本格的な演劇作品を観るのは『マハーバーラタ』がはじめてです。
全席を使うと850席ありますが、今回は舞台が見にくい席もありそうで、全部は売らない予定です。現状、予約は270席ほどですが、かなり多いともいえます。サウジでは、一週間以上も前に席を予約するような習慣はありません。そもそも、これまでは無料で見るのがふつうだったので、お金を払って劇場に来るような習慣もありません。席の料金は最大170リアル(約4000円)にしていますが、他に似たような劇場はないので、これが高いのか安いのか、なかなか判断が難しいところです。
サウジではSNSの利用率が世界一高いと言われています。前回のインド音楽のときも、初日が明けるまでは全然客席が埋まらずに不安でしたが、初日を見たお客さんからのSNSでの発信から火がついて、20人、50人単位での予約があり、あっという間に満席になりました。」

SPACを知らないどころか、そもそも「劇場」なるものもほとんどなく、「演劇」なるものを観る習慣もないこの国で、どんな人が予約してくれたのだろうか。

カイリーさんによれば、今年の6月24日に女性による車の運転が解禁されたほか、以前に比べて宗教警察による風紀の取り締まりもだいぶ少なくなってきているという。

夕方にホテル前の超巨大ショッピングモールへ。

お出かけ

家族連れなど、多くの人で賑わう。

家族連れ

女性だけの買い物客も多い。ファッションのお店のほとんどはZARAやMANGOなど欧米系のチェーン店で、品揃えは日本やヨーロッパのショッピングモールと大差ない。

ショーウィンドウ

そこにアバヤを来た女性たちがたくさん買い物に来ているのがすごく不思議だった。「アバヤを着た女性たちはここで買った服をどこで着るんですか?」と一緒に来てくれたエブラヒムさんに聞くと、「家のなかとか、パーティーのときとか」とのこと。「公共の場所」とそうでない場所とで、だいぶ着るものが違うらしい。

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『マハーバーラタ』(アブドゥルアジーズ王世界文化センターのウェブサイトへリンク)
https://www.ithra.com/en/eventshub/events/201812-mahabharata

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2018年12月8日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(12)サウジへ

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月27日(火)

パリからサウジアラビアへの移動。劇団SPACが宮城作品で西アジアに行くのは創立以来はじめて。

午前6時、チェックアウトしてバスで空港へ。眠い。

朝バス

サウジに運ぶ楽器などのエアカーゴの荷物をカウンターまで運び、チェックイン。

エアカーゴ荷物

今日の最終目的地はサウジアラビアのダーラン(ザフラーン)だが、その最寄りの空港はダンマーム空港になる。フライトはアラブ首長国連邦のアブダビ経由。実はパリから行くとダンマームの方がアブダビよりも手前にあるのだが、直行便がないため。ダンマームは石油の輸出港として知られる都市で、観光地でもない。そもそもサウジアラビアは巡礼に来るムスリム以外の観光客をあまり受け入れていない。サウジアラビアへの入国は、メンバー一同はじめて。宮城さんから、サウジ滞在中の注意事項など。

宮城さん注意事項など

朝10時過ぎ発の便で、まずはアブダビへ。6時間ほどのフライト。時差もあって、19時過ぎ着。

時差

そこで乗り換えて、21時過ぎ発のフライトで、サウジアラビアのダンマームまで約1時間半。ゲートで待っていると、好奇の視線を感じる。石油技術者でも商社関係者でもなさそうな東アジア人がこんなに大挙してダンマームに行くこともなかなかないのだろう。

アブダビ~ダンマーム

エティハド航空の座席スクリーンでは、便利なお祈り案内画面がある。これを見ると、何より重要なメッカの方向がわかるし、今日のお祈りの時間、そして次のお祈りまでの時間を知ることができる。

お祈り案内画面

サウジアラビアといえば、日本では第一に石油だろうが、ムスリムの方々にとっては、何よりもメッカ(マッカ)とメディナ(マディーナ)というイスラム教の二大聖地がある国。

メディナ

そのために、どこよりもイスラムへの思い入れが強い国でもある。そんな国で日本人がヒンドゥー教の聖典『マハーバーラタ』を上演するというのがどういうことになるのか。実際に行ってみないとわからないことばかり。

22時半頃ダンマーム着。ふたたびトラックに荷物を積み込む。

積み込み

バスでダーランへ。45分ほどの道のり。

ダーランへ

バスのなかで、迎えに来てくれた制作会社フィルムマスターのスタッフ、ウィリーとエブラヒムの二人と話す。ウィリーことワリードはバンクーバーの大学でウェブデザインを学び、六カ月前にフィルムマスターに就職。エブラヒムはインドのムンバイ近郊の大学でコンピュータ工学を学んでいたという。

二人によれば、上演会場のアブドゥルアジーズ王世界文化センター(King Abdulaziz Center for World Culture)は国営石油会社のサウジアラムコが建てて、運営している。はじめはアラムコの関係者だけが対象だったが、半年前から一般の観客も入場できるようになったとのこと。

やがて、世界文化センターが見えてくる。

世界文化センター1

この世のものとも思えない、ちょっとSFのような風景・・・。

世界文化センター2

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『マハーバーラタ』(アブドゥルアジーズ王世界文化センターのウェブサイトへリンク)
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2018年12月7日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(11)ラ・ヴィレット搬出

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月26日(月)

バラシ。リング状舞台から木材を外していく。

バラシ

日本に送り返す船便のコンテナの積み込み。ふたたび外の寒気のなかの作業。

積み込み

楽器などサウジへのエアカーゴ荷物も。こちらはトラックで搬出。

カーゴ荷物

16時、積み込み完了。ラ・ヴィレットのスタッフと記念撮影。

記念撮影

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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20

『マハーバーラタ』フランス公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_japonismes2018.html

ジャポニスム2018参加企画 ふじのくに魅力発信事業(SPACウェブサイト内/日仏併記)
静岡県は、ジャポニスム2018公式企画に選定されたSPACの『マハーバーラタ』公演を活用し、公演期間である2018年11月19日から11月25日の間、「Mt. FUJI × TOKAIDO(富士山と東海道)」をテーマに、パリ市内で静岡県の魅力を世界に向けて発信するさまざまな事業を展開します。
http://spac.or.jp/news/?p=14636
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2018年12月6日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(10)公演六日目・楽日

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月25日(日)

今日は雨模様だが、最高気温8度と、それほど寒くない。楽日。

今日も超満員で、多くの方にお断りしている状況。劇場入口にはチケットを求める方々。

チケットを求める方

というわけで、ふだん使っていない二階バルコニーを開放してもらって、内部関係者は上から見ることに。ふだん見えない舞台裏もよく見える。

劇場の人たちにも、作品がとても愛されているのを感じる。開演すると、案内係の方々が振りを憶えていて、舞台裏で曲に合わせて踊っていた。

赤い制服を着たセキュリティ責任者も、最後に神様が出てくる場面になると、一番見やすいところに出てきて、毎回楽しみに見に来てくれる。

二階バルコニーから

今日はアヴィニョン演劇祭技術ディレクターのフィリップさんが来てくださった。実は今回ラ・グランド・アールの舞台監督レミさんとフィリップさんは兄弟。

レミとフィリップ

今回上演している『マハーバーラタ』リング状舞台バージョンは、アヴィニョン演劇祭2014で初演したもの。伝説的な公演となったピーター・ブルック演出『マハーバーラタ』が上演されたブルボン石切場という野外の会場での公演だった。ここで日本の演出家が同じ『マハーバーラタ』を上演するというのは大変なチャレンジだった。

そこで空間デザインの木津潤平さんが提案したのが、リング状の舞台だった。通常石切場で使われていた客席を使わずに、舞台と客席の全体を作りなおすことになるこのかなりクレイジーなプランを実現するには、もちろん大変な労力と費用が必要になる。だが、このプランを見て、「これは今までで一番美しい舞台になる!」と確信を持ってアヴィニョン演劇祭の制作方を説得してくれたのが、技術ディレクターのフィリップさんだった。
*関連リンク:2014年7月6日「アヴィニョン演劇祭参加の記(2)」

そしてこれをちょうどラ・ヴィレットの理事長に就任したところのディディエ・フュジイエさんとプログラム担当のラファエラさんがアヴィニョン演劇祭で見てくれた。ディディエ・フュジイエさんは、これを新たな方向性を示す象徴になりうる作品と考え、ラ・ヴィレット芸術監督のフレデリック・マゼリさんが国際交流基金の支援も取り付けてこの企画を推進してくれて、これがパリでの日本文化紹介企画「ジャポニスム2018」の一環に位置づけられることとなり、四年越しで今回この公演を実現することができた。

円形舞台の全景を見ようと思うと、かなり高くから見る必要がある。二階バルコニーにいると、神様たちと同じ高さに立つことができた。お客さんは神様の視点を想像しながら見ることになる。

二階バルコニーから見た神様

このラ・グランド・アールでは、劇場スタッフが様々な努力を重ねてくれて、最後の場面で幕を開けると外の木々が見える演出をすることができた。この場面では登場人物たちがみんなで「神も獣も王たちも平和の訪れをこそ喜ぶべし」と声を上げる。ここでは人間の世界に外部があることが重要になる。この瞬間、これまで語られてきたナラ王とダマヤンティー姫の苦難の物語が突然、世界の片隅の小さな物語のように見えてくる。そして同時に、そこで見えてくる巨大な宇宙全体が二人を祝福しているようにも見える。


▲パリ千穐楽カーテンコール
 
今回のパリ公演も、なんだかあちこちから不思議な力が働いて実現したような気がしてくる。さらには、このパリ公演があったおかげで、サウジアラビアからの招聘にも応えることができることになった。イスラム教の聖地メッカを抱えるサウジアラビアで、日本人が演じるインドの神々がどのように受けとめられるのだろうか。

新たな出会いへの期待と不安に胸を高鳴らせながら、バラシ、積み込み準備。

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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20

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2018年12月4日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(9)公演五日目

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月24日(土)

 
静岡県の緑茶プロモーションの一環として、ショートパフォーマンス『喫茶去(きっさこ)』を上演。今年春の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」開幕式で、知事にも出演していただいた作品。「喫茶去」というのは、「まあお茶でも飲んで行きなさい」という意味で、中国のえらいお坊さんのお話。
*『喫茶去』の様子も紹介した演劇祭のブログはこちら:【シアタークルーレポート】開幕式

フランス語上演になるので、ラ・ヴィレットのラファエラさんにフランス語を聞いてもらって練習。

喫茶去仏語稽古

ラ・ヴィレットに「ちゃっきり節」が響き渡る。

ちゃっきり節

「リトル・ヴィレット」という子ども向けの施設の前で上演。

リトル・ヴィレット

小雨が降るなか、子ども連れの方もたくさん来てくださった。

喫茶去観客

静岡茶の呈茶サービスも。

呈茶サービス

「リトル・ヴィレット」では子ども向けの日本紹介企画も行われている。折り紙や鯉のぼりに加えて、クロード・レジ演出、SPAC俳優出演の『室内』で通訳をしてくださっていたパリ在住の俳優浅井宏美さんが紙芝居を披露。

紙芝居

『マハーバーラタ』はいよいよ超満員で、キャンセル待ちのお客さんも。今日は一席の空きもない状態に。

キャンセル待ち

熱い拍手、ブラヴォー。暖房が入って暖かくなったせいもあるかも。


 
終演後、ポストパフォーマンストーク。レンヌ大学演劇科のブリジット・プロさんの司会で、客席から宮城さんへの質問。

「日本の伝統演劇には死者の霊を慰める機能があるという話がありましたが、今宮城さんがやっていらっしゃる作品ではどんな死者を慰めるのでしょうか?場所と関係した死者でしょうか、それとも観客と関係した死者でしょうか?」と、パリ第三大学の学生さん。

「伝統演劇では、観客はひとつの共同体に属しているという前提があり、その特定の共同体を呪ったり護ったりする霊を慰めます。しかし現代の演劇ではお客さんがみんな同じ共同体に属しているわけではなく、それぞれ違う共同体に属し、それぞれ違う死者と関係をもっています。今の人たちだって、いろいろな形で死んだ方からも影響を受けていますよね。だから、そういった様々な死者全てに対応する必要があるのが、伝統演劇とは違うところです」と宮城さん。

帰り際のお客さんからも話しかけられた。「私の継母が悪い魔女のような女性で、画家である父親の相続問題で最近すごく辛い思いをしていました。この『マハーバーラタ』ではナラ王のほうが悪魔に取り憑かれているので、その反対のケースですね。でも、この作品を見たおかげで悪魔払いができたような気がします」とのこと。宮城さんによれば、この『マハーバーラタ』はスリランカの悪魔払いの儀礼に基づいている部分があるという。スリランカの農村では、「悪魔に取り憑かれた」という人がいると、村人が集まって円になり、バカバカしい小芝居をやったりして、どうにかしてその人を笑わせようとする。その人が笑うと、悪魔が落ちる。孤独に取り憑かれた人をふたたび共同体に繰り入れるための儀式だという。

アヴィニョン演劇祭で『マハーバーラタ』を見て、今回の上演を提案してくれた人の一人であるラ・ヴィレットのプログラム担当ラファエラさんは、ほぼ毎晩見てくださっていて、「この作品は私たちに本当に必要な作品だと思った。美しさ、そして宇宙を感じること。見るたびに幸せな気分になる。そんな作品はなかなかない」とおっしゃってくださった。

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2018年12月2日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(8)公演二日目 音楽の都ラ・ヴィレット

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月20日(火)

いよいよ気温が下がり、朝から雪がちらつく。

雪

今回公演している劇場は、ラ・グランド・アールの「チャーリー・パーカー・ホール」という。4000平米あり、コンサートでは1500席は組めるというが、今回は925席なので、贅沢な使い方といえる。

ラ・ヴィレットが音楽の中心地の一つになったのは、1980年代~1990年代のミッテラン政権(1981-1995)の文化政策に寄るところが大きい。ミッテラン政権では、かつて文化施設が少なかったパリ東部に文化施設を建設していく動きがあった。オペラ・バスティーユ(1989年)もその流れで作られたものだった。

ラ・ヴィレットには、1984年にロック・ポップスの聖地の一つとなる巨大なコンサートホール「ル・ゼニート・パリ(6000席)」、1990年にパリ国立高等音楽・舞踊学院とシャンソン・ホール(国立シャンソン・ヴァリエテ・ポップス遺産センター)、1990年代半ばには先鋭的なロック・電子音楽・ヒップホップなどのコンサートを紹介している私立のコンサートホール「ル・トラベンド」、そして1995年にはシテ・ド・ラ・ミュジークが設立された。さらに2015年にパリ管弦楽団の本拠地フィルハーモニー・ド・パリがここに移転してきた。

ヴィレット公園入口
▲ヴィレット公園入口

ヴィレット公園全体図
▲ヴィレット公園全体図

ル・ゼニート
▲ル・ゼニート

パリ国立高等音楽・舞踊学院
▲パリ国立高等音楽・舞踊学院

シャンソン・ホール
▲シャンソン・ホール

ル・トラベンド
▲ル・トラベンド

シテ・ド・ラ・ミュジーク
▲シテ・ド・ラ・ミュジーク

フィルハーモニー・ド・パリ
▲フィルハーモニー・ド・パリ

ここには耳の肥えたお客さんがたくさん来てくださっている。今日は『顕れ』の作者レオノーラ・ミアノさんがいらしてくださった。

レオノーラ・ミアノさん

ミュージシャンもアフリカ系の方々も、最後まで『マハーバーラタ』のジャンベの音を楽しんでくださっているよう。セキュリティ担当の方も、舞台がよく見えるところでじっと見てくれていた。ダブルコール。

二日目ダブルコール

終演後、NHKのインタビュー。

NHKインタビュー

レンヌ大学の学生60人が宮城さんと面会。バスで数時間かけて来てくれたという。「先生から何度も宮城さんの『マハーバーラタ』の話を聞いていたけど、実際に見てみたら、想像してたよりもずっとすごかった!」とおっしゃってくれた。

二日目レンヌ大学

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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
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2018年11月29日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(7)初日

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月19日(月)

寒さが厳しくなり、ラ・ヴィレット公園の木々からだいぶ葉が落ちてきた。

落葉

寒いが、気持ちのいい朝。ピクニックしている人も。

ピクニック

今日は初日。技術スタッフは朝9時入り。俳優は13時半からトレーニング、17時楽屋入り。

空間デザインの木津さんのお話。かつて大学で演劇をやっていて、舞台美術を手がけていたときに、舞台美術家として有名な朝倉摂さんのお話を聞きにいった。Q&Aの時間があったので、「野外での舞台美術で気をつけることは?」と聞いたら、「客席の方向を決めることくらいでしょうか」という、拍子抜けするような、意外な答えが返ってきた。

そのときには、その答えの意味があまりよく分かっていなかったが、実際に野外での空間デザインを手がけるようになって、ようやくその言葉の意味が分かってきたという。

このマハーバーラタには、「舞台美術」と呼べるようなものはほとんどない。そのかわり、舞台と客席の空間全体がかなり特殊な形でデザインされている。客席のまわりを円形の舞台が取り囲み、観客は舞台を見上げる。ヨーロッパの劇場では、客席は舞台を見下ろすように作られているので、舞台の見え方が大きく異なる。これはインドなどアジアの劇場の構造にヒントを得ているという。こうすることによって、観客は舞台に登場する神々を下から見上げることになる。

今回はすでに全公演ソールドアウトだという。

初日の客席

終演後、ダブルコールでお客さん立ち上がりはじめ、スタンディングオベーション。

初日ダブルコール
多くのお客さんが「ありがとう」と声をかけてくれる。

初日の感想。「神聖なものと卑俗なものとがつねに同時に現れているのが面白い」というお客さんが多い。

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2018年11月23日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(6)公開ゲネ(最終通し稽古)

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月18日(日)

技術スタッフは朝9時入り、俳優は13時半からトレーニング。

今日はゲネ(最終通し稽古)。ふつうは内部での最終チェックの場だが、「内部」のラ・ヴィレットのスタッフだけでも200人近く、その家族を含めて400人くらい来てくれるとのこと。さらに先月まで『顕れ』を上演していたパリのコリーヌ国立劇場のスタッフも50人近くといい、シルク・プリュム(ラ・ヴィレットで公演中のサーカス団)など、「関係者」だけで800人以上来ることに・・・。925席とのことなので、8割以上の入り。

ゲネの客席

そのなかで、ラ・ヴィレット側のご提案で、ふだん劇場になかなか来ることができない方々に、舞台を見ていただく機会を提供するために、難民支援のアソシエーションを通じて、難民としてフランスにいらした近隣の方々をご招待することになっていた。20人くらいの若いアフリカ系の方々が来てくれた。

私の隣に座っていた20歳前後のアフリカ系の女性は、ダマヤンティー姫とナラ王の夫婦が四年の歳月を経て再会し、ふたたび平和が訪れた、という場面で、マスカラが落ちるくらいに涙を流していた。賭けに敗れたナラ王は国を追われ、ダマヤンティー姫と森に入る。だがナラ王はダマヤンティー姫を置いて去ってしまう。ダマヤンティー姫が森のなかで虎や象や大蛇に出会いながら、命からがら自分を受け入れてくれる国にたどりつく、という物語を、この女性はかなり実感をもって受けとめてくれたのだろう。「来てくれてありがとう」と声をかけたら、とてもいい笑顔で「メルシー!」と返してくれた。

今夜の客席には何人ものダマヤンティーやナラがいたのだ、と気づかされた。
 

終演後にはフランソワーズ・ニッセン元文化大臣を囲んで、ちょっとしたレセプション。ラ・ヴィレットの方によれば、このレセプションルームはつい先週ここで開かれていた「パリ平和フォーラム」で60カ国以上の首脳が使っていたという。この場所で世界中の市民が各国首脳に世界平和実現のための提案をしていたかと思うと、感慨深い。

 
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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20

『マハーバーラタ』フランス公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_japonismes2018.html

ジャポニスム2018参加企画 ふじのくに魅力発信事業(SPACウェブサイト内/日仏併記)
静岡県は、ジャポニスム2018公式企画に選定されたSPACの『マハーバーラタ』公演を活用し、公演期間である2018年11月19日から11月25日の間、「Mt. FUJI × TOKAIDO(富士山と東海道)」をテーマに、パリ市内で静岡県の魅力を世界に向けて発信するさまざまな事業を展開します。
http://spac.or.jp/news/?p=14636
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SPAC海外ツアーブログ
アヴィニョン演劇祭参加の記:2014年『マハーバーラタ』『室内』上演記録
アヴィニョン法王庁日記  :2017年『アンティゴネ』上演記録
『顕れ』パリ日記2018 :宮城聰最新作『顕れ』上演記録
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2018年11月22日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(5)稽古2日目

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月17日(土)

天気のいい朝。ラ・グランド・アールの前にある「ライオンの噴水」が青空に映える。

ライオンの噴水

この鋳鉄製の噴水は革命後間もない1811年、当時最新鋭の技術を動員して作られ、今のレピュブリック広場にあたる場所に設置された。この噴水ができてから、ここは「給水塔広場」と呼ばれ、近隣に水を供給する役割も果たしていた。だがラ・ヴィレットに肉市場がオープンした1867年、オスマン男爵によるパリ大改造の一環として、「給水塔広場」には青銅製のより大きな噴水が作られ、この「ライオンの噴水」はラ・ヴィレットに移築されて、ここに連れられてきた動物たちに水をやる場となった。

技術スタッフは朝9時入り、俳優は12時半からトレーニング。

トレーニング

明日のゲネ(最終通し稽古)に備えて、各場面を入念にチェックしていく。

神様

ラ・グランド・アールの巨大な天井に俳優の影が伸びる。

影

「はい、じゃあラップ、「ずいずいずっころばし」のところ、お願いします」と宮城さん。そんな場面あったかな・・・。

ラ・グランド・アールのガラスと鉄骨の構造を見てみようと幕を開けたら、目の前にあるシャンソン・ホールの赤いネオンがすごく目立つ。

外のネオン

ラ・ヴィレットを通じて、シャンソン・ホールと交渉。

22時退館。夜のライオンたち。

夜の噴水

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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20

『マハーバーラタ』フランス公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_japonismes2018.html

ジャポニスム2018参加企画 ふじのくに魅力発信事業(SPACウェブサイト内/日仏併記)
静岡県は、ジャポニスム2018公式企画に選定されたSPACの『マハーバーラタ』公演を活用し、公演期間である2018年11月19日から11月25日の間、「Mt. FUJI × TOKAIDO(富士山と東海道)」をテーマに、パリ市内で静岡県の魅力を世界に向けて発信するさまざまな事業を展開します。
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