2017年7月25日

アヴィニョン法王庁日記(13) 2017年7月10日 公演四日目

SPAC文芸部 横山義志

昨日7月9日は休演日で、各々洗濯をしたり、オリヴィエ・ピィさんの舞台を観に行ったり。あちこちで「『アンティゴネ』よかったですよ!」と声をかけられる。

今日は14時から15時半までヨーロッパの演劇・文学研究者による『アンティゴネ』関連の研究集会「尊厳とヒロイズム(主体の放浪)」に参加。ギリシャ悲劇に詳しい学者さんたちが「ヨーロッパ人による『アンティゴネ』の演出は心理劇になってしまいがち。宮城さんの演出はコロス(合唱隊)をみごとに使っていて、これだけソフォクレスの精神に忠実な演出はなかなか見られない。また改めて研究集会を開きたい」などとおっしゃってくださる。

16時半からアヴィニョン大学の中庭で宮城さんのトーク「アンティゴネ、必要な悲劇」。去年の演劇祭のトークよりもだいぶ人が多いという。猛暑のなか、200人くらいが熱心に聞いてくれた。宮城さんが『アンティゴネ』の翻訳を使わせていただいた柳沼重剛さんが、被爆後60年以上経った2008年に原爆症で亡くなったという話をすると、会場が静まりかえる。

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▲トーク「アンティゴネ、必要な悲劇」


▲トークの全編映像 こちらからもご覧いただけます。

法王庁の楽屋では15時半から『少女と悪魔と風車小屋』主演のデリア・セピュルクル・ナティヴィさんによる「ミニ・アンティゴネ」発音指導。

20時、アヴィニョン演劇祭支援者のためのパーティーに顔を出す。アヴィニョン演劇祭の理事長でもある元ルノー自動車会長兼CEOのルイ・シュヴァイツァーさん(アヴィニョン演劇祭の理事長)が『マハーバーラタ』につづき、法王庁でこれほどの舞台はなかなか見ていません」とおっしゃってくださる。フランソワーズ・ニッセン文化大臣のご友人という方から、「『アンティゴネ』のあと、フランソワーズさんからSublissime !(最高!)というSMSをいただいた」とのこと。

22時、客席開場。要領がよくなったのか、22:10にはほぼ客入れ完了。今日の「ミニ・アンティゴネ」は発音も演技のリズムもよくなっていた。抑制もきいて、必要なところだけ拍手が入るように。

見覚えのある真っ白な修道服姿の方が。ゲネにも来てくださったドミニコ会の修道士のレミさん。ストラスブールの大学で神学を教えつつ、カトリック系新聞の劇評欄を担当なさっている。「2014年に石切場で見た『マハーバーラタ』がすばらしかったので、アヴィニョンに来る前から楽しみにしていました。(ストライキで公演中止になったときの)法王庁前でのマハーバーラタ公演も、トレーニングからすぐそばで座って見ていました」という。「十字架のすぐ下で、(トレーニングの)お経を唱えていて、すごくドキドキしたのですが、気になりませんでしたか?」と聞くと、「私は、異なる要素は互いに対立するのではなく、共鳴するのだ、と考えています」という。

「フランスのカトリックの方はこのアヴィニョン法王庁を誇らしく思っているのでしょうか?」と聞くと、「複雑な気持ちでしょうね。この教会(法王庁)はまるで要塞のようですが、教会というものは本当は家のようなものでなければなりません。この教会はふだんは閉ざされていますが、アヴィニョン演劇祭がこれを多くの人に開いてくれているので、とてもうれしいです」とのこと。

レミさんが研究対象としている神学者マイスター・エックハルトは異端の告発を受け、弁明のためにアヴィニョン法王庁に赴き、その途上で1328年に亡くなったとされる。だから、アヴィニョンに来るたびに複雑な気持ちになる。1328年には、まだ現在の宮殿の建物はできていなかったが、当時の教皇によって建てられた聴聞室(裁判所)は、今の法王庁中庭の舞台上手側の下、ちょうど薔薇窓の下にあたる部分にあった。レミさんは「薔薇窓にクレオンの影が重なるたびにドキドキしました」という。この巨大な薔薇窓は「赦免の窓」と呼ばれ、1351年に完成した「新宮殿」の目玉ともいえる構造物。ここは「名誉の中庭」に集まった大群衆の前で新教皇が戴冠し、祝福を与えるところだった。今回の演出では、アンティゴネを裁こうとする新王クレオンの影がこの薔薇窓に重なる。

レミさんはかつて東エルサレムの美術館で学芸員をしていたそうで、「いつか、この『アンティゴネ』をエルサレムでも上演できたらいいですね」という。三つの一神教の聖地で、「嘆きの壁」を背景に上演したら、どんな『アンティゴネ』に見えてくるだろう・・・。

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▲写真右から二人目がレミさん
 
 
*アヴィニョン法王庁日記バックナンバー*
(1) 2017年6月27日 静岡からフランスへ
(2) 2017年6月28日 アヴィニョン到着
(3) 2017年6月29日 仕込み一日目
(4) 2017年6月30日 仕込み二日目
(5) 2017年7月1日  仕込み三日目
(6) 2017年7月2日  アヴィニョン法王庁の歴史
(7) 2017年7月3日  法王庁中庭での上演の歴史
(8) 2017年7月4日  フォトコール
(9) 2017年7月5日  最終公開稽古(ゲネプロ)
(10) 2017年7月6日 公演初日
(11) 2017年7月7日 公演二日目
(12) 2017年7月8日 公演三日目
(13) 2017年7月10日 公演四日目

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第71回アヴィニョン演劇祭オープニング招待作品
アンティゴネ
構成・演出:宮城聰 / 作:ソポクレス / 出演:SPAC
7月6日(木)・7日(金)・8日(土)・10日(月)・11日(火)・12日(水)各日22時開演
会場:アヴィニョン法王庁中庭
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