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2016年2月26日

◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆ 『ロミオとジュリエット』出演俳優トーク

◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆

中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。
パンフレット裏表紙のインタビューのロングバージョンを連動企画として、ブログに掲載します。

ロングバージョン写真

キャピュレット役
貴島豪(きじま・つよし)
1998年よりSPAC所属。出演作に『真夏の夜の夢』、『ハムレット』(演出:宮城聰)、『変身』(演出:小野寺修二)他。

ベンヴォーリオ役
舘野百代(たての・ももよ)
1997年よりSPAC所属。出演作に『王国、空を飛ぶ!~アリストパネスの「鳥」~』(演出:大岡淳)、『変身』(演出:小野寺修二)、『天守物語』(演出:宮城聰)他。

<台本にあるセリフは全部覚える!?>
──オマール・ポラス演出の『ロミオとジュリエット』は2012年に初演されましたが、当時、配役はどのように決まったのでしょうか?

舘野: 最初は出演者が全部の役を順番に、男女も関係無しにやってみて、その中でひとりひとりの特質を見極めながら決めていくのがオマールのスタイル。だから台本にあるセリフは全部覚えてこいって言われる(笑)。『ロミジュリ』(注:『ロミオとジュリエット』のこと)は最初特に男女逆にやるっていうつもりはなかったんだけれど、ロミオを男優で試し続けていて、何か足りないって思っていたんじゃないかな。そこで実幸(みゆき)(山本)にやらせたら空気が変わって…結果としてオマールは今の形に一番可能性を感じたみたい。
貴島: いろんな役をやることで、その俳優が自分でも気づいていなかった特質が出たりするんだよね。それを、オマールが思い描く登場人物たちのイメージとすり合わせて配役が決まる。
舘野: そういうやり方だから、こちらが事前にこう演じようと思って準備していったものは全部潰されちゃうんだよ。オマールは俳優がその場で何かを生み出すのを待っている。俳優自身も知らない個性が出てくるのを。俳優は全部「さらされる」から、嘘もつけないし、本気でやらないとオマールとは戦えない。

<本当の自分>
──「さらされる」とは何を通じてそう感じるのですか?

舘野: 『ドンファン』(※)のキャスティングでもやったのは、俳優が仮面をつけてやる即興パフォーマンス。まず俳優はオマールの持ってきた仮面をつけて、鏡の前で自分の姿と向き会う。そして、平台を数枚敷いたくらいの小さな空間で、その場で考えて即興的にパフォーマンスをする。もちろん、オマールや他の俳優の観ている前で。何をやってもいいんだけど、もし何もできなければ自ら退場するか、何も生み出せない状態のままじっと観られ続ける。そこで何か面白いことができたとしても、観ている人は笑ったりしてはいけない。そうすると俳優はその反応によりかかってしまうから、という…。
貴島: とりあえず舞台に出されて、「何かやってくれ」って(笑)。何もできない人がいたり、役者の性として「何かやらなきゃ」って思うから結局ドツボにはまってずっと舞台から降りられない人がいたり…。観てるほうも辛いよ。
舘野: どうしようもない状況になればオマールはヒントをくれるんだけどね。「あなたの名前は?」とか。でもそこで本名を答えると、「違う」と言われる。なぜなら仮面をつけているから。その場でキャラクターを作り上げなくてはいけないということ。
貴島: ふつうは仮面をつけたら「他の人を演じる」という感覚なんだろうけど、オマールは仮面をつけることでその人の奥底に隠れている本質的な部分を引き出させようとする。

※SPACスプリングシーズン2011『ドンファン』(2009年初演)
http://www.spac.or.jp/11_spring/donjuan.html

<「慣れ」との戦い>
──配役が決まった後の稽古はどんな様子ですか?

舘野: 稽古を繰り返していると、慣れてきて、だんだん自分のクセが出てきたりするよね。そうするとオマールはシチュエーションを変えたり、出る順番を変えたりして揺さぶってくる。常に新しいもの、前に進むことを追求しないと役は活きてこないから。稽古というと何度も同じことを繰り返してそれを確実にしていくことが多いんだけど、そうやってどんどん変更を加えるオマールとの作品作りが、自分の幅を広げるターニングポイントになった気がする。
貴島: 俳優が慣れてきたときに、オマールはそれを「メカニック(機械的)」と表現するんだけど、それを絶対に許さないから、俳優を自分の範囲から引っ張りだして、外に向かわせるように新しい要素を入れて活性化させる。演技に慣れてくると自分の箱の中でうまくやっているつもりになりがちだから。それにしてもオマールはそういうとき本当に察知するのが早い。もしかしたら、自身が若いころから俳優を志して母国を出て、言葉の通じない国で路上パフォーマンスをして見知らぬ人にさらされながら、学費を稼いで芝居の勉強をしていた経験も影響しているのかな。

<日本語の音を考える>
──上演台本は日本語ですが、オマールさんは日本語のセリフにどうアプローチするんでしょうか?

貴島: オマールは日本語の響きやリズム感にも敏感。俳優が日本語として自然な、話しやすいトーンでセリフを言うと、「ここで欲しいのはそういう音じゃない」と言われるときがある。それでオマールは求めているアクセントを「タ、タ、タ、タ、タ」とか言って実践してみせるんだけど、もちろん彼は日本語の母語話者じゃないから、日本語的にはありえないアクセントだと最初は思う。でも実際にやってみると、意外と日本語っていろんな話し方ができるんだなっていう発見があったりする。このすり合わせ作業は大変だったけど、目からウロコの連続でもあった。
 『ドンファン』では仮面をかぶって大きな身振り手振りをするような演技をした。でも、日本人の俳優は大きなジェスチャーの演技はちょっと大げさに感じるから、最初は違和感があった。オマールは能や歌舞伎も勉強してきているから、日本に特有の動きの様式があるということも知っている。それを、オマールの持っている様式をすり合わせて自然にできるようにしていく。そういう違和感から始まるすり合わせが、演技に深みをもたらしたと思う。
舘野: 身振り手振りも、適当にやってるんじゃなくてちゃんとコードがあるんだよね。慣れてない日本人からするとはじめは表面的に真似することしかできないんだけど、だんだんその意味も考えるようになってきた。

<世界レベル>
──稽古場でのオマールさんはどういう人ですか?

貴島: 厳しい人だね。求めているものが出てくるまで何時間でも待つ。反面、ものすごく気が早いときもある。パッとインスピレーションがわいたら、相手が悩んでいても「あれやって、これやってみて」とどんどん要求してくる。そうなると休憩も全然とらないし。とにかく極端で、中庸というものがない。何かを妥協したりは絶対にしない(※)。
舘野: 演劇に限らず、そういう人たちが世界をリードするんだろうね。その肌に触れられるのはとてもありがたいこと。

※貴島豪による、『ふじのくに⇄せかい演劇祭2012』で上演されたテアトロ・マランドロ『春のめざめ』でのオマール・ポラスについてのコラム
http://spac.or.jp/blog/?p=11313

<「ぶっ飛んだ演出家」オマールとの出会い>
──SPACの俳優の中でも特にオマールさんとの付き合いが長いお二人ですが、そもそもの出会いはどんな形だったのでしょう?

舘野: 最初にオマールに出会ったのは鈴木忠志さんが芸術総監督だった頃、1999年の『血の婚礼』。ヨーロッパでこの芝居を観て、呼ぼうと思ったらしい。で、実際に観てみたらものすごくぶっ飛んでいて、夢の世界に連れていってもらえた。でも滅茶苦茶ではなく、きちんとした枠があるという印象を受けた。その当時の俳優トレーニングに取り入れてみたりしたよね(笑)。
嬉しかったのは、『ロミジュリ』でヨーロッパ公演をしたときに、オマールの劇場(シテ・ブルー)で、「やっと夢が叶った」って言われたこと。オマールは『血の婚礼』のときから、SPACの人と仕事をして、自分の劇場に連れてくるのが夢だったんだって。
貴島: 芝居もぶっ飛んでいたけど、当時のテアトロ・マランドロ(オマールの劇団)のメンバーは…(笑)。普段の格好からアナーキーだったよね。
舘野: そうそうそう、鼻ピアスに、紫の髪とかで…(笑)。
貴島: でも演劇の話になると、とにかく真摯だし、作品からもそれが痛いほど伝わってくる。鈴木さんはそういうところを気に入ったのかもしれないね。

<ハードなツアー経験>
『ロミオとジュリエット』は2013年にヨーロッパツアーを行いましたね(※)。いかがでしたか?

貴島: ヨーロッパツアーではジュネーヴを拠点にして10都市まわったよ。ハードなスケジュールだったけど、行くところすべてが新鮮(笑)。新しい劇場に入って1日や2日で本番ということもあったけど。
舘野: 劇場入りして、通し稽古して、本番やって、夜に帰る、みたいなことで鍛えられたね。
面白かったのは、長期滞在だから俳優がそれぞれ違うアパートに泊まっていたこと。普段の海外公演みたいにみんなで同じホテルに泊まって、集まって劇場に行って…じゃなかったこと。同じチームなのに劇場で集まるまではお互いの生活にノータッチで、大人な感じだった。
貴島: 生活能力も問われたね。自炊能力、買い物能力…(笑)。体調管理は本当に大事。それでも長くいるとだんだん普段日本にいるときと同じような感じで、リズムができてくる。ジュネーヴを拠点にして、TGV(フランスの高速鉄道)でいろいろなところに行って。4カ月近くいたのかな。フランス語はなかなか覚えなかったけど(笑)。
舘野: 生活していくうちに現地の人たちといろいろな出会いや交流もできたしね。
貴島: CERN(セルン・欧州原子核研究機構)見学とか、MMAジムに通ったり(笑)。

※出演者による、2013年『ロミオとジュリエット』ヨーロッパツアーのブログ
http://spac.or.jp/blog/?cat=74

<外国人出演者たちから学んだこと>
──演出家のオマールさんだけでなく、出演者にも外国人の方々がいますね。一緒に作品をつくった印象はどうでしたか?

貴島: 一緒にトレーニングをやったりするとわかるんだけど、身体について何を大事にしなきゃいけないかっていうことは同じ。俳優それぞれいろんなプロセスを通ってきたとしても、お互い共通の肉体言語を持っているんだよね。
舘野: もうひとつ、印象的だったのは、例えば稽古に遅刻してしまったときとか、日本人だとまず「なんで?」から入っちゃうんだけど、オマールは「来てくれてありがとう」と言う。そういう風にポジティブから入るのはいいなあと思った。あとフランスやスイスで、スーパーで買い物してたら、現地の人はレジでまず「ボンジュール」って言うんだよね。自分も取り入れようと思って、日本でもレジで「こんにちは」って挨拶してるうちに店員さんと仲良くなったりした。そういう風に、芝居の外でもいろいろ取り入れたことで、自分が豊かになった気がする。
貴島: そういえば、フランスとかスイスでは文化として劇場に行くことが生活の一部になっているんだよね。スポーツ観戦とかと同じ感覚で。日本だとまだそこまではいっていない。これから特に若い人たちの間でそういう風になっていったらいいな、と思う。

<喜劇としての『ロミオとジュリエット』>
──SPAC版『ロミオとジュリエット』の見どころを教えてください。

舘野: 400年前に『ロミジュリ』が書かれたころ、当時のシェイクスピア演劇は男性だけで上演されていたんだって。きっと劇団には長老みたいな人がいて、ベテラン看板俳優がいて…。もしかしたらシェイクスピアは、若い人を主役にした『ロミジュリ』を書くことで、そういう状況に対してオマールと同じで「揺さぶり」をかけたのかも(笑)。SPACでも、若い役者をベテランが支えるっていう形で見せられたらいいな。
貴島: それから『ロミジュリ』って、たった5日間の恋愛劇なんだよね。オマールの演出はその疾走感をとても大事にしている。二人の悲恋が注目されがちだけど、実はメインは前半の喜劇的な部分じゃないかと思う。オマールは『ロミジュリ』の喜劇的要素を拾い上げて、スピード感・リズム感にあふれた作品に仕上げた。これは他の『ロミジュリ』にはない時間感覚じゃないかな。
あとはオマールの日本観が表れた舞台も見どころだよ。日本人が観るとまるでB級の忍者映画みたいなところが無きにしもあらずなんだけど(笑)、オマールなりに「日本とはなにか」ということがよく考えられていると思う。
舘野: 台本の解釈が深いから、いろんな要素を取り入れても踏み外さないんだろうね。

2016年1月11日 静岡芸術劇場にて
(構成・塚本広俊)