2018年9月30日

『授業』ブログ~【レッスン4】舞台裏はナンセンスではなくハイセンス!! vol.1~

Filed under: 『授業』2018

すっかり涼しくなり、芸術の秋ですね。
はじめまして、こんにちは!
9月18日よりインターンでお世話になっております、昭和音楽大学の杉山悠里と申します。
普段大学では舞台の演出部としての勉強をしておりますが、今回は『授業』という作品の制作として活動させていただいております。

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▲ 左:稽古に立ち会わせていただいたときの私。

今回の「SPAC秋→春シーズン」の第1作目である『授業』はストーリーも分かりやすく、俳優陣の熱量も高い必見の舞台となっております!
そこで皆様に私の目線で『授業』のすばらしさを少しでもお伝えできればと思います。
お付き合いよろしくお願いいたします!

ご存知かもしれませんが、舞台には多くのスタッフが関わっています。具体的に言えば、すぱっく新聞のここ!
     ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
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ちっちゃ!演出家や俳優に比べてちっちゃ!!!
しかし、彼らはそれぞれ舞台のウラカタに人生をかけるプロフェッショナル。
今回はそんな皆様をインタビュー形式で少しだけご紹介いたします!

 
まずは美術デザイン香坂奈奈さん

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▲ 舞台セットに色を塗る香坂さん

―今回の注目ポイントを教えてください。
(香坂) 今回私は稽古の途中からの参加だったのですが、前々から演出家の西さんが「空っぽの舞台」を求めているというのは聞きました。ですが、美術家として、何もしないわけにはいきません。「無」を表現することをテーマとしました。ルント幕を使い、角をなくしたのもそのせいです。角ばった舞台空間では「角」という存在ができてしまいます。その中で照明が入り、存在が顕著に浮かび上がってしまいます。その一切を排除しているように見せようと考えました。そういったところには気を使っています。

―「角」という存在ですか。なんだか考えさせられます。
 シンプルで抽象度の高い舞台美術なのもそのせいでしょうか。

(香坂) そうですね。西さんと初めてお話して自由な発想でいこうと考え、プランニングを進めていきました。本当にリアルに考えるなら、ト書き通りのセットを組めばいいんですけれど、そうではないんだろうなと。縛られず自由に。

時折笑顔を浮かべながら私の話も親身になって聞いてくださった香坂さん。
ただ、デザインの話の時は芯のぶれなさを感じさせられました。

 
続きまして、衣裳デザイン駒井友美子さん

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▲ デザイン画を見ながら衣裳の修正を行う駒井さん

―今回の注目ポイントを教えてください。
(駒井) 今回衣裳では色のインパクトを大事にしています。教授役の衣裳では演出家の西さんとも話し合い、最初は楽しげに見えるけれど物語が進むにつれて見え方が変化していくというコンセプトでデザインしました。
 また、役柄からではなく役者本人からのイメージも大きいです。本人が一番魅力的に見えるように、というのは1番にありました。生徒役の布施さんの衣裳は、生徒という立場を残しつつも子供っぽくなり過ぎず、布施さんに似合う形や色を選んでいます。教授3人においてもそうです。例えば、貴島さんはどピンクも似合うかな、と思いました。

―なるほど。それぞれに合わせたデザイン、色なんですね。
 舞台が進行していく中で衣裳が少し変化することがありますが?

(駒井) そうなんです。これも西さんとの相談で決まりました。いままで抑えていたものがとれ、より大きなインパクトを感じていただけるかと思います。特に3人そろってのパワーを意識しています。3人そろってひとかたまり、といったような感じです。最初は3人とも同じ色の衣裳にしようという案もあったぐらいなんです。ちょっとそれは揃え過ぎだということになって今の衣裳になりました。

細かい仕事をスルスルとこなしつつ、常に謙虚な駒井さん。「役からではなく本人から衣裳を」という言葉が印象的でした。ちなみに衣裳部は静岡県のご出身が多いんだそう。ちょっと親近感がわきますよね…!

今回は美術デザインの香坂奈奈さんと衣裳デザインの駒井友美子さんでした。
舞台は一期一会です。
皆様お見逃しの無きよう、よろしくお願いいたします!

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SPAC秋→春のシーズン2018-2019 ♯1
授業
2018年10月6日(土)、7日(日)、8日(月・祝)、13日(土)★、
20日(土)、21日(日)、28日(日)
各日14:00開演 ★13日(土)のみ16:00開演
会場:静岡芸術劇場

演出:西 悟志 共同演出:菊川朝子
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
翻訳: 安堂信也、木村光一
出演:貴島豪、野口俊丞、布施安寿香、渡辺敬彦
照明デザイン:大迫浩二
美術デザイン:香坂奈奈
衣裳デザイン:駒井友美子
*詳細はコチラ
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2018年9月28日

『顕れ』パリ日記(6) ~日曜日の稽古~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月16日(日)

 
日曜日なので、人通りが少ない。入口の警備員室が空だと思ったら、アフリカ系の警備員さんが稽古を観に来てくれていた。

ムアワッドさんは今シーズンの年間プログラムにこう書いていた。「あらゆる公共の場所に入るたびにバッグを開けなければならず、テロ警戒体制が日常になってしまったら、どうやって自由に語りつづけることができるだろうか。」

最後の場面の稽古。宮城さんのダメ出し。

「うまくやろうとすると、自分の体に敏感になれない。自分の体にびっくりしていれば、必然的にたどたどしくなる。それを見せればいい。
こんな無防備な生き物を見てしまっていいのか、とお客さんが思うくらいでなければ持たない。」

照明さんのダメ出し。

「あ、ちょっと止めてください、ハシゴの影が見えてます!」「なにい!」「すみません、大高さん下ろしてください」「ハシゴ消えた。あ、また出た」「あ、たぶんこれ、俺の足です」「あー!このまま大高さんのタッパを上げます・・・」

大高さんの足

今日は20時に早めの退館。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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2018年9月26日

『顕れ』パリ日記(5) ~字幕作業、舞台美術家・木津潤平さん講演会~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月15日(土)

 
字幕調整作業。字幕作成担当のモハメドさんに来ていただいて、操作担当の制作大石さんと、昨日の稽古でずれていた箇所などを確認していく。

字幕作業

パリ日本文化会館で『マハーバーラタ』『アンティゴネ』の舞台美術を手がけた木津潤平さんの講演会。

パリ日本文化会館

ヨーロッパの額縁状の舞台では、奥が遠近法の消失点になっていて、無限につづく空間を表現できるが、日本の舞台は奥行きがあまりなく、水平方向に広がる絵巻物的な画面になっている。だが、この日本的な舞台を曲げながらぐーっと伸ばしていって円形にすると、永遠が表現できる舞台になる、という。

木津さん1

そうしてできたのが、アヴィニョン演劇祭2014のブルボン石切場で上演された『マハーバーラタ』のリング状舞台。

木津さん2

静岡でも2015年と2018年のふじのくに野外芸術フェスタで上演された。今度は11月にパリのラ・ヴィレット公園で上演される予定(公演詳細:https://lavillette.com/evenement/satoshi-miyagi/)。すでに地下鉄にポスターが貼ってあった。

ラ・ヴィレットのポスター

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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『授業』ブログ~【レッスン3】生き生きとした俳優がおもしろい!~

Filed under: 『授業』2018

tanji2こんにちは。
制作部の丹治 陽(たんじ・はる)と申します。
いま制作担当をしている『授業』について紹介させてください。
  
 
実は、西 悟志さんとご一緒させていただくのはこれが2回目です。
2007年の「Shizuoka春の芸術祭」で野外劇場「有度」で上演した『マクベス』に西さんが出演されていて、僕は制作担当でした。
SPACに入って1年が過ぎた頃で、まだまだ日々が新しいことだらけで、しかもちょうど芸術総監督が鈴木忠志さんから宮城聰さんに交代したばかりで、ソワソワしていた頃です。
『マクベス』はあたふたしているうちにあっという間に終わってしまったという感じで、あまり記憶がありません。
ただ、泥だらけの舞台上で、白塗りの身体で、頭と腕と上半身を振り乱していた西さんをよく覚えています。
ギョッとしたし、なにかアブナイものを観た気がしていました。

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▲『マクベス』に出演していた西さん

あれから10年以上がたち、西さん演出の『授業』を担当することになりました。
この10年あまりで西さんは芝居をほぼ1本しか作っていませんが、『マクベス』以前の西さんを知っている宮城さんが『授業』の演出に抜擢したというわけです。

ちょうど1年くらい前に『授業』の準備に着手したころ、
西さんは「ビル建設ではなく 農業をやりたい」と言いました。
本当に農業をやるわけじゃなくて、『授業』をつくるにあたって、農業をやるようにつくりたいという意味合いで。
開墾して、土壌をつくって、種をまいて、水や養分を与えて、芽が出るのを待つ、芽が出てからもこまめに手入れをして、実がなったら収穫・・・。
自然(人間)が相手なのだから、思うようにいかないこともたくさんあります。

西さんが理想とする創作環境がつくれたのかどうか、ちょっと自信がないところではありますが、西さんはたしかに農業をしているように僕には見えます。
稽古場に来て、俳優・スタッフをじっと見つめ、言葉という栄養分を投げかけ続けている。
(西さんは本当によくしゃべる。)

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▲ 西 悟志さん

演劇は、ある決められた時間・場所に人々が集まって成立します。
その決められた最初の時間まで、残り1週間ほどです。(10月3日が公演初日です!
否が応でも収穫期を迎えなければいけません。

数日前から劇場稽古が始まっています。
舞台美術、衣裳、照明、音響、そして劇場空間という栄養分が加わり、『授業』は急速に育ち始めています。

ここにきて俳優がいかにおもしろいかを日々感じていて、イヨネスコの戯曲(言葉)も西さんの演出(言葉)もすべては俳優を生き生きとさせるための栄養分だったんじゃないかと思えてきます。

最近、高校1年の時に家族で観に行った芝居をよく思い出します。
つかこうへいさんの演出作品でした。
ほとばしる汗、唾、眼光、浮き出た血管・・・この人たち(俳優)はなぜこんなに必死なんだろう?と釘づけになり、俳優の生々しいエネルギーに圧倒されたんです。
それまでなんとなく「演劇はつまらない」と思っていた固定観念が激しく揺さぶられたこの観劇体験が、僕の根っこにはあります。

中高生鑑賞事業で『授業』を観に来てくれる若い人たちにとっても「釘づけ」になる作品だと思います。

イヨネスコはベケットと並ぶ不条理演劇の代表的作家、とよく説明されます。
なんだか難しそうです。
イヨネスコはあるインタビューでこう答えています。

「自分の演劇はとても単純でわかりやすいし、視覚的で原始的で、子供っぽいものだと考えています。
問題はただ、ある種の理屈っぽい精神の習慣を追放することだけなのです。」

(イヨネスコ著・大久保輝臣訳『ノート・反ノート』より)

そうなんです。『授業』もわかりやすいシンプルな戯曲なんです。
基本的には教授と生徒のかけあいですから。
そして、イヨネスコの描く人物は「性格はなくて、だれとも区別がつかない幾人かの人物」ですので、「俳優が役になる」ということもない。
ただただ俳優の色(魅力)が出てくる戯曲なんだと、俳優を見ていてあらためて気づきました。
貴島豪さん、野口俊丞さん、布施安寿香さん、渡辺敬彦さん、この4人が生き生きと魅せる演劇作品です。
どうぞご期待ください!

INO_授業稽古_174_(c)猪熊康夫のコピー
▲ 左:貴島豪さん 右:布施安寿香さん

INO_授業稽古_127のコピー
▲ 左:野口俊丞さん

INO_授業稽古_091_(c)猪熊康夫のコピー
▲ 左:布施安寿香さん 右:渡辺敬彦さん

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SPAC秋→春のシーズン2018-2019 ♯1
授業
2018年10月6日(土)、7日(日)、8日(月・祝)、13日(土)★、
20日(土)、21日(日)、28日(日)
各日14:00開演 ★13日(土)のみ16:00開演
会場:静岡芸術劇場

演出:西 悟志 共同演出:菊川朝子
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
翻訳: 安堂信也、木村光一
出演:貴島豪、野口俊丞、布施安寿香、渡辺敬彦
照明デザイン:大迫浩二
美術デザイン:香坂奈奈
衣裳デザイン:駒井友美子
*詳細はコチラ
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2018年9月21日

『顕れ』パリ日記(4) ~ムアワッドさんのお話、場当たり~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月14日(金)

 
13時半、劇場が滞在中のアーティストたちのための「ウェルカムドリンク」をオーガナイズしてくださった。今、コリーヌ国立劇場では『顕れ』を含め、四作品を準備中。その四つのチームとスタッフで、全部で100人近くが劇場地下のレストラン前に集合。

コリーヌ国立劇場ディレクターのワジディ・ムアワッドさんのお話。

ムアワッドさんのお話1

「この劇場はクリエーションのための劇場です。なので、クリエーションをしているみなさんは、自分のホームだと思ってください。

今、この劇場ではフランス語、日本語、ドイツ語、ヘブライ語、アラビア語、英語、ルーマニア語が話されています。でも、日本から来た人がアフリカの話をしているように、みんな自分の話をするのではなく、他者の話をしています。これは演劇にとって、とても大事なことだと思っています。」

ムアワッドさんのお話2

ムアワッドさんご自身はツアーに向けて『私たちはみな鳥(Tous les oiseaux)』という作品の稽古中。主にイスラエル人とドイツ人の俳優が出演。初演時には劇場の外に当日券を求める人が長蛇の列をなすほどに評判になったという。

コリーヌ国立劇場のレストランは「連帯のレストラン 女性シェフたちの食卓」といい、三人の女性シェフが食事を提供している。かつては業者に委託して運営していた。だがムアワッドさんは、近所に料理がうまい人がいて、仕事を探しているのに、業者に委託するのはもったいない、と思い、この地区に住む人たちに声をかけて、運営してもらうようにしている。北アフリカの出身者が多い。

連帯のレストラン

衣裳を着けての場当たりが進む。

場当たり

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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歯車ワークス#2 静岡で芥川を訪ねて ~伊豆・修善寺 新井旅館~

Filed under: 『歯車』2018

まさかの2年目!?に突入した「すぱっく新聞」。このたび『歯車』号が完成しました!!

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前回ご紹介した、鈴木と佐藤(by SPAC秋のシーズン2015『王国、空を飛ぶ!』)の再登場の謎、
そして白衣やカメラマンがどう『歯車』新聞に関係したのか…それは見てのお楽しみ♪
SPACの劇場はじめ、これから街中などにもガンガン配架していきますので、見かけたら是非お手に取ってくださいね。

★「紙の新聞を手にするのが待ちきれない!」という方、SPAC公式サイトの『歯車』ページからもご覧いただけます♪
http://spac.or.jp/haguruma_2018.html

さて、今回新聞の制作にあたり、“芥川ゆかりの場所”として修善寺・新井旅館を『歯車』に出演する俳優・河村若菜が訪問。すぱっく新聞では掲載しきれなかった芥川滞在時のエピソードや女将さんのお話をご紹介します。

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明治5(1872)年創業の新井旅館は、伊豆半島で最も歴史ある温泉の街・修善寺の老舗旅館。
安田靫彦、横山大観といった日本画家、芥川龍之介、泉鏡花、尾崎紅葉や岡本綺堂といった作家など、明治~昭和期の日本文化を彩った多くの文人墨客が滞在しました。

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▲新井旅館正面

これだけの錚々たる面々がこの旅館に逗留した大きな理由は、三代目のご主人・相原寛太郎氏の存在。寛太郎氏は、東京美術学校(現在の東京藝大)に学び画家を志すも、新井旅館を継ぎ、画家の道を断念。その後は、自分の夢を託すかのように若手芸術家への支援を惜しまず、そんな寛太郎氏との芸術談義を楽しみに訪れる者も多かったそうです。女将の森桂子さん曰く、「岡本綺堂さんが『修禅寺物語』を当館で執筆されていらっしゃるのですが、主人との話から創作のヒントを得ている」とのこと。

寛太郎氏と芸術家たちの交流が、今に残る多くの名作を生んだのですね。新井旅館には彼らが逗留のお礼として寛太郎氏に贈った絵画や書が数多く残され、その作品群は「沐芳コレクション」と言われています。

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▲風情ある中庭の様子

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▲女将の森桂子さんと

芥川は大正14(1924)年4月10日から約1カ月間滞在。神経衰弱・腸カタルなどを患い体調が優れなかった彼は、療養を目的で同地を訪れました。
当時も口コミと言うか、作家仲間同士の横のつながりはあったようですから、「身体が悪いんだったら良い温泉が修善寺にあるけど、どう?」みたいな紹介があったのかもしれませんね。

ただ、当時の文壇きっての売れっ子だった芥川は、折角療養に来たここでも「仕事から離れてゆっくり」はできなかったようで…月の棟3階の部屋で、仕方なく仕事をこなしていたそう。妻や友人に宛てた手紙で「ここにいても電報ばかり来やがってやり切れない」「ここにいても電報ぜめで(もう電報を十本貰っています)おまけに原稿催促人までも出張するので、・・・」などと度々愚痴をこぼしています。
そんな芥川を、同時期に滞在していた泉鏡花の奥さんは「あなた、何のために湯治にいらしったんです?」と呆れつつ、世話を焼いてくれたようです。
なお、芥川が滞在したお部屋は現存していますが、残念ながら今は使われていません。

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▲芥川が泊った月の棟3階の真下のお部屋。窓の外には芥川も眺めたであろう巨木が。

そんな芥川のここでのお気に入りは「風呂」と「食事」。
お風呂に関しては、妻と叔母宛てに絵入りの手紙まで送っています。

「…をばさん、おばあさん、ちょいと二、三日お出でなさい。ここのお湯は(手書きのスケッチが入る)言う風になっていて水族館みたいだ。これだけでも一見の価値あり。」(大正14年4月29日付)

書簡のスケッチ
▲大正14年4月29日の書簡より “水族館のような”風呂のイラストや、新井旅館の各棟の配置図が。

何だか子どものようにはしゃいでいる姿が目に浮かびますね。
芥川が「水族館みたいだ」と例えたこのお風呂、お風呂場の下方のガラス越しに池の中が覗ける造りになっていて、人の気配を感じると鯉がガラス近くまで寄ってくるそうです。

ところが、実のところ芥川は大の風呂嫌い。
作家の中野重治が、彼の死後に追悼文を書いており、そこには「この人は湯になどはいらぬのか、じつにきたない手をしていた。顔なども洗わなかったのかもしれない」とあります。
大の風呂嫌いをして人に勧めるほど、このお風呂に芥川は興奮し、また気に入ったのでしょうね。
芥川が入ったお風呂そのものはその後の改修により現存していませんが、この池が覗ける“水族館のような”お風呂は、今でもあるんです。

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▲池に泳ぐ鯉。右手の建物は「桐の棟」。昭和7、泉鏡花は1階奥の「桐三号室」で『斧琴菊』を書き上げました。

そして、もう一つの楽しみは「食事」。
芥川は書簡の中で、どんなものをいただいたのか、細かく記しています。
それを見ると…「朝 牛乳一合、玉子一つ、バナナ三本、珈琲。」とか「食後に角砂糖三つか四つ。こいつは癖になった。」とか…。
芥川の甘味好きはこれまた有名ですが、角砂糖って最早甘味を通り越してそのものですが…、
女将さん曰く当時角砂糖はごちそうだったとのこと。

また、芥川は「凍りしいたけ」なるものも食べていたそう。
「よく分からないのですが、採ってきた生しいたけを凍らせて食べるらしいです。今はそういったものをご提供することはないのですが、本当に美味しいらしくって、新鮮だからこそできるんでしょうね」とのこと。
伊豆は原木でのしいたけ栽培発祥の地と言われ、今でも名物の一つ。香りが強く肉厚で歯応えがあるしいたけを、芥川も楽しんだのでしょう。

今も日本はもちろん海外からも、文人墨客の足跡を訪ねて、多くの方が訪れる新井旅館。
中でも芥川は一番人気らしく、「こんな若い方でも興味があるんだ」って驚くこともあるそう。
また、作家や書道家、ミュージシャンが長期滞在することもあるそうで、「良い“気”がもらえる」「作品にあらわれるものが違う」と言っていただくとか。

あなたも、季節ごとに表情を変える山々や清流から良い“気”をもらいつつ、芥川の息づかいを感じてみてはいかがでしょうか?

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SPAC秋→春のシーズン #2『歯車』
構成・演出:多田淳之介
原作:芥川龍之介
出演:大内智美、奥野晃士、春日井一平、河村若菜、坂東芙三次、三島景太[五十音順]

一般公演
11/24(土)・25(日)・12/1(土)・2(日)・8(土)・9(日)・15(土) 各日14:00開演
静岡芸術劇場

チケット
発 売 日:9/23(日)会員先行予約 9/30(日)一般前売
料  金:一般4,100円 ペア割引3,600円 ゆうゆう割引3,400円
学割2,000円[大学生・専門学校生]1,000円[高校生以下] ※ほか各種割引あり
購入方法:SPACチケットセンター TEL:054-202-3399(10:00~18:00) ※公式サイト、劇場窓口でも購入可

★公演の詳細はこちら
http://spac.or.jp/haguruma_2018.html

★トレーラー第一弾はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=NBi9mdWKW5c

★ブログ「歯車ワークス」過去の投稿記事はこちら
http://spac.or.jp/blog/?cat=113

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2018年9月20日

『顕れ』パリ日記(3) ~仕込み二日目・三日目、俳優到着、舞台美術サラディン・カティールさんの話~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月12日(水)

 
舞台スタッフは午前9時から作業。
午後5時頃、第二陣の俳優たちがパリ・シャルル・ド・ゴール空港に到着。大荷物。
スタッフは24時まで作業。

太陽と月

 

2018年9月13日(木)

午後2時に俳優が劇場に到着。別の稽古場でトレーニング。

トレーニング1

トレーニング2

劇場スタッフと顔合わせ。

顔合わせ1

顔合わせ2

舞台はだいぶ準備が整ってきた。
早速楽器や小道具を運び込み、設置。

楽器セッティング

この『顕れ』の舞台美術を担当してくれたのはサラディン・カティールさんという舞台美術家。現場で作業も進めてくれている。

サラディン作業中1

カティールはShizuoka春の芸術祭2010で上演した『彼方へ 海の讃歌』、ふじのくに⇄せかい演劇祭2013で初演し、世界各地で上演を重ねた『室内』、そしてふじのくに⇄せかい演劇祭2018の『夢と錯乱』など、近年のクロード・レジ演出作品の舞台美術を一手に引き受けてきた。SPACとの共同製作だった『室内』を一緒に作ってきたこともあり、気心の知れた仲間。

カティールは、はじめレジ作品の舞台美術を手がけていたダニエル・ジャンヌトー(今秋東京芸術祭で『ガラスの動物園』を上演)のアシスタントとして現場に入り、ジャンヌトーが演出家となってレジの現場から離れてからは、舞台美術のコンセプトや設計も手がけるようになった。フランスでは比較的珍しい、現場叩き上げの舞台美術家。もともとは舞台装置やインスタレーションを実際に作る仕事をしていて、川俣正の作品も手がけたことがある。素材選びと加工については自信がある、という。

サラディン作業中2

(参考)レジ『彼方へ 海の讃歌』奮戦の記(2010年4月19日)

サラディン・カティールさんの出自は、この『顕れ』の物語と少し関係している。

サラディン

カティールという名前はトルコ語から来ているが、トルコ人ではない。オスマントルコによるアルジェリア支配の名残だという。サラディンという名は十字軍から聖地エルサレムを奪い返し、エジプトにアイユーブ朝を樹立したクルド人の武将の名にちなんでいる。

両親は北アフリカ・アルジェリアの出身。お父さんはカビリア人。アルジェリアのカビリア地方に住むベルベル系の民族で、色が白い。サラディンさんがお父さんの故郷に行くと、「黒人」と見られるという。

お母さんもアルジェリア出身だが、色が黒かった。お母さんのお母さんはアラブ系とベルベル系のハーフのエジプト人で、色が白く、青い目をしていた。黒人のモーリタニア人と結婚したために、村から追放されたという。このお母さんのお父さんは元奴隷だった。

北アフリカのアラブ人たちは、かつてモーリタニアなどブラックアフリカの人々を奴隷としていた。そしてフランスによる北アフリカの植民地化が始まってからも、すぐに奴隷がいなくなったわけではなかった。お母さんは1936年生まれだというので、20世紀はじめの話。

カティールさんにしても、日本を通じてアフリカと出会うことになったわけで、ちょっと不思議な縁を感じる。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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2018年9月15日

『顕れ』パリ日記(2) ~仕込み初日、「他者」を演じること、等々~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月11日(火)

 
朝テレビを見ていたら、9.11の17周年だということを思い出した。

宿はパリ連続テロ事件が起きたレピュブリック広場界隈。コリーヌ国立劇場の最寄り駅は20区のガンベッタで、郊外への入口とも言えるところに位置している。「白人」でない人も多く見かけるが、昔私がこの劇場に通っていた頃は、観客のほとんどが白人だった。

コリーヌ国立劇場

ムアワッドのミッションの一つは、観客の「多様性」を確保することだ。就任一年で、観客層は若返り、「多様性」という面でも、ある程度結果が出たとも聞く。

午前9時に劇場入り。舞台上には大勢のスタッフが。すでに舞台装置の太陽と月が吊ってある。今回、主な装置はフランス側で作っていただいている。

太陽と月

すぐに各部門チーフと打ち合わせ。
部門チーフ打ち合わせ

朝早くから、芸術監督のワジディ・ムアワッドさんが挨拶に出向いてきてくださった。「本当に、本当に、みなさんをお迎えできてうれしいです。夏の間、よく宮城さんのことを考えていました」とムアワッドはいう。

ムアワッドさん宮城さん

「夏の間」というのは、フランスとカナダの演劇界を震撼させたある事件の話だ。フランスの太陽劇団が54年の歴史ではじめて外部の演出家を招き、4年の歳月をかけて作品を製作していた。招かれたのはロベール・ルパージュという世界的に有名なカナダ・ケベック州の演出家で、カナダにおける先住民と白人との200年にわたる交流を描く『カナタ』という作品だった。「カナタ」というのは先住民イロクワイ族の言葉で「村」という意味で、これが「カナダ」という国名のもとになった。この作品では、「カナダ」の歴史をむしろ先住民たちの苦難の歴史として描こうとしていたようだ。ところが、この作品にカナダ先住民のアーティストが出演しないことなどから「文化の盗用(appropriation culturelle)」と見なされ、非難の的となった。この作品はパリ公演のあとで北米ツアーを行うことになっていたが、そのために何人かの北米のプロデューサーが手を引くことになり、ルパージュと太陽劇団は7月27日に公演中止という苦渋の決断を下すこととなった。

若き日のムアワッドにとって、ルパージュはケベック演劇界を象徴する憧れの人だった。『火傷するほど独り』では、自身が演じる主人公ハルワンを「ルパージュについての博士論文を準備している学生」という設定にしている。そのルパージュがこの事件で渦中の人になっているのを、ムアワッドはかなり複雑な気持ちで見ていたのだろう。ムアワッドはこの一件についてルパージュが発した言葉を念頭に置いて、「演劇においては、誰もが、どんな人だって演じる権利があるはずです」と語る。

この『顕れ』では、日本の俳優たちがアフリカ人を演じることになる。このことの意味を、夏の間、ムアワッドは考えていたのだろう。

その7月には、レオノーラ・ミアノさんが静岡まで、稽古を観にいらしてくださった。ミアノさんは「私はこの作品を「アフリカ人の物語」としてではなく「人間の物語」として上演してほしいと思っていました。また、奴隷貿易の被害者だったり加害者だったりするアフリカ人やヨーロッパ人がこの作品を上演するのは難しいとも思っていました。だから、日本の俳優さんたちがこの作品を初演することになって、本当によかったと思っています」とおっしゃっていた。だから、作品のなかでは「アフリカ」という言葉は出てこず、「はじまりの国(le Pays premier)」と呼ばれている。また、「演出については全く宮城さんの自由にしてくださってかまいません。ただ黒塗りで「黒人」を演じるのは避けてほしい」、とも。(そのほか稽古場での様子はこちらの記事から)

『顕れ』は奴隷貿易の加担者となってしまったアフリカ人たちを描いている。アフリカ人にとって、必ずしも誇らしい話でも、都合のいい話でもない。この複雑な歴史を、どうすれば「人間の物語」という普遍性をもって描くことができるのか。

 
午後、フランス語字幕を作ってくれたモハメッドさんが、字幕データを届けに来てくれた。日本語台本と原文のフランス語を対照しながら、原文を字幕の形式にまとめる作業。モハメッドさんは立教大学で社会学を学んでいて、翻訳の平野暁人さんとは久々の再会だという。平野さんはかつてフランスで北アフリカのフランス植民地についての研究をしていた。それもあって、アフリカのことにはずっと興味をもっていて、このミアノの作品の翻訳にはものすごい熱意で取り組んでくださった。一方モハメッドさんは、両親がアルジェリア出身だがフランス生まれで、最近になってアルジェリアに行くようになり、母親についてのドキュメンタリー映画を準備中とのこと。

そういえば劇場側で用意してくださった通訳の方は、「劇場の案内係として働いている日本人」と聞いていたが、お目にかかってみたら、「私、実は以前SPAC制作部の就職面接を受けたことがあるんです」とおっしゃっていて、驚いた。今年のストレンジシードにも参加してくれた劇団子供鉅人の制作をなさっていて、SPAC制作部の面接を受けたちょっとあとに渡仏することになり、一年前からこの劇場で働いているという。なんだかいろんなところで、いろいろなことがつながっているものだ。

黒かった床を白くする作業、照明調整など、24時まで作業し、退館。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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2018年9月14日

『顕れ』パリ日記(1) ~なぜ日本の劇団がパリでアフリカの話をすることになったか~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月10日(月)

 
レオノーラ・ミアノ作、宮城聰演出『顕れ』公演のため、パリへ。

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第一陣の宮城さんと技術・制作スタッフがお昼頃に羽田を発ち、夜にはパリに到着。12時間ほどの旅路。

パリの空

パリのコリーヌ国立劇場による委嘱作品。フランスはふつう秋からシーズンが始まるので、シーズンの開幕作品となる。フランスの国立劇場が日本の作品をシーズン開幕に選んだという話は他に聞いたことがない。開幕作品というのはそのシーズンの顔になるような作品なので、かなり思い切った決断といえるだろう。メインの大劇場で、ほぼ一ヶ月間にわたって上演されることになるので、かなり責任重大だ。

レオノーラ・ミアノはカメルーン出身・フランス在住の小説家・劇作家。『顕れ』はアフリカの神話をベースに、奴隷貿易に手を貸してしまったアフリカ人たちを描いている。このような作品を日本の劇団がやることになったのには、ちょっと不思議な経緯がある。ここ10年ほどのいろんな話があって、少し長くなるが、お付き合いいただきたい。

まずはコリーヌ国立劇場と、この作品を提案してくれた芸術監督のワジディ・ムアワッドさんの話。

コリーヌ国立劇場は現代作家の作品を専門に上演している唯一の国立劇場だ。芸術監督は現代のフランス語圏演劇を代表する劇作家の一人、ワジディ・ムアワッド。レバノン出身で、内戦時に両親とともにフランスに亡命したが、滞在許可が更新できず、カナダのケベック州(フランス語圏)に渡った。若くしてケベック演劇界のスターとなり、フランスでも活躍するようになっていく。

SPACではムアワッド作・演出の作品を二作品『頼むから静かに死んでくれ』(原題:『岸』、Shizuoka春の芸術祭2010)、『火傷するほど独り』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2016)を上演している。世田谷パブリックシアターではムアワッド作『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』が上演されていて、日本でもだいぶ知られるようになった。

ふじのくに⇄せかい演劇祭2016に参加する直前、ムアワッドがコリーヌ国立劇場の芸術監督に就任することが決まった。中東出身でアラビア語を母語とする演劇人がフランスの国立劇場の芸術監督となるのははじめてで、ここには、とりわけ2015年のパリ同時多発テロ以来重要な問題となっている国内の融和への願いも込められている。

 
そのムアワッドからある日、「すぐに宮城さんとお話ししたい」とのご連絡があった。こんな話だった。

静岡からパリに戻ったあと、レオノーラ・ミアノと会って、「あなたの作品をどの演出家に上演してほしいですか」と尋ねた(ムアワッドは劇作家主導のプロジェクトを試みたいと考えていて、演出家が戯曲を選ぶのではなく、劇作家に演出家を選んでもらおうとしていた)。はじめ、フランスの演出家の名前をいくつか挙げたが、二人ともなかなかしっくりこない。そこで改めて、「ではどんな夢でも叶うとしたら? 世界中どこの演出家でもいいので言ってみてください」と聞いてみたところ、「以前見た日本の演出家の作品が、アフリカの神話的世界を描くのにぴったりだと思った。フランスの演出家ではどうしてもリアリズム的になってしまうが、彼が引き受けてくれたらいいと思う。たしか名前はミヤギとか・・・ご存じですか?」という答えが返ってきて、ムアワッドは驚いたと同時に、自分でもぴったりだと思った。そこで、宮城さんが引き受けてくれるか一刻も早く知りたいと思って連絡した、という。ミアノさんはアヴィニョン演劇祭2014で『マハーバーラタ』を、ケ・ブランリー美術館で『イナバとナバホの白兎』(2016)をご覧になっていた。一つはインド、もう一つは日本とアメリカ先住民の話で、たしかに二つとも、神話的世界を描いた作品だった。

思いがけない申し出に、もちろんこちらも驚いたが、これまでの活動が評価されたのもうれしくて、コリーヌ国立劇場と力を合わせ、なんとか実現にこぎつけることができた。

午後7時頃、空港から外に出ると、パリは思いがけないほどの熱気。9月でこんなに暑いのは珍しいという。フランスが日本とカメルーンとレバノンの交点になっているというのも、なんだか納得のいくような夜だった。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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2018年9月11日

<『顕れ』#005>世界初演まで間もなく!

Filed under: 『顕れ』2018

稽古開始から早2か月が経過し、いよいよスタッフ・俳優たちは渡仏。
9月20日のコリーヌ国立劇場での世界初演まで間もなくとなりました!

改めまして、これまで『顕れ』ブログを書いてきた、制作部1年目の西村と申します。
今年度SPACに入り『顕れ』を担当し、人生で初めて演劇作品の創造に立ち会っています。
ブログ第5弾では、これまでの稽古を写真で振り返っていきたいと思います!

◆写真で振り返る静岡での稽古

『顕れ』はまだ世界のどこでも上演されたことがなく、日本語訳もされていない戯曲です。
なおかつ、戯曲に向き合うためにはアフリカや奴隷貿易について知ることが必要不可欠でした。
作者レオノーラ・ミアノさんと密にやりとりして翻訳してくださった平野暁人さんも稽古に参加してくださり、不明な点があるとその都度参考文献や資料とともに作品の背景などを説明していただきました。
平野さん、俳優たちとディスカッションを重ねながら、宮城は少しずつ上演台本を固めていきました。

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初期の演奏稽古の様子。上演台本と楽曲の製作は同時進行で行われました。
音楽監督の棚川寛子は、宮城の演出作品で20年以上舞台音楽を担当していて、俳優それぞれの演奏の強みや特徴をばっちり把握しています。
「ドラマチックに」「ここは”攻め”で」「コードはマイナーで」「BPMは150くらい」…
宮城とともにキーワードを確認しあいながら、何度も試行錯誤を積み重ねていくのですが、二人にはすでに培ってきた共通言語がたくさんあり、信頼しあっている様子がとても伝わってきました。

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棚川のノートの一部を写真に撮らせてもらいました。
棚川は楽譜を書かずにセリフのイメージから音のフレーズを作っていきます。
出来上がったフレーズはまず自分で演奏のお手本を見せ、それを一人の俳優に伝えます。
その俳優がフレーズを繰り返し演奏しているところに、別のフレーズを重ねていく。
これを繰り返しながら楽曲を作りあげていきます。

稽古が進んでくるとセリフの長さや抑揚、舞台上での俳優の動きなど、作品全体のバランスをみながら楽曲を微調整。
宮城からの指示にも「そこはセリフに合わせて2×8(ツーエイト)で」など、音楽を背景にせず動きと密接にとらえた指示が細かく飛んでいました。
音響スタッフは、セリフと演奏の両方が映えるようにマイクを設置し、それぞれに息を合わせて音響操作をしなければいけません。
日々の演奏稽古に立ち会って、棚川さんや俳優と同じようにテンポやカウントを一緒に確認している姿が印象的でした。

 
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7月後半には作者であるレオノーラ・ミアノさんが稽古に同席。
宮城や俳優たちと対話を重ね、作品に対する理解を深めました。(詳しくはブログ002にて)

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これは作品冒頭に出てくる「始まりの海」を表現する布を試している様子です。
どういった質感のものがいいか、布が動かないようにするにはどういう仕掛けをつくるのがいいかなど、創作・技術部とともに試行錯誤が繰り返されました。

俳優たちの頭上に吊られているのは、仮の舞台美術装置。本物は現在、コリーヌ国立劇場で制作されています。
(製作の様子はコリーヌ国立劇場の公式Instagramに掲載されていますのでぜひチェックしてみてください!)

美術デザインは、SPACとも関係の深いサラディン・カティールさん。
今年のふじのくに⇄せかい演劇祭のクロード・レジ演出『夢と錯乱』や、2013年にクロード・レジさん率いるアトリエ・コンタンポランとSPACとの共同製作で創られ、2015年にも再演された『室内』の美術を手掛けています。

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▲稽古開始前にサラディン・カティールさんより送られてきた舞台装置模型

衣裳デザインは駒井友美子、小道具デザインは深沢襟です。
デッサンをもとに衣裳班・美術班が具現化し、俳優たちの演技プランに合わせて、細かな微調整が日々繰り返されました。

Costume Design
これは「マイブイエ」と「ウブントゥ」というキャラクターのデッサン。
2つの役は死者の魂で、作品の中では多くの魂の集団とも捉えられており、4人の俳優によって演じられるシーンもあります。
群れをなすので、どのように発語するか、舞台上でどのように動くかなど、細かく打ち合わせながら稽古に臨んでいました。
また、全身に玉がぶらさがったような衣裳のため、動きながら玉をどのように制御するかも重要になってきます。
プランを立てて宮城に見せ、フィードバックを受け、またプランを立て直してを繰り返し、動きを緻密に決めていきました。
 
9月には照明デザインの吉本有輝子さんが稽古場入りし、明かりづくり。
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この風景が
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明かりを入れるとこのように一変!

衣裳や小道具の具現化にも日々わくわくしていましたが、明かりづくりではそれらがより立体的に浮かび上がりとても感動しました。
ブログ用の写真を撮りに劇場に入ったのですが、その美しさにしばらく見入って撮影を忘れてしまうほどでした。

◆いよいよフランス・コリーヌ国立劇場へ!
このように、上演台本・音楽・衣裳・小道具・照明がだんだんと出来上がっていき、静岡での稽古は終了しました。
いよいよ明日には俳優たちも渡仏し、劇場で世界初演に向けて調整を行っていきます。
パリから届いた写真は春からはじめたSPACのInstagramでも発信します♪

「すぱっく新聞」の発行ももう間もなくです。お楽しみに!

*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら
*『顕れ ~女神イニイエの涙~』(静岡公演)詳細はこちら


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