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2015年3月25日

*ふじのくに⇄せかい演劇祭2015 見どころ紹介(1)* 『盲点たち』

文芸部 横山義志(海外招聘担当)

ふじのくに⇄せかい演劇祭2015の演目を、いくつかランダムにご紹介していきます。まずは、ちょうど稽古を見に行ったところなので、『盲点たち』から。(翻訳チェックを担当しています。)
 

戻ってこない人

北方の島にある盲人のための療養所。冬がやってこようとする前に、そこに住む12人の盲人が、療養所を運営する年老いた神父さんに連れられて、森に遠足に行きます。森で一休みすることになり、神父さんはどこかに出かけたようです。でも、いくら待っても、神父さんは戻ってきません。あたりはすっかり暗くなっているようです。

この話を書いたのは『青い鳥』で有名なメーテルリンクですが、これは文字通り、かなり「暗い」話です。原作『群盲』(あるいは『盲人たち』、Les Aveugles)では、観客には、木に寄りかかって亡くなっている神父さんの姿が見えることになっています。だから、お客さんにははじめから、神父さんが戻ってこないことは分かっています。そして、お客さんには、それから何が起きるのかがある程度想像できるでしょう。というか、少なくとも「何が起きないか」はだいたい分かっているわけです。そして、その結果どうなるか、ということも・・・。
 

「何も起きない」ことで何かが起きる

この作品がすごいのは、「何も起きない」ことこそが事件になっているということかも知れません。ふつうお芝居というのは、何か重大な事件が起きて、それで登場人物がどうしていいか悩んで右往左往する、というものでしょうが、この作品では、重要な事件はすでに起きているのに、誰もそれに気づきません。でも、「何も起きない」ことこそが最も恐ろしい事態だということには、徐々に気づいていくでしょう。

もちろんこれは劇場での上演を前提としているわけですが、今回は日本平の森のなかで上演してみることにしました。これが本物の夜の森で上演されるのははじめてかも知れません。真っ暗なので、お客さんにも、何が起きているのかはよく分かりません。登場人物だけでなく、お客さんも含めて、誰にも見えないので、今回は『盲点たち』という題名にしました。

とはいっても、暗闇のなかに身を置いてみると、いつもとは違う感覚が研ぎ澄まされていきます。『青い鳥』も、ふだん目に入っているのに「見えて」いないものに気づいていく、という話でしたね。この作品もきっと、何か大事なことに気づかせてくれるものになるんじゃないかと思います。演出のダニエル・ジャンヌトーさん(フランス)は、もともと舞台美術家だったのですが、はじめて全く「舞台装置」のない作品に挑むことになりました。そのかわり、いろいろな音で空間を作っていくことになりそうです。「むしろ見えないことで、豊かなヴィジョンを持って帰ってもらえるような作品にしたい」と言っていました。

もっといろいろ書きたい気もしますが、とりあえずこのあたりで。

「寒くなってきたね」という台詞がありますけど、春とはいえ、たぶんかなり実感できると思います。くれぐれも暖かい格好でいらしてくださいね。
 

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SPAC新作『盲点たち』
日時:4/25(土)、5/2(土)、5/4(月・祝)、5/5(火・祝) 各19時(集合時間) 
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
【新人は見た!/『盲点たち』稽古場日記】

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