2017年1月25日

【シェイクスピアの『冬物語』稽古場ブログ#9】

今回は、大阪の人形劇団クラルテから研修にいらしていた佐藤結さんによるブログ最終回です。

いよいよ、シェイクスピアの『冬物語』が一般公演初日を迎えました!とともに、約一ヶ月に渡るわたしの研修生活にも終わりがやってきました。この期間、劇場でお会いした皆さま、ブログを読んでいただいた皆さま。お会いできてうれしく思っています。ありがとうございました。
劇場では1/16より、平日は静岡県内の中高生を劇場にお迎えしてのSPACeSHIP(スペースシップ)げきとも!(中高生鑑賞事業公演)が、週末は一般公演が行われています。SPACeSHIPげきとも!公演は、静岡県内の学校に通う中高生に、その6年間の在学中に一度はSPACを観てもらいたいという思いを込めて実施されているそうで、年間1万5千人から2万人の中高生を劇場でお迎えしています。劇団が劇場を持つ「SPAC」という存在が日本ではめずらしいことなので、他県の在住者からみると、このような劇場が県内にあり、中高生の間に一度は観劇の機会を持てるということをとてもうらやましく思います(中高生の間に、一度も芸術鑑賞の機会がない場合もあるのです)。
なお、中高生鑑賞事業公演は一般の方にもチケット販売されており、土日の公演にいらっしゃることができない方は、平日の鑑賞も可能となっています。演劇は生なので、客席の雰囲気がダイレクトに舞台に伝わります。たくさんの中高生と一緒に作品を観るというのもなかなかできない体験なので、いらしてみるとよいかもしれません(今回は特に、漁師親子のシーンが大盛り上がりです)。


<漁師親子(ムーバー左・横山央、右・小長谷勝彦)が最初に登場する場面。愛すべき親子>


<SPACeSHIPげきとも!公演時、ロビーでのお見送りの様子>

演出の宮城さんは、『冬物語』はシェイクスピア晩年の作品で、それまでのシェイクスピア戯曲にみられるような、人が人を殺すことのない作品だから選んだということと、過ちを犯した人間にも大いなる「赦し」が訪れる作品だと以前のおためし劇場でおっしゃっていました。上演を観ながら、『冬物語』というタイトルは、登場人物たちの心象風景なのかな…と思ったりもします(Winter’s Taleという英語には、「冬の夜長をやり過ごすために暖炉のそばで語られるたわいもないやりとり」という意味があるそうですが)。劇中で描かれることのない16年、その年月を、自分が招いた罪の重さに苦しみながらシチリア王・リーオンティーズはいかに過ごしてきたのか…、アポロンの神託を信じ、王妃・ハーマイオニを慕いつづけたポーリーナは…、善良な判断で結果的にリーオンティーズの命に背き、異国・ボヘミアで16年を過ごしたカミローは…。きっとそれは、大切なもの(人)をなくしたことによる冬の寒さのように凍てついた16年だったのではないでしょうか。大切なものを失った彼らに対し、これから色んなものを得て、未来をつくっていくフローリツェルとパーディータの明るい存在感。暗く悲劇的な前半から喜劇的な盛り上がりをみせる後半への飛躍には命の躍動が感じられますし、人が人を殺す話を多く描いてきたシェイクスピアが、そうではない物語を晩年に書いたということは必然だったかもしれないなと思います。そして、どうにもうまくいかないひとりの心の歯がゆさを、二人一役という手法が引き立てます。


<シチリア王・リーオンティーズ(ムーバー・大高浩一)に臆することなく相対するポーリーナ(ムーバー・たきいみき)と、妻・ポーリーナの凛とした姿勢に遅れながら、決して流されるままではないアンティゴナス(ムーバー・吉見亮)>

演劇としてみると、リーオンティーズのように急に気持ちが変わって怒り狂うなんていうことはおかしいと思われるかもしれませんが、これって、実は現実によくあることではないかな、と思います。そんなつもりはなかったのに、ふとつぶやいた一言があとから大きな事件につながってしまったり、人を傷つけ、とりかえしのない事態になることも…。ひとりの人間の中にいろいろな人格を持っていたり、言おうと思ったことと口をついて出た言葉が違っていたり、今も昔も、王様も庶民も、人間って変わらないなあ、愛すべき存在だなあとシェイクスピア劇をみて思ったりもします。ただ、『冬物語』では最後に大いなる癒しが訪れますが、普通の人生だとそうもいきません。不用意な言動には気をつけたいものです。


<豹変したリーオンティーズに愁いながら、それでもなおやさしさをみせる妻・ハーマイオニ(ムーバー・美加理)>

さて、本日をもって、わたしの研修期間は終了です。数回のブログを読んでくださった皆さま、誠にありがとうございました。公演のない日は閑散として閉ざされた空間であることも多い劇場ですが、SPACでは、公演のない日にも劇場1Fロビーは開放されており、演劇をつくるためのプロフェッショナルな各専門スタッフと俳優が所属して、日々、クリエイションが行われているので、劇場が生きていることを感じました。毎日毎日色んな人の出入りがあり、劇場もうれしそうですよ。また、劇場を使った公演だけでなく、こどもたちのためには、舞台と近い距離でたのしめる「おはなし劇場」が、劇場へ足を運びにくい方のためには「リーディング・カフェ」「アウトリーチ活動」があります。SPACは、演劇に関連する活動を多岐に渡って行っています。情報はホームページでご確認くださいね。
そして、ぜひ、劇場にいらしてみてください。劇場は、あなたが来るのを待っています!(2017年1月22日)

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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯4
シェイクスピアの『冬物語』
一般公演:1月21日(土)、22日(日)、29日(日)
     2月4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)
演出:宮城聰 作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子
音楽:棚川寛子 出演:SPAC
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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