2018年9月14日

『顕れ』パリ日記(1) ~なぜ日本の劇団がパリでアフリカの話をすることになったか~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月10日(月)

 
レオノーラ・ミアノ作、宮城聰演出『顕れ』公演のため、パリへ。

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第一陣の宮城さんと技術・制作スタッフがお昼頃に羽田を発ち、夜にはパリに到着。12時間ほどの旅路。

パリの空

パリのコリーヌ国立劇場による委嘱作品。フランスはふつう秋からシーズンが始まるので、シーズンの開幕作品となる。フランスの国立劇場が日本の作品をシーズン開幕に選んだという話は他に聞いたことがない。開幕作品というのはそのシーズンの顔になるような作品なので、かなり思い切った決断といえるだろう。メインの大劇場で、ほぼ一ヶ月間にわたって上演されることになるので、かなり責任重大だ。

レオノーラ・ミアノはカメルーン出身・フランス在住の小説家・劇作家。『顕れ』はアフリカの神話をベースに、奴隷貿易に手を貸してしまったアフリカ人たちを描いている。このような作品を日本の劇団がやることになったのには、ちょっと不思議な経緯がある。ここ10年ほどのいろんな話があって、少し長くなるが、お付き合いいただきたい。

まずはコリーヌ国立劇場と、この作品を提案してくれた芸術監督のワジディ・ムアワッドさんの話。

コリーヌ国立劇場は現代作家の作品を専門に上演している唯一の国立劇場だ。芸術監督は現代のフランス語圏演劇を代表する劇作家の一人、ワジディ・ムアワッド。レバノン出身で、内戦時に両親とともにフランスに亡命したが、滞在許可が更新できず、カナダのケベック州(フランス語圏)に渡った。若くしてケベック演劇界のスターとなり、フランスでも活躍するようになっていく。

SPACではムアワッド作・演出の作品を二作品『頼むから静かに死んでくれ』(原題:『岸』、Shizuoka春の芸術祭2010)、『火傷するほど独り』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2016)を上演している。世田谷パブリックシアターではムアワッド作『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』が上演されていて、日本でもだいぶ知られるようになった。

ふじのくに⇄せかい演劇祭2016に参加する直前、ムアワッドがコリーヌ国立劇場の芸術監督に就任することが決まった。中東出身でアラビア語を母語とする演劇人がフランスの国立劇場の芸術監督となるのははじめてで、ここには、とりわけ2015年のパリ同時多発テロ以来重要な問題となっている国内の融和への願いも込められている。

 
そのムアワッドからある日、「すぐに宮城さんとお話ししたい」とのご連絡があった。こんな話だった。

静岡からパリに戻ったあと、レオノーラ・ミアノと会って、「あなたの作品をどの演出家に上演してほしいですか」と尋ねた(ムアワッドは劇作家主導のプロジェクトを試みたいと考えていて、演出家が戯曲を選ぶのではなく、劇作家に演出家を選んでもらおうとしていた)。はじめ、フランスの演出家の名前をいくつか挙げたが、二人ともなかなかしっくりこない。そこで改めて、「ではどんな夢でも叶うとしたら? 世界中どこの演出家でもいいので言ってみてください」と聞いてみたところ、「以前見た日本の演出家の作品が、アフリカの神話的世界を描くのにぴったりだと思った。フランスの演出家ではどうしてもリアリズム的になってしまうが、彼が引き受けてくれたらいいと思う。たしか名前はミヤギとか・・・ご存じですか?」という答えが返ってきて、ムアワッドは驚いたと同時に、自分でもぴったりだと思った。そこで、宮城さんが引き受けてくれるか一刻も早く知りたいと思って連絡した、という。ミアノさんはアヴィニョン演劇祭2014で『マハーバーラタ』を、ケ・ブランリー美術館で『イナバとナバホの白兎』(2016)をご覧になっていた。一つはインド、もう一つは日本とアメリカ先住民の話で、たしかに二つとも、神話的世界を描いた作品だった。

思いがけない申し出に、もちろんこちらも驚いたが、これまでの活動が評価されたのもうれしくて、コリーヌ国立劇場と力を合わせ、なんとか実現にこぎつけることができた。

午後7時頃、空港から外に出ると、パリは思いがけないほどの熱気。9月でこんなに暑いのは珍しいという。フランスが日本とカメルーンとレバノンの交点になっているというのも、なんだか納得のいくような夜だった。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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