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2013年9月10日

パスカル・ランベールと『愛のおわり』

カテゴリー: 『愛のおわり』2013

SPAC文芸部 横山義志

 
パスカル・ランベールという人はたぶん、適切に評価するのがすごく難しいタイプの人である。私は何度か話したことがあるくらいで、作品も数本見ただけなので尚更だが、それでも独断と偏見で、パスカルと『愛のおわり』について、二言三言書いてみようと思う。
 
pascal rambert 1
 
パスカルはフランスの演劇界において、現代のアメリカ文化に深い興味と知識を持っている貴重な人材ではある。だが、相当のナルシストでもある。私もパリではじめてパスカルの作品を見たときには、自分のアメリカ人女優との恋の話を延々と聞かされているようで、かなり辟易した。フランスで「ロックな」演劇人はかなり少数派なので、そういう人がいること自体は悪くないが、「ロックなオレを見てくれ」という感じで来られると、ちょっと引いてしまう。だいたい、フランスの演劇人にロックなものを求めている日本の観客はそんなにいないだろう。
 
なんて、悪口ばかり書いているようだが、それでもパスカルにはどこか憎めないところがある。ジュヌヴィリエの国立演劇センターのディレクターに若くして選ばれたのもそのせいだろう。パリの北西に位置するジュヌヴィリエ市は、フランス全国でもかなり「難しい」地域とされている。移民と低所得層が多く、「赤いベルト」と呼ばれる左派の牙城である。この劇場の前のディレクターだったベルナール・ソベルは、旧東独のベルリナー・アンサンブルで学び、ジュヌヴィリエで劇団を創立して、国立演劇センターにまで育て上げた人物である。ただ、ソベルがこの町に来た1960年代とは、かなり住民の構成も様変わりしている。パスカルが選ばれたのはきっと、あいつならあの辺にいるヒップホップな若者たちとうまくやっていけるだろう、という発想だったのではなかろうか。実際、地元の高校生と一緒に『16歳』という作品を作ったりもしているが、「ふつうに」生活するパリ郊外の高校生の充実感と閉塞感をこれほどをリアルに、美しく表現した作品もなかなかないだろう。
 
『16歳』
http://www.cdn-orleans.com/2009-2010/index.php?option=com_content&view=article&id=188
  
  
SPACでも上演された『世界は踊る~ちいさな経済のものがたり~』は、パスカルが「サブプライム問題の原因を経済の専門家に聞いてみたい」と思って作りはじめた作品だったという。通貨の誕生以前の話と現代の金融資本主義経済、そして地域の参加者が生きる日々のお金の話がダイレクトにつながる作品で、ちょっと驚いた。「やっぱりアメリカのこと知らないとヤバイでしょ」とか、「やっぱり経済のこと知らないとヤバイでしょ」と思うパスカルの感性は、フランス人には比較的稀な、ある種の素直さなんじゃないかと思う。
 
children_shizuoka02 (『世界は踊る』静岡公演より)
 
『世界は踊る』劇評
http://www.wonderlands.jp/archives/16418/
 
 
去年のアヴィニヨン演劇祭で初演された『愛のおわり』は、ここ数年のフランス人が書いた戯曲の中で、世界的にヒットしうる数少ない作品の一つではなかろうか。パスカルの作品で、終演と同時に割れるような拍手とスタンディングオベーションが起きたのを見たのははじめてだった。この作品を見て、それまでパスカルと目を合わせようともしなかった演劇人たちですら、急にパスカルに一目置くようになったらしい。
 
『愛のおわり』は男優と女優が稽古場で別れ話をする、という設定になっている。見はじめたときには、なんだまた自分の恋の話か、と思わないでもなかった。前半1時間弱、男優が女優に向かって一方的に「おれはなんでおまえと別れなければならないのか」を延々と理詰めで語っていく。女優はうつむきながら、黙って聞いている。後半ではこれが逆転して、女優が男優に向かって、やはり「なぜ別れた方がいいか」を語っていく。そして、男優は一言聞く度に、目に見えてうなだれていく・・・。要は、「男の理屈」というのがいかに下らないものか、というのが痛いほどよく分かる、という作である。個人的事情も相俟って、一言一言がとても身に沁みる、というか身にこたえる観劇体験だった。「パスカル、ただのナルシストじゃなかったのか!」というのが大方の感想なのではないか。
 
とはいえ、これは必ずしも破局の物語ではない。愛が終わらないという希望すら得られるかも知れない。とりわけつきあいの長いカップルにはお勧めの作品である。
 
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『愛のおわり』 〔日本版〕
2013年9月28日(土)16時開演
9月29日(日)14時開演

作・演出: パスカル・ランベール
日本語監修: 平田オリザ
翻訳: 平野暁人
出演: 兵藤公美  太田 宏  静岡児童合唱団

静岡芸術劇場

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