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2015年3月14日

【新人は見た!/『盲点たち』稽古場日記】vol. 1 ヴィトリから静岡へ

 本日から始まる『盲点たち』のブログ。「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」で上演されるSPAC新作の創作現場の裏側や見どころを私、横田がお伝えしていきます。……とはいえ、ワタクシ実は先月の2月にSPACに入団したばかり……。劇団での仕事も覚えながら、日々稽古に参加しながら考えたこと、勉強したことを発信していきます。日本平の森の中で上演される『盲点たち』が、どうなっていくのか、新人の目線でお伝えします!

 今回は、演出家を紹介します。

 『盲点たち』の演出家ダニエル・ジャンヌトーDaniel Jeanneteau(仏)は、SPACとは今回が三作品目の共同制作になります。『ブラスティッド』(2009)、そして『ガラスの動物園』(2011)を経て、今回の作品は、19世紀に活躍したベルギーの作家モーリス・メーテルリンクMaurice Maeterlinckの『群盲』 « Les Aveugles »(原題)です。(※SPAC版タイトルは『盲点たち』。)

 ダニエルは、フランスを代表する演出家クロード・レジの舞台美術(セノグラフィ)を1980年代から15年以上担当してきました。他にもパスカル・ランベール(仏)やトリシャ・ブラウン(米)などの作品の装置も担当しており、国境を越えて活躍するアーティストです。

 自身の演出作品に限らず、ダニエルの舞台美術への取り組みは、装置の単に見える部分だけに留まりません。演出家と作品のコンセプトについて相談しながら、客席の組み方や観客の視線など、会場全体をデザインします。ですから、会場全体が彼の作品となります。普段とは違う劇場の使い方をするのは当たり前、舞台のいたるところに彼の工夫が見えるのが見どころの一つです。今回、日本平の森を会場に選んだのも、こうしたダニエルの仕事ならではと言えるでしょう。

 「高校生の時からずっとこの戯曲を上演したいと夢見ていた」と、ダニエル。「その時から思っていたのは、観客にも登場人物と同じように目が見えない人になってもらうことなんだ。」……メーテルリンクの世界に俳優もお客様も一緒に丸ごと浸かってみる。戯曲がこうやって現代に生き返ると考えると、本番が楽しみでなりません。

 もう一つ、ダニエルと日本の(私から見た)ちょっと感動的なお話を。
 ダニエルと日本の関係はSPACとの出会いよりも、もうちょっと遡ります。1998年に関西日仏交流館「ヴィラ九条山」のレジデンス・アーティストとして京都に滞在。京都での滞在を漫画『京都=ベジエ』(ベジエはフランスの南にある郡庁所在地)として出版します。日本が大好きなダニエル。2009年にSPACと『ブラステッド』を共同制作する時の演出ノートを見ると、「演劇人として、奇妙なことに日本に戻ってきたのだ」と書いています。

 ダニエルは、長く共同演出を務めていたマリ=クリスティン・ソマと共に2008年にフランスのヴィトリ=シュル=セーヌ県にあるヴィトリ市の運営するスタジオ兼劇場「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリ」(Studio-Théâtre de Vitry)の芸術監督に就任します。経営方針は以下のようです。

「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリは劇場ではない。探求の場所であり、今について語る劇場を作り出す実験室だ。必ずしも成果を残す必要はない。ここは避難所でもない。むしろ反対にリスクを侵す場所だ。リスクの危険は、生きた創造の条件でもある。理想的なアトリエは、逆説でもあるが、世間から十分に遠ざかることで、リスクをきちんと負うことが出来るのだ。」
(引用:劇場HPよりhttp://www.studiotheatre.fr/

 ダニエルがSPACで最初の仕事をしたのが2009年。都会から少し離れて、自分の作品に没頭できる環境を手に入れたダニエルは、ここ静岡でもクリエイションを始めます。世間から一歩離れて、でも身の安全のためではなく、むしろ危険のために――つまり芸術のために必要な場所で。

 さて、静岡での『盲点たち』クリエイションの顔合わせの日、「この作品を35年間ずっと上演したいと思ってきた。フランスでその夢は叶ったが(※2014年パリでの上演のこと)、森の中でこの作品が上演できることになって、夢はもっと素晴らしいものになった。」とキャストやスタッフに告げました。

ダニエルは、SPAC版『盲点たち』を、自らのウェブサイト)に公演情報と演出ノートやインタビューを掲載していますが、なんとフランス語のタイトルも「Môten-Tachi」と日本語のローマ字表記で案内しています。サイトでは、日本平の森の紹介や、SPACの丁寧な説明をしてくれています。インタビューのタイトルは「ヴィトリから静岡へ」。フランスと日本という国の単位を超えて、個人の思いや地方自治体のつながりから生まれた作品であることを強調しています。

 こんな、色々な偶然と出会いに恵まれた『盲点たち』。これからも色々な見どころを紹介していきます!

創作・技術部 横田宇雄

参考:ヴィトリ市にあるダニエルのスタジオ「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリ」

「新人は見た!」・・・創作技術部の横田が『盲点たち』のクリエイションから見える様々な見どころを紹介していきます。

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SPAC新作『盲点たち』
日時:4/25(土)、5/2(土)、5/4(月・祝)、5/5(火・祝) 各19時(集合時間) 
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
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