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2018年10月20日

歯車ワークス#4 静岡で芥川を訪ねて2 ~静岡市清水区・新定院から江尻埠頭~

静岡県内で芥川の足跡をたどると、修善寺の新井旅館のほかにもう1か所、静岡市清水区北矢部にある臨済宗のお寺・新定院に行き当たります。
前回ご紹介した新井旅館は、芥川が亡くなる2年ほど前療養のために訪れた場所ですが、新定院は芥川が東京帝国大学英文学科へ進学する直前に訪れた場所。友人たちに宛てた書簡は、芥川の瑞々しいエネルギーに満ちています。(★関連リンク:「静岡で芥川を訪ねて1 ~伊豆・修善寺 新井旅館~」)

このたび、新定院をはじめ書簡から読み取れる場所を実際に訪れてみました!

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大正2(1913)年8月、芥川は新定院を訪れ、10日間ほど滞在。最初は清水区興津の清見寺を滞在先に選んだものの、あいにく満室(?)のため、同寺に紹介されたのが、この新定院だったそう。

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▲今川義元公の家臣・野呂民部丞が建立し、彼の子息が開山となった由緒あるお寺、新定院。

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▲徳川家康公から朱印状を与えられた徳川家にも所縁のあるお寺であることから、瓦に葵の御紋が。

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▲今川義元公の存命中に作られた肖像彫刻。現存しているのはこちらを含め4体だけだそう。

芥川は新定院に滞在中、午前中は読書をしたり友人宛に手紙を書いたりして過ごし、午後は連日江尻まで海水浴に行っていたようです。また、清水区村松の龍華寺(高山樗牛のお墓がある)や鉄舟寺も時折訪れていました。
またご住職のお話からは、芥川が近所の駄菓子屋に釣竿を隠して(預かってもらって?)釣りに行ったり(殺生禁止なので、釣竿は寺に持ち込めない)、近所の女の子の似顔絵を描いてあげたり(あまり似ていなかったので、もらった女の子は似顔絵を捨ててしまったそう)、という何だか微笑ましいエピソードも。

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▲ご住職からお話を伺う。

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▲静岡新聞に掲載されたことも。

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▲ご住職と。芥川滞在時のご住職は祖父に当たるとのこと。芥川は当時のご住職と本堂の濡縁に座ってよく話をしたそう。

そんなのんびりとした旅先の生活の中でも、芥川の無類の甘味好きは健在。
浅野三千三(化学者。府立三中の後輩。後に東大教授として細菌学の分野で活躍)や広瀬雄(府立三中の恩師)宛ての手紙には「殊にこの頃は毎日海水浴をすると田舎料理の塩からきを食ふとの為甘い物に対する需要一層甚しく東京よりはるばる持来れる甘納豆バナナケークデセールなど既に大半を平らげてしまい候。」「毎日海水をすこしづつのむのと塩からき御菜を食ふとの為、甘い物が恋しく江尻清水の菓子屋は渉猟し尽し候。」と記しています。
東京からスイーツ持参って…、しかも何種類も…相当ですよね(笑)

また芥川は、当時の清水の様子を様々書簡に記しています。

(前略)江尻の海水浴場は眼界稍〃狭く設備も不完全に候へども鵠沼逗子鎌倉などの如く紅紫染わけの水浴衣に靴をはきて水にはいる様な奴がゐないだけ心地よく候。(中略)僕のゐる寺は禅寺にて主の和尚はサイダと云ふ語をしらず候。禅僧などと云ふものはのんきなものに候。(後略)

――8月12日 浅野三千三宛書簡より

 
(前略)猶同村の某家にては数年来家内に病人の絶えざる為易者を招きて卦を考へしめ候所、家の下の土中二丈五尺(※約7.6m)にして甲冑刀剣あり家人の病むはその祟なりと申し候より早速土を掘らせ候ひしに果して二丈五尺にして甲冑一具太刀一振を得し由に候。村の人々は皆易者の断じ得て神に入るを賞し居り候へども小生は寧易断を信じて直に二丈五尺の深きを掘りたるその家の主人の純朴さ加減に感心致候。(後略)

――8月19日 広瀬雄宛書簡より

東京生まれ・東京育ちの芥川は、清水とそこに住む人々の生活を、楽しみつつも驚きやもしかしたら若干の呆れを抱きながら観察していたのかもしれません。

さて、連日海水浴を楽しんでいた芥川ですが、新定院から江尻海水浴場までの道々の様子は、8月16日付井川恭(一高の同級生で親友)宛の手紙に記されており、今もほんの少しだけ、当時の面影を残す場所が。

例えば、
不二見橋と云ふのを渡る。欄干の下を碧い水がみがいた硝子板の如く光り乍ら流れる。
と記された富士見橋。

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▲富士見橋

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▲富士見橋から巴川をのぞむ

輕便鐵道の線路を一つ横切ると・・・
と記された輕便鐵道軌道跡地。昔は道がもっと広かった!という訳ではなく、港との物資を運んだりする横に細い電車だったそうで、線路の幅は現在の路地の幅と同じ。一体どんな感じで走っていたのか、想像できません…。

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▲輕便鐵道軌道跡地

そして、
江尻の海岸は眼界が余り廣くない。右に長く差し出た三保の半島 左にたヽなはる愛鷹の連嶺その間には伊豆の山々が曇った日はかすかな鼠色にはれた日にはさえた桔梗色に長く連なってゐる。
と記された江尻海水浴場。
今は港になってしまい、海水浴場は影も形もありませんが、この日は秋晴れの空に富士山がくっきりと。

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▲江尻埠頭から富士山をのぞむ

あなたも書簡集を片手に芥川が滞在した当時を思いながら、清水を歩いてみては?

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SPAC秋→春のシーズン #2『歯車』
構成・演出:多田淳之介
原作:芥川龍之介
出演:大内智美、奥野晃士、春日井一平、河村若菜、坂東芙三次、三島景太[五十音順]

一般公演
11/24(土)・25(日)・12/1(土)・2(日)・8(土)・9(日)・15(土) 各日14:00開演
静岡芸術劇場

チケット
発 売 日:9/23(日)会員先行予約 9/30(日)一般前売
料  金:一般4,100円 ペア割引3,600円 ゆうゆう割引3,400円
学割2,000円[大学生・専門学校生]1,000円[高校生以下] ※ほか各種割引あり
購入方法:SPACチケットセンター TEL:054-202-3399(10:00~18:00) ※公式サイト、劇場窓口でも購入可

★公演の詳細はこちら
http://spac.or.jp/haguruma_2018.html

★トレーラー第一弾はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=NBi9mdWKW5c

★ブログ「歯車ワークス」過去の投稿記事はこちら
https://spac.or.jp/blog/?cat=113

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