2010年4月15日

ボゴタ演劇祭参加の記⑧ 千秋楽

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

4/5

公演五日目、千秋楽。

コロンビアを代表する新聞の一つ「エル・ティエンポ」紙に『王女メデイア』の記事が出る。末尾に訳出。

今日のクローズアップ、ヘアメイクの梶田キョウコさん。宮城作品には欠かせない存在である。宮城さんとは深夜代々木のデニーズでたまたま隣になって知り合ったという。

梶田キョウコさんとフルーツいっぱいのコロンビアの朝食

梶田キョウコさんとフルーツいっぱいのコロンビアの朝食

『王女メデイア』では、楽屋入り二時間の間に、女優7人の髪をつくる。メデイア役の美加理さんの髪には一時間近くかけるという。限られた時間の中でそれぞれにかかる時間を計算し、仕上げていく職人技。

劇場入りする梶田さんと女優たち

劇場入りする梶田さんとメデイア女優陣

ヘアーメイク事務所「レサンクサンス」を運営しながら、ご自身でもアーティストとして活躍しつづけている。舞台は映像よりもお客さんが三次元で見てくれるのでやりがいがあるという。宮城さんとの仕事は2003年に日比谷公園で上演された『サロメ』以来で、フランス、インドネシアなどのツアーにも同行。宮城さんは要求が高くて、つねにハードルを上げられていくのに応えるのが楽しい、とのこと。頼もしいお人である。

「レサンクサンス」

http://les-cinq-sens.com/

ブログにボゴタでのことも書いてくれています

http://ameblo.jp/les-cinq-sens/page-1.html#main

今日はスタッフ11時発、俳優12時45分発。

11時、ホテルにオマール・ポラスが来る。再会を祝して、俳優たち一人一人と抱き合う。

オマール、宮城さん、俳優の三島さん、たきいさん(オマール・ポラス演出『ドン・ファン』に出演)とレストランに。アマゾン流域の原住民たちから学んだ食材でやっているという「ミニマル」というお店。”Cocina contemporanea sorprendentemente colombiana”、コンテンポラリーで驚くほどコロンビア的な料理、といったところか。オマールによればコロンビアには数百種類の果物があるという。早速6種類のフルーツジュースを注文。どれもみずみずしくて、身体に浸みる。野菜や根菜、バナナやフルーツ、肉、魚、香辛料、見たことないものばかりだが、何もかもキトキトでおいしい。ペットボトルなど廃材を使ったオブジェなども売っている。

「ミニマル」

http://www.mini-mal.org/

ミニ-マルで

ミニ-マルで 宮城さん、オマール、三島さん、たきいさん

『ドン・ファン』の思い出話や進行中の企画の話などしながら食事をしていると、あっという間に時間が経ってしまい、あわてて劇場へ。到着後間髪入れずにトレーニング開始。オマールはじーっと見学。

14時30分、最後の宮城さん稽古。ムーバーの仕草と気持ちの関係を確認したり、台詞の抑揚・強弱を調整したり、一秒弱の間をなくすために細々と打ち合わせたり。オマールは俳優に見せる宮城さんの仕草をしげしげと観察。一時間弱で切り上げ、「あとは思い残すことのないように、各自で」と自主稽古。

午後、一天にわかにかき曇り、車軸を流すような雨。あっという間に道路が河のようになる。

20時、雨の影響で道路がかなり混雑していたらしく、遅れ客が多くて客席がざわついている。ウラでは多くの俳優が酸素マスク(劇場に常備、高地ならではである)を使っていたという。さすがに疲れが出たのだろうか。

だが、俳優たちは客席の混乱にもかかわらず集中力を失わず、楽日にふさわしい舞台となった。一階席はほぼ総立ち、コール5回。5回公演、最後まで満席だった。

メデイア、さようなら! 千秋楽のコール(技術部中野さん提供)

メデイア、さようなら! 千秋楽のコール(技術部中野さん提供)

今日は月曜日ということもあり、フェスティバル関係者や俳優、演出家などプロの観客が多かったようだ。ブルキナのカンパニーも見に来てくれた。というか、こういったプロの観客も見られるように、わざわざフェスの期間を一日延長してまで5回公演にしたようだ。今回は全てソールドアウトだったので、次回はもっと公演数を増やしたいという。

関係者によれば、ボゴタ演劇祭には国外から85団体、国内からは100団体以上が参加し、17日間にわたって1,000近くの公演が行われたという。まさに世界最大の演劇祭である。

出口に立っていると、観客たちが次々にグラシアス、と声をかけてくれて、質問を投げかけてくる。また来てくれ、ボゴタをホームだと思ってくれ、などと泣ける言葉も。また来るぞ、と誓いつつ、最後のお客さんを見送って劇場に戻る。オマール・ポラスとファビアナは劇場内の俳優・スタッフに声をかけてから、裏口へ。タクシーを待ちながら、二人がメデイア、イアソン、子ども、乳母と、次々と真似てみせる。

楽日スペシャル クレオンとカフェで記念写真

クレオンとカフェで記念写真 アンヘリカ(通訳)、片岡さん、カルメンサ、ユキ(通訳)

二人を見送って劇場に戻ると、バラシの打ち合わせ。すぐにバラシがはじまり、次々と舞台が空になっていく。

装置と共に奈落の底へと下っていく

奈落の底へと降りていく技術主任・村松さんと装置

つかの間の出会いに感謝しつつ、サヨナラだけが人生の旅芸人生活を終え、静岡への長い帰途に着く。

サヨナラ、ボゴタ! エコカーでの旅路

サヨナラ、ボゴタ! エコカーでの旅路

『王女メデイア』は6月19日、26日に舞台芸術公園・野外劇場で上演の予定。

今度はどんなお客さんと出会えるのだろうか。

http://spac.or.jp/10_spring/medea

「西洋と東洋をつなぐ『メデイア』

ラウラ・ガルシア(女優・演出家)

(前半はあらすじ紹介、略)

演出家・宮城聰の『メデイア』は東洋と西洋とを見事につなぐ。だが、舞台の床には、一滴の血が大きく広がっている。殺人が行われると、赤いライトが舞台を照らす。

ほとんど変化がなく、ストイックな表情の動かない身体が歪みを見せ、時には不運に見舞われた鳥のように動く。声のない顔。なぜなら彼女の声は、背後から来るのである。声を出すのは楽隊の前に座っている黒い服を着た俳優である。つまり、この静岡県舞台芸術センターによる演出は、髪を引っ張り合い、目玉をひっくり返しながらオリンポスの神々や地獄の神の力を召喚したり、予期された悲劇的な運命が全てを運び去る竜巻のように轟音を上げるわけでもなく、全く予想もつかなかったような演技のスタイルなのである。語りの合間に、俳優たちは酒を飲んだりお茶を飲んだりする。従順な芸者が遊客の間を飛び回る。知識と文明化された世界を守りつづけていた、横にある金属製のタワーが、クライマックスで本を投げ出す。女性の情念の「野蛮」が、イアソンによる重婚を正当化するために持ち出す「理性(理屈)」に勝利する。作品のエピローグでは、現代のメデイアとなった芸者たちが、絹の赤いドレスを着て、横柄で尊大な遊客を打ち倒し、強大な女性の独立を打ち立てるのである。」

「エル・ティエンポ」紙、2010年4月5日

「エル・ティエンポ」紙の記事

「エル・ティエンポ」紙の記事


2010年4月8日

ボゴタ演劇祭参加の記⑦ 公演四日目

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志


4/4

公演四日目。

17時開演なのでスタッフ9時15分発、俳優10時15分発。

トレーニング・昼食の後、13時30分から宮城さん稽古。主にムーバーの動きをチェック。

16時、毎日恒例の阿部一徳さん(メデイアのスピーカー)の声出し。劇場が震える。

16時25分、やはり恒例の暗転チェック。最後の暗転のために、明かり漏れを徹底的にチェックしていく。字幕担当の丹治とロシオが字幕用プロジェクターの明かりを隠すために走り回る。コロス役の俳優たちが楽屋から出てスタンバイ。

こうして16時30分に客席を開場し、本番へと突き進んでいく。劇場前でお客さんにブエノスタルデス、ブエノスタルデスと声をかける。

というわけで、今回は字幕担当の丹治とロシオをクローズアップ。

二人とも外国語はあまりできないので、日本語とスペイン語でふつうに会話している。なんだか、だいたい通じているのが不思議である。今回、通訳は二人いるものの、字幕担当は舞台から遠く離れた二階客席で孤独な作業をしているので、いちいち通訳を呼ぶよりは、身ぶり手ぶりと片言の英語で済ませた方が早いのである。実際、技術スタッフ同士の会話だと、はじめは通訳を通して話していても、途中から直接話すようになって、なんとなく通じてしまうことが多い。通訳よりもスタッフ同士の方が機材も作業の目的も理解しているので、魚心あれば水心なのである。

『王女メデイア』の装置と左右の字幕

『王女メデイア』の装置と左右の字幕

SPAC制作部の丹治陽(たんじ・はる、制作部)は字幕操作のプロでもある。ドイツ語だろうがロシア語だろうが中国語だろうが、どんな舞台の字幕でもこなしてしまう。海外作品の日本公演の場合には通訳と組んでやるのが普通だが、場合によっては音と仕草を頼りにきっかけをつかみ、一人でやってしまうこともある。

制作部・丹治

制作部・丹治

字幕操作は、舞台とのあうんの呼吸が重要になる。字幕が遅れてしまうと観客がいらいらするし、かといって早く出過ぎると、先にネタがばれてしまって、笑いが出なくなってしまったりする。だが、このタイミングを合わせるには、ネタの方を調整するしかない場合も多い。台詞を話す時間に対してテクストが長すぎると、観客が読み終える前に次に行ってしまうわけにも行かず、遅れてしまうし、逆に短すぎると、「こんなにしゃべっているのにこれだけしか出ないのか」と思われてしまう。

字幕のテクストはたいていは翻訳者が台本とDVDをもとに作っていくのだが、実際本番前の稽古で合わせてみるとなかなか合わないことが多い。時間が経つと俳優の間も演出も変わったりするので、仕方のないところである。それを合わせるため、通訳さんと一緒に、毎日足したり引いたり、細かいタイプミスをチェックしたりする。

ロシオは公演ごとにコンピューターとプロジェクターを持ち帰り、毎回全部設置し直すので(というわけで毎回左右二つのプロジェクターのフォーカスを合わせるために二階客席を走り回ることになる)、ロシオが劇場に来てから公演までに使える時間に応じて、どこまで直せるか計算して、作業を進める。

それに加えて、プロジェクターで出す場合には、スクリーンの大きさや場所などによって、一行に入る字数が変わってしまう。なので「ちょっとスクリーン(プロジェクター)の場所を変えようか」という話になると、全てのコマの行数を再調整しなければならない。

というわけで、だいぶ合うようになってきたなあ、と思ったら楽日、というのが字幕担当の日々なのである。

練りに練られた字幕の甲斐もあってか、今日はいよいよ盛り上がっている。コール5回、ブラボー、一階席総立ち。

より緻密に見てくれるようになったのか、今回ははじめて、音楽終わりでは拍手がなく、暗転ではじめて拍手が起きた。



2010年4月7日

ボゴタ演劇祭参加の記⑥ 公演三日目

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

4/3

公演三日目。

20時開演なので、ようやくゆっくり眠れる朝。

スタッフは11時ホテル発、俳優は13時ホテル発。

ちょっと散歩する人と、ひたすら寝倒す人に別れている。

私はホテルの近所の闘牛場(ラテンアメリカ最大規模とのこと)まで歩いてみる。往復20分。

サンタマリア闘牛場

サンタマリア闘牛場

午後はみっちり稽古で、演出・演技プランの微修正も。

その甲斐あって、とてもいい舞台になった。

いつもながら熱狂的な反応。

イアソンの「夫が他の女をめとって喜ぶ女はいないだろう云々」という台詞で、必ず笑いが起きる。通訳のアンヘリーカによれば、コロンビアではマチスモ(男性優位主義)が根強いので、それに対する皮肉も理解されやすいのでは、とのこと。

今日はSPAC版『ドン・ファン』で静岡に来ていたテアトロ・マランドロの名物技術ディレクター、ジャン=マルクが観劇してくれた。「いやーよかった、女たちが男に復讐してくれてすっきりしたよ」とのコメント。終演後ホテルに戻り、ジャン=マルクを囲んで、『ドン・ファン』で共に戦ったSPAC技術スタッフたちとコロンビアビールの杯を交わす。ジャン=マルクはかつてインドのケララ州に4年以上滞在してカタカリを学んでいたという。信じられないほど多くの国に住んだことがあって、聞けば聞くほど波瀾万丈の半生である。「引退してカフェでだらだらと世間話をするような人生は耐えられない」と、コロンビア・スイス・フランス・スペイン等々をめぐるオマール・ポラスの新作『シモン・ボリーバル』ツアーの準備に余念がない。

ファビアナ、ジャン=マルクと『ドン・ファン』組のメンバーたち

ファビアナ、ジャン=マルクと『ドン・ファン』組のメンバーたち

深夜12時、シャトルバスに乗って、フェスティバルのメイン会場の一つ「エル・シウダード・テアトロ(タウン・シアター、といったところだろうか)」に向かう。ここでは巨大なテント(「ラ・カルパ」)が二幕張られ、昼間は家族向けの芝居やスタンダップコメディー、大道芸などをやっているのだが、夜になると有名なラテンバンドやDJが次々と登場し、参加カンパニーのメンバーやフェスティバル関係者たちが踊ったりお酒を飲んだりするフェスティバルバーに変身する。ファビアナや通訳のユキさん、アンヘリーカさんに出会い、歩いているとファビアナが次々とコロンビア内外の演劇人に紹介してくれる。人に会うたび、「おぉ、あの『メデイア』のメンバー?あれはすごかった、今回三つ『メデイア』を見たけど、日本のが一番よかったよ」等々と感想を言ってくれてうれしい。ちょっと話してみると、すごく細かく見てくれていて、ここに来ている演劇人の目の高さが分かる。

午前2時のシャトルバスでホテルに帰る。さすがにへろへろ。しかし同じバスで帰ったファビアナは、翌朝8時から舞台の稽古だという。ブルキナ版『メデイア』の主演女優オディールさんも同じバスで、翌朝10時から観光とのこと。二人とも連日「ラ・カルパ」に通っているようだが、どういう体力なのだろうか。


2010年4月6日

ボゴタ演劇祭参加の記⑤ 公演二日目

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

4/2

公演二日目。

今日は17時と早めの開演なので、やはりスタッフは9時入り、俳優は11時入り。

宮城さん、阿部さん、美加理さんは「メデイア・シンポジウム」出席のため、10時30分にホテルを出てルイス・アンヘロ・アランゴ図書館へ。なんともう一つのシンポジウム出席カンパニーの通訳として、SPAC版『ドン・ファン』(オマール・ポラス演出)の演出助手だったファビアナが同じバスに乗り込んでくる!「こんなところで何してるんだ」というと、「何いってるの、ここが私の街なんだから」といわれる。その通りである。

はじめて旧市街に足を踏み入れる。ホテル近辺とは違ってちょっと華やかな雰囲気。家ごとに壁の色が全く違って面白い。オマール・ポラスの拠点も、ファビアナに教えられてちらっと見たものの、もちろん観光する時間などなく、粛々と図書館内のホールに入っていく。150人くらいの会場だろうか。

コロンビア全土の演劇学校の先生と生徒が対象とのこと。開始時刻を過ぎても人影がなく不安だったが、やはりなぜか開始時刻をちょっと過ぎるとどっと客が入ってきて、あっという間に席が埋まる。

今回のシンポジウムは、やはり同時期に『メデイア』という作品をやっているブルキナ・ファソ(西アフリカ)のカンパニーからも三人が出席して、それぞれの『メデイア』に対するアプローチを語る、というもの。司会の方は女性の権利のために30年(?)闘い続けてきた自称「穏健派フェミニスト」の女性弁護士。

『メデイア』シンポジウム

『メデイア』シンポジウム

通訳のファビアナが、ブルキナの女優がフランス語で話したあと、なぜかスペイン語ではなくフランス語で訳し出して、会場からくすくすと笑いが起きる。本人はなかなか気づかず、会場の雰囲気を見てふと我に返り、赤くなって、会場はさらに爆笑。相変わらずお茶目である。おかげでだいぶ客席の緊張がほぐれた。

演出のアプローチ、日本とアフリカにおける女性の立場などについて、それぞれのカンパニーの出席者が語ったあと、質問タイムになり、会場から次々と手が上がって質問に答えていく。この時点でかなり時間は押し気味だったが、予定終了時間の1時近くなって質問を打ち切り、司会の方が話を引き取って、シメに入るかと思ったら、おもむろに原稿を読み出し、なかなか話が終わる気配がない。会場もなんだかけっこうウケている。阿部さん、美加理さんがいないと稽古がはじめられないので、あわてて同行の芸術局長成島さんが俳優二人に声をかけ、拍手を浴びていそいそと退場。

そのあと3時過ぎに劇場に入り、字幕をちょこちょこチェックしたら、あっという間に客席開場、17時開演。

子どもの登場で必ず笑いが起きる。ようやくワヤワヤと動く身体が出てきてホッとするのだろうか。

今日も大入り、昨日と同じく熱狂的な反応。最終日までソールドアウトだという。

公演後すぐバスに乗り込み、コリセオ・エル・カンピンという武道館のような巨大な会場で、コンパニーア・デ・ダンサ・アエレア(アルゼンチン)という空中舞踊専門のカンパニーの作品を見てから、22時30分頃ホテルに戻った。

宿泊先 ボゴタ・クラウンプラザ・テケンダーマ・ホテル

宿泊先 ボゴタ・クラウンプラザ・テケンダーマ・ホテル


2010年4月4日

ボゴタ演劇祭参加の記④ 初日

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

4/1

ついにどきどきの初日である。

劇場前のポスター

劇場の前 メデア、ハポン!

朝からうれしいニュース。初日に合わせたかのように、行方不明になっていた女優池田さんのスーツケースがホテルに届く。どうも本当に神様はいるらしい。

スタッフは連日朝9時から作業。俳優は11時15分から訓練。

午前中、昨日通し稽古を見た劇場カフェのカルメンサさんから、「すごく美しい舞台だったのに字幕が読めなくてとても残念だった」との指摘があった。この方、いつも気がつくと舞台や客席に顔を出して、舞台の進行を見守っていた。どうもかなり芝居が好きらしく、15年前から劇場に勤めていて、この劇場でやった全ての作品を見ているという。他の劇場にも足を運んでいるらしい。こういう方の意見は貴重である。

カフェのカルメンサさん(右)と通訳のアンヘリーカさん

カフェのカルメンサさん(右)と通訳のアンヘリカさん(左)

早速、字幕を見やすくするために案を出し合い、百家争鳴・試行錯誤の末、上部にあった字幕を取り除き、左右に出すことに。思えばこれも海外公演の初日のたびにこんなことをやっている気がする。

舞台の作業に区切りをつけ、午後は舞台稽古。

ムーバー*の女優たちの稽古。着物の裾の動き、帽子の飛ばし方など、昨日の通しでうまくいかなかったところを、舞台の感触を確かめるようにして、何度も繰り返していく。

スピーカー*の男優たちによるコロスの稽古。微妙な音程・間合いをお互いの声を聞きながら調整していく。

パーカッションの演奏もあって舞台上には音が溢れているので、ガヤガヤの中から一つの声が飛び出していくところなど、きっかけをつかむのがとても難しい。ちょっと間を間違えると、重要な台詞が埋もれてしまう。

女優たちによる演奏稽古。やはり舞台上では多くの音が混じってしまうので、語りの声に合わせるところなどは難しいらしい。モニター**を細かく調整しながら、音響空間をつかんでいく。アフリカンパーカッションが次第に盛り上がっていくところでも「我を忘れず、Be coolで!」と声を掛け合う女優陣。廊下に出てみると、ジャンベのリズムに合わせて掃除のおばさんが踊っている。さすがサルサの国である。

*この作品は二人一役で、動く俳優と語る俳優に別れている。動き担当の俳優をムーバー、語り担当の俳優をスピーカーという。

**客席で聞こえる音を舞台上にいる人が聞こえるようにするためのスピーカー(こちらは俳優ではなく電気器具)

15時、プレス用リハーサルとインタビュー。コロンビアのテレビ・新聞など八社が熱心に取材。熱心すぎて、いきなりカメラが演出家席の真ん前に陣取ってしまったり。舞台を背にしてリポーターが(一応ひそひそ声で)「ただいま稽古がはじまりました!」などと(たぶん)実況中継。

プレスに囲まれる宮城さん、美加理さん、阿部さん

プレスに囲まれる宮城さん、美加理さん、阿部さん

さらに稽古を重ねたあと楽屋入り。いよいよ本番である。

20時、開演時間。ソールドアウトと聞いていたのに、まだけっこう客席が空いている。5分押しで20時5分には開演、という段取りだが、不安。

受付に並ぶお客さんたち

受付に並ぶお客さんたち

劇場入口でフェスティバルグッズを販売

劇場入口でフェスティバルグッズを販売

と思っていると、その5分間のあいだにドッと観客がおしよせ、みるみるうちに900席が埋まってしまった。本物の超満員である。

人形のようにまばたきもせず、客席側を凝視しつづける、美加理演じるメデイア。客席も固唾を飲んで見守っている。これだけ動かない俳優を見るのはきっとみんなはじめてだろう。

字幕で時折笑いも起きる。劇的アイロニーが伝わっていて、ホッとする。

悲劇が完結し、パーカッションの最後の音が鳴り止んだ瞬間、割れるような拍手。暗転後さらに熱い拍手とブラボーの声で四回のコールがあり、最後には客席の半分近くがスタンディングオベーションで、一階席では観客がどんどん舞台に近寄っていっていく。

満面の笑みを投げかけてくる観客にグラシアス!と声をかけると、グラシアス!と答えてくれる。なんだかとても幸せな初日であった。

気を引き締め直して、明日は二日目。


2010年4月2日

ボゴタ演劇祭参加の記③

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

3/31

公演前日。

今日は朝から照明フォーカス、午後に演奏稽古、サウンドチェック、塔・字幕仕込み、場当たりと順調に進んだ・・・ようである。助成金申請の締切があって、あまり舞台の状況を見ることができなかった。

17時楽屋入り、19時45分ごろ、ついに通し稽古が始まる。私にとっては、思えば8年ぶりの『王女メデイア』である。実をいえばこの舞台、20回以上見ている。2001年モロッコツアーで通訳を務め、翌年のフランスツアーで字幕制作・操作をやったので、台詞もほとんど憶えてしまった。

なのに、ここボゴタで見て、美加理さん演じるメデイアが毒薬を用意するあたりからなんだか涙腺がゆるんできた。それまで極度に動きを制限されていた身体が身悶えをはじめる瞬間。ここ数年、演じられなかった時間のなかで、舞台がとても成熟した気がする。通しが終わると、すっかりお客さんのつもりで拍手してしまった。

明日はついに本番。どんなお客さんが来るんだろうか?

楽しみである。

ホテルのフェスティバルグッズコーナー

ホテルのフェスティバルグッズコーナー

コルスブシディオ劇場客席

コルスブシディオ劇場客席

劇場前の街並み

劇場前の街並み


ボゴタ演劇祭参加の記②

ボゴタ演劇祭参加の記
SPAC文芸部 横山義志
3/30
8時半にホテルを出て9時にコルスブシディオ劇場着。とても立派なオペラ劇場で、4階席まであって、客席が真っ赤。ボゴタ演劇祭で一番いい劇場だという。
プログラムを見てみると、ロバート・ウィルソン、ピーター・ブルック、フランク・カストルフなど世界の巨匠が目白押し。劇場だけではなく、大学から公園まで、ボゴタ市内のあらゆるスペースが劇場になって、アジア・南北アメリカ・ヨーロッパ・アフリカの最先端の舞台が集まり、子ども向け・ファミリー向けの作品もあちこちで上演されている。
EL FESTIVAL ES TUYO, このフェスティバルはあなたのもの、が演劇祭の合い言葉。
http://www.festivaldeteatro.com.co/
宮城聰演出の『王女メデイア』は3月19日にはじまった今年の演劇祭の大トリで、4月1日から5日までの5回公演。つまり明後日が初日である。早速9時から仕込みが始まる。
空の劇場がみるみるうちに『王女メデイア』の世界に、と思いきや、ハプニング続出でなかなか作業が進まない。劇場側で作ってくれた土台の寸法が注文と違う。やっぱり作ってくれているはずだった階段は、9時に届くはずが、10時になっても11時になっても、12時になっても、「もう一時間くらいで届く」・・・。結局午後になっても届かず、稽古の時間も取れなくなりそう。泣く泣く、持ち込んだ平台を切って階段を作ろう、という話になり、今まさにノコギリを入れようとした瞬間、階段が運び込まれてきた。技術主任の村松さんが「神様がいるんじゃないか」と口にしていたとのこと。
今日はぎりぎりまで粘って22時45分劇場退出。明日もハードな一日になりそうである。

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

3/30

8時半にホテルを出て9時にコルスブシディオ劇場着。とても立派なオペラ劇場で、4階席まであって、客席が真っ赤。ボゴタ演劇祭で一番いい劇場だという。

プログラムを見てみると、ロバート・ウィルソン、ピーター・ブルック、フランク・カストルフなど世界の巨匠が目白押し。劇場だけではなく、大学から公園まで、ボゴタ市内のあらゆるスペースが劇場になって、アジア・南北アメリカ・ヨーロッパ・アフリカの最先端の舞台が集まり、子ども向け・ファミリー向けの作品もあちこちで上演されている。

EL FESTIVAL ES TUYO, このフェスティバルはあなたのもの、が演劇祭の合い言葉。

ボゴタ国際演劇祭サイト

宮城聰演出の『王女メデイア』は3月19日にはじまった今年の演劇祭の大トリで、4月1日から5日までの5回公演。つまり明後日が初日である。

サイト内の『王女メデイア』紹介

早速9時から仕込みが始まる。空の劇場がみるみるうちに『王女メデイア』の世界に、と思いきや、ハプニング続出でなかなか作業が進まない。劇場側で作ってくれた土台の寸法が注文と違う。やっぱり作ってくれているはずだった階段は、9時に届くはずが、10時になっても11時になっても、12時になっても、「もう一時間くらいで届く」・・・。結局午後になっても届かず、稽古の時間も取れなくなりそう。泣く泣く、持ち込んだ平台を切って階段を作ろう、という話になり、今まさにノコギリを入れようとした瞬間、階段が運び込まれてきた。技術主任の村松さんが「神様がいるんじゃないか」と口にしていたとのこと。

今日はぎりぎりまで粘って22時45分劇場退出。明日もハードな一日になりそうである。

カンパニー用バス ベンツらしい

カンパニー用バス ベンツらしい

裸の舞台

裸の舞台

みんなでヨイショ(見にくくてすいません)

みんなでヨイショ(見にくくてすいません)

だいぶ組み上がった舞台

だいぶ組み上がった舞台


2010年3月31日

ボゴタ演劇祭参加の記①

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志

3/29

SPAC宮城作品でははじめての海外ツアーである。ボゴタってどこだ、とお思いの方のために一応言っておけば、南米コロンビアの首都。ボゴタ・イベロアメリカ演劇祭といえば世界三大演劇祭の一つで、なんだか大変な演劇祭らしい。とはいえフェスティバルについての日本語情報は少なく、私も今回はじめて実物を目の当たりにするので、見たこと聞いたことなど、書き記しておこう。

静岡芸術劇場を朝8時30分に発ち、ついさっき23時頃にホテルに着いたのだが、時差がマイナス14時間なので、実際にはかれこれ28時間近くバス・飛行機・バスの旅路を続けていたことになる。飛行機だけならヒューストン乗り継ぎで、乗っていた時間は正味17時間。遠かった・・・。標高2600メートルの高地にあるので、途中で高山病対策の薬を飲む。

ホテルに着き、先発組の俳優たちと合流。総勢34名の大集団である。スーツケースが出てこなかった俳優がいたものの(これはかなり困った・・・)、とりあえずまだ病人は出ておらず、一安心。

技術スタッフたちは超長旅の疲れも見せず、いきなりそのまま一路劇場へ。私は劇場に行っても役に立たなそうなので、とりあえず休んで明日に備えよう・・・。