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2015年3月30日

*ふじのくに⇄せかい演劇祭2015 見どころ紹介(5)* 『ベイルートでゴドーを待ちながら』

文芸部 横山義志(海外招聘担当)

ふじのくに⇄せかい演劇祭2015の演目をランダムにご紹介していきます。
第五回目は『ベイルートでゴドーを待ちながら』
中東レバノンの、これもブラックユーモアにあふれた作品です。
 

ベイルートで、中東で、ヨーロッパで

一昨年ドイツで行われていたアラブ演劇のフェスティバルで、一番客席が沸いていた作品でした。アラビア語上演でところどころドイツ語の字幕が出ている、という感じなのに、たたみかけるような対話と絶妙の間で、客席はすっかりイサームとファーディーの二人に魅了されていました。聞けば、この作品をベイルートでやるときは、48時間前に告知しても劇場がいっぱいになる、というくらい評判になった作品だそうです。二人とも、映画やテレビドラマなどで、レバノンだけでなく中東全域で活躍し、フランス映画にも出ていたりします。
 

中東の不条理的日常

浮浪者風の男が二人。なぜか新聞の訃報欄を読んでいます。「この若者は自動車事故で死んだらしいぞ」「こっちは医者だ」「じゃあ俺の背中を治してくれるかな」「何言ってんだ、死んでるんだぞ」等々・・・。どっちの葬式に行った方がいいものが食べられるか?些細なきっかけではじまった言い争いは罵りあいへとエスカレートしていきます・・・。

邦題のとおり、不条理劇の代表的作品であるベケットの『ゴドーを待ちながら』をモデルにして、現代のレバノンを描く作品。レバノンは「宗教の博物館」ともいわれ、国会の議員数が主にイスラム教とキリスト教の公認18宗派ごとに割り当てられています。この宗派同士の対立に、さらに国家主義、社会主義、共産主義等々の党派も加わって、レバノン政治はかなり複雑な状況を呈しています。そのうえ、隣国シリアやイスラエル・パレスティナ(かつては同じ地域圏でした)、さらには最大宗派のシーア派を通じてイランからの影響も大きく、1975年から15年にわたって内戦状態にありました。レバノンの演劇人が不条理劇を好むのは、日常そのものがあまりに不条理だからでしょう。
 

レバノンを代表する演劇人

イサーム・ブーハーレドは演出家・劇作家として、今日のレバノン演劇を代表する存在の一人です。レバノンの首都ベイルートは中東でも有数の文化都市で、多くの演劇人を輩出してきました。これまでSPACでは、レバノン出身のアーティストとして、ラビァ・ムルエとワジディ・ムアワッドを紹介してきました。

*ラビァ・ムルエ『消えた官僚を探して』(Shizuoka春の芸術祭2008)
http://spac.or.jp/08_spring/disappear.html

*ワジディ・ムアワッド『頼むから静かに死んでくれ』(Shizuoka春の芸術祭2010)
http://spac.or.jp/10_spring/littoral.html

イサームはラビァと同世代ですが、様々なメディアを使いこなし、世界中のフェスティバルで紹介されているラビァに比べると、より演劇にこだわり、ベイルートにこだわってきたアーティストです。ベイルートの中心部でレバノンの演劇文化を支えてきた「ベイルート劇場」の芸術監督を務めていましたが、立地がよいので投機の対象となり、売却されてホテルになることが決まったといいます。ベイルートでは演劇教育が盛んで、二人ともベイルートの大学で演劇を学び、今では演劇の授業を担当したりもしていますが、演劇活動に対する公的補助はほとんどなく、舞台自体を職業にするのは極めて難しい状況です。イサームがあまり外国に行かないのは「飛行機が嫌いだから」、とも言っていましたが(ドイツで会ったときもさんざん「日本?飛行機だよなあ・・・何時間かかるのかなあ・・・」などとぼやいていました)、近年はヨーロッパにもたびたび招聘されるようになってきました。

多才なコメディアン二人による、不思議にリアルな不条理劇をお楽しみください。
 

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日本初演 演劇/レバノン
『ベイルートでゴドーを待ちながら』
 作・演出: イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー (サルマド・ルイの協力による)
 出演: イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー
5/2(土)17:00、3(日)12:00、4(月・祝)13:30
舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
http://spac.or.jp/15_page-7.html
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