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2019年1月8日

<『顕れ』#011>レゼコー紙劇評

前回のブログに引き続き、パリ公演期間中に仏主要紙に掲載された劇評をご紹介します。
 


『Révélation/顕れ』:霊魂たちの法廷

Philippe Chevilley
2018年9月25日 レゼコー紙
(原文はこちら

 
生まれんとする魂たちを前に一人ひとり告白を行う罰せられたる魂たち……。日本の演出家・宮城聰は、「サハラ以南のアフリカ諸国において奴隷制の片棒を担いだ王たちの罰せられたる魂を召喚する」というレオノーラ・ミアノの神話的物語を雅やかに描き出した。日本とアフリカの混淆が普遍的な歌を産み落とし、鋭くも静謐に満ちたヒューマニズムを謳いあげる。

2017年のアヴィニヨン演劇祭では、ギリシア悲劇である『アンティゴネ』を、贖罪を求めて浮遊する魂たちの世界として提示してみせた宮城總。今作『Révélation /顕れ- Red in blue trilogie』においては、アフリカの遥かな過去に刻まれた痛ましき歴史、すなわちサハラ以南にかつて存在した国々の王たちが海の向こうからやって来た白人たちの求めに応じて自らの臣民を売り買いするようになり、そのことが大西洋を股にかけた強制連行と奴隷制という地獄のサイクルを根付かせることに一役買った経緯を題材に取り組んでいる。現代まで連なる悲劇の源泉へと立ち返るこの作品の原作者はレオノーラ・ミアノ。歴史認識論争を煽るような意図とは無縁の、神話の形をとった完全なフィクションである。

創造を司る女神・イニイエは、魂たちのストライキという事態に直面する。「罰せられたる魂」たちが自らの罪を認め語らなければ赤ん坊の体に入ることを拒否する、と主張する「生まれんとする魂」たち。往来の番人はイニイエの命により、罰せられたる魂たちを召喚し、生まれんとする魂たちならびに「さまよえる魂」たち、つまり死してなお安らげずにいる奴隷制の犠牲者の魂たちの面前で申し開きをするよう強いる。はたして、そこで語られる動機は様々である。弱さ、狡さ、強欲、嗜虐、悪意……。罪は罪として赦さぬままに、しかしそれぞれの動機が「顕れ」ることで怜悧なまなざしを重苦しい記憶にそそぐと同時に、やがて鎮め癒すための道を拓いてゆく。そうして宇宙はついにその営みを取り戻すのだった。

典雅な音楽
本作は日本人演出家・宮城とカメルーン系フランス作家ミアノの素晴らしい出会いによる結実といえる。ふたりは互いに同じ演劇哲学を、もとい、哲学そのものを共有していると言っていいだろう。すなわち宮城とミアノにとって芸術は、そして詩は、言の葉にならざるものを描き出し、生者と死者の世界に対話させ、人間の尊厳と人間の歴史とを調和させることを、しかも一切の妥協なく可能にするものなのだ……。日本の伝統とアフリカの物語世界、そしてギリシア神話の構造が溶け合って普遍的な歌を成し、純度の高い美的様式、独創性に富んだ衣装の数々、洗練され高い象徴性を湛えたいくつもの構図を伴って響き渡る。

表裏をなす太陽/月は時宜を得て舞台上に燦然と輝き、俳優が動かす布の一枚いちまいはさざめく波を表し、歪で巨大な仮面は悪しき魂をすっぽり覆い隠す……。そうして最高神たる女神はといえば、威厳に満ち、聖別された像さながら口をつぐんだまま、その声を分身に貸し与える。一つひとつの言葉が時代を超えた儀式におけるそれのようにして、荘重さの中にも諧謔味すら帯びた抑揚をちりばめながら発語される。緻密に織り上げられたハーモニーと打楽器の律動から成る音楽は、舞台手前のピットで生演奏され、神々および魂たちの作り込まれた身体表現と力強い声とにさらなる輝きを与えている。

哀調をまとった「罰せられたる魂」たちの舞から放たれる、ときに抑えた、ときに無慈悲な、悪の根源をめぐる言葉の数々。宮城聰はレオノーラ・ミアノの手により蘇った魂たちにかくも見事に語らせてみせる。魂たちには、いまを生きる私たちに伝えるべきなにかがそれほどたくさんあるのだ……おぞましくも核心に触れるなにかが。そのすべては私たち一人ひとりが自らの過去を受けとめ、人間としての義務を果たしてゆくための手がかりとなってくれるはずだ。

(翻訳:平野暁人)

◆これまでのブログ
2018.7.15更新 #001 県大での公開授業レポート
2018.7.21更新 #002 作者レオノーラ・ミアノ氏来静!
2018.8. 5更新 #003 レオノーラ・ミアノ氏講演会レポート
2018.8.30更新 #004 研修生ポールさんの振り返りレポート
2018.9.11更新 #005 世界初演まで間もなく!
2018.12.10更新 #006 『顕れ』の世界を読んで楽しむ
2018.12.16更新 #007 静岡県立大学図書館で特別展示開催中
2018.12.24更新 #008 創作秘話 ~衣裳編~
2018.12.27更新 #009 創作秘話 ~小道具編~
2019.1.7更新  #010 ル・モンド紙劇評

◆パリ公演期間中のブログ
『顕れ』パリ日記2018 by SPAC文芸部 横山義志

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SPAC秋→春のシーズン2018-2019 #3
顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1月14日(月祝)、19日(土)、20日(日)、26日(土)、27日(日)
2月2日(土)、3日(日) 各日14:00開演
日本語上演/英語字幕
会場:静岡芸術劇場

作:レオノーラ・ミアノ
翻訳:平野暁人
上演台本・演出:宮城聰
音楽:棚川寛子
*詳細はコチラ