2015年2月21日

【SPAC県民劇団】劇団壊れていくこの世界で・木田博貴インタビュー

暦の上では、季節はもう春…、ですが、日々寒さ厳しい舞台芸術公園。
ここでは、公演まで残りわずかとなったSPAC県民劇団、
劇団MUSESと劇団壊れていくこの世界での熱い稽古が、日々行われています。
※稽古の様子は、「制作部よもやまブログ」を是非ご覧ください。

先に本番を迎えるのは、
今年度新たに発足した県民劇団「劇団壊れていくこの世界で」。
旗揚げ公演は、古今東西の名だたる演出家が挑んできた
ギリシャ悲劇の傑作『オレステス』です。

劇団代表の木田博貴さんは、
今静岡県内で最も勢いがある、と言っても過言ではない若手演出家。
そんな木田さんに稽古の合間のお時間をいただき、
この傑作をどう読み解き、どんなコンセプトで演出を試みるのか、など
じっくりお話を伺いました!!

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――木田さんは、「Z・A」という劇団を主宰し、藤枝を拠点に活動していらっしゃいますが、県民劇団に応募されたきっかけ、動機を教えてください。

ずっと自分の劇団で演劇をやってきたんですが、やりたいことが、増えちゃったんです。初めは「これだけやりたい!」って感じでZ・Aを始めたけれど、Z・Aではやってはいけないこと、できないこともいっぱいある気がしていました。あれもやりたい、これもやりたい、となった時に、自分の演出でどういうことができるのか、色々なところで挑戦したくなって。今回この(SPAC県民劇団の)話があった時に、知り合いの演出家さんたち、(がくらく座の)佐藤さん、(劇団静火の)渡辺さん、(劇団MUSESの)近江さんなどがチャレンジしているのを見たり、聞いたりして、俺もやってみたいなって思ったのがきっかけです。

――なぜ旗揚げ公演で『オレステス』を選ばれたのですか?

色々と悩んだんですよ。やりたいものがいっぱいあって。でも最初からプランは「和のコンセプト」でいきたいっていうのがありました。
「和のコンセプト」を押し出して何ができるかって考えた時に、俺も近江さんみたいに野田秀樹さんの戯曲がやりたかったんですよ。すっごい野田さんが好きなので。あとは劇団新感線が好きなので、新感線みたいなエンターテイメントをやったら、今までの県民劇団とはちょっと違うんじゃないかっていうのもありました。でも、「新感線って元々“和”じゃん!俺がやる意味ないなー」って思った時に、「じゃあ最も和に合わないもの、イメージが無いものって何だろう」って考えて、ギリシャ悲劇や海外の戯曲が思い浮かびました。
海外の戯曲って詳しくなかったんですが、DVDなどで蜷川幸雄さんの演出を見る機会が多くて、その中で何個か、『オレステス』とか『カリギュラ』とかやってみたい作品がありました。あと、シェイクスピアも候補にいくつか挙げたんですけれど、考えていった時に、今の自分で一番チャレンジしたかったのが『オレステス』だったんです。生きることに対して、すごくこう“乾いている”感じがオレステスにはして。今の世の中って、別に生きようと思わなくても生きられるし、死のうと思わなければ生きられますよね、基本的には。でも、実は生きることってすごくパワーがいるんだよ、とかこんなにも素晴らしいことなんだよっていうのを感じて欲しいですね、特に若い子たちには。

――木田さんのお話の中でも既に出てきましたが、『オレステス』といえば、蜷川幸雄さんはじめ、国内外問わず多くの演出家が様々な演出を試みてきた作品ですよね。今回木田さんは、どんな演出を試みるつもりですか?

俺はすごく蜷川さんの影響を受けているんですよ。むしろやれるならアレをやりたいんですけれど。でもそれはやっても無駄、というか蜷川さんがいるし、二番煎じをやりたいわけではないので。
自分の演出の特徴は、大きく分けて二つ置いています。一つは、先程言った「和のコンセプト」です。和柄が好きだったり、和の空間に落ち着きを感じるようになって。日本人は“和”に対する安心感があるなって思った時に、観ている人って日本人が多いわけですから、(和のコンセプトを入れれば)どの作品でもしっくりきちゃうんじゃないのかなって。外国の人に観せるために和を使うのではなくて、日本の人たちに、難しい話を少しでも身近に感じられるように、安心して観られるように、和を入れたいっていうのがあります。
話が前後してしまうんですが、以前後輩の演出家、俺より多分勉強している子なんですが、と藤枝などでコラボしたことがあって、その時「脚本から演出を考えることは多いけれど、演出から脚本はあんまり考えないよね」って話をして。じゃあ「この演出をするために、この脚本を選びます」っていうスタイルがもっと多くてもいいんじゃないかって思ったんです。自分が今色々な作品に対してチャレンジするのは、やはり「和の雰囲気」なので、たとえ蜷川さんが演出した(『オレステス』以外の)作品を演出することになっても、絶対そこは入れていくと思うんです。オリジナルで書いた台本なら違うと思うんですが、既成の戯曲をやる場合は、このコンセプトは絶対外さないっていうのがありますね。

――木田さんの企画に賛同して集まったメンバーで、県民劇団「劇団壊れていくこの世界で」が結成されたわけですが、結成して約10か月が経ち、ご自身がずっと主宰してきた劇団Z・Aとどんな違いがありますか?戸惑いや困った点、逆に魅力に感じる部分について教えてください。

いや、めっちゃあるんですけれど…(笑)。
まずは、今まで一緒にやったことがない人が多く、彼らがどういう芝居創りをしてきたのか確認できない状態からのスタートだったのが、すごくプレッシャーでしたね、毎日。「こんなことしかできねーのかよ」と思われていたらどうしよう…、といつも緊張していて。これは自分の劇団とは違いましたね。自分の劇団は、言わなくても全部わかってくれるので。でも今回は、参加した役者やスタッフがみんな、自分のやり方が本当にここでは正しいのだろうかって俺と同じように思っていたと思うんです。だからみんな何か一歩踏み込めずに、ずっと牽制し合っていて。俺も「どこまで伝わるかなぁ」って常に思いながら、一生懸命言葉を選んで色々なことを伝えようとして。それが新しい試みでもあったし、自分の中ではすごい新鮮だったんです。嫌ではなくて、本来こういうことをしなければならないんだろうなって。自分の劇団では甘えていた部分がすごく分かりました。
また、自分の劇団だと、自分が脚本書いて演出してって感じなので、「これはこうやって」とかどんどん言っちゃうんですよ、向こうが出してこない限りは。でも県民劇団では、各々が自分なりのやり方や良いものを持っていて、でも何を持っているのか全然分からないっていう状態からのスタートなので、みんなが全力を出さない限りはこちらも全力で応えられない。稽古が佳境になってきた時に、ようやく「あ、こういう良いところがあるんだな」とか「こういう役者さんなんだ」っていうのがわかってきて。そこをどうやって活かしつつ、自分の演出を活かしていけば良いんだろう、という点が面白いし、良い意味で苦痛ですね。「これ、良いな」って思うけれど、俺の演出と合わないな、でもそれを組み合わせるのが俺の仕事だ、とか考えると、キツイけどすごく楽しいですね。

――ちなみに、ずっと気になっているのですが…、劇団名の「壊れていくこの世界で」は、どんな想い、理由で付けられたのですか?

名前の由来は特に無いんです(笑)。意味もなくて、ダサい名前を付けたいなって思っただけなんです。
本当は、名前を付けるのが一番嫌いなんですよ、何にしても。脚本のタイトルや役名を考えるのも嫌ですし。付けようとすると、意味を持たせたくなっちゃうんです、特に役名とか。何かに関係した名前とか、そこだけは統一したくなってしまって。でもそれも疲れてきてしまって、もう適当で良いかなーって。でも、適当だけど「ん?」って思わせたいってあるじゃないですか。そう思った時に、これまでの県民劇団の名前を調べたんですよ。がくらく座、静火、静岡県史、MUSES、みんな由来があって、カッコいいなって思ったんです。そこで、じゃあ由来も何もなくて、「何カッコつけてるの?」っていう名前にしようって(笑)。SPAC県民劇団ってカッチリしているイメージなんですよ、たぶん、特に若い子からすると。そんな中に、こんな中二病みたいな名前がくるってことは、「SPAC何か変わったのか?」って思われるんじゃないかって。
県民劇団に応募した最初の話じゃないんですけれど、実は「俺なんて受からないだろうな」っていうところからスタートしているんです。今まですごい勉強をしてきたわけじゃないし、自分が本当にカッコいいなって思うものを独学でやってきただけなので。でも、自分が藤枝や静岡中部でそれなりに若い子たちから支持をもらってここまで来られたのは、そういう層に対して、今まで働きかける演出家や演劇がなかったからだと思っているんです。正統派の演劇を創っている方からすれば、木田博貴って「ああ、あの中二病ね」みたいな感じのイメージがたぶんあると思うんです。でもそんな自分がもし選ばれたら、面白いんじゃないかって。俺より若い子たちが、「木田さんみたいな中二病でもいいんだ、じゃあ自分もやれるかな」って思って、新しい何かが広がっていけば良いなって。今まで県民劇団をやってきた方って、まあ言っちゃえば有名人なんですよね、静岡で。渡辺さんは県外でも賞とか取っているし、佐藤さんは東京でもやったことがあるし、松尾さんも元SPACで、県西部で名前も売れているし、近江さんも長くやっていて、知識も豊富。その中で、次が俺っていうのが、結構大事だって思っているんです。ちょこちょこ名前は聞くけど、SPACっぽくないよね、みたいな。だから劇団名についても、「ふざけた名前にしやがって」って思って観に来ないなら来ないで全然構わないんです。だって元々俺の演出がちょっと外したいってところにあるんで。

――最後に、公演が近づいてまいりましたが、意気込みを聞かせてください。

俺はいつもそうなんですけど、やるからには最高の舞台を創りたいんですね。何をもって最高なのかは、人それぞれですし、俺にもはっきりとした基準はないんですけど。それに今までどれだけやっても最高の舞台は創れていないんですね。だって、必ずどこか足りない部分はあって、例えば稽古スケジュールの組み方一つにしても色々な可能性があったわけで、もっと出来たことは必ずある、だから俺にとって作品は毎回失敗作とも言えるのかも。それでも目指している場所が、絶対に他の演出家さんに負けない自信はあるので、今回の『オレステス』が俺の、そして「壊れていくこの世界で」の全てではなく、その片鱗を感じてもらえたらな、と思っています。こいつら、これからもっともっとすごいことやるんじゃないか、って感じてもらえたらいいなぁって。
今後も注目してもらえるような作品創りを限界まで挑戦していきます。
『オレステス』の主人公オレステス同様、「壊れていくこの世界で」の現在と未来を楽しんでいただければ幸いですね。是非、観に来てください。

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私たち日本人にとって安心感のある「和のビジュアル」と、
極度の緊張感が漂うギリシャ悲劇『オレステス』が融合した時、
何が生まれるのか…?
とてもワクワクしてきました!
劇団名の謎も解けましたね(笑)

県民劇団・劇団壊れていくこの世界で
旗揚げ公演『オレステス』、
2月28日(土)13:30/19:00開演、3月1日(日)13:30開演、
会場は舞台芸術公園 稽古場棟 BOXシアターです。
是非、ご覧下さい!!
☆詳細はこちらhttp://spac.or.jp/kenmin_201502.html