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2019年11月7日

『ペール・ギュントたち』稽古場ブログ 番外編スタッフインタビュー

◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」パンフレット連動企画◆

中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。パンフレット裏表紙に掲載しているインタビューのロングバージョンを掲載しますので、ぜひお読みください。
『ペール・ギュントたち ~わくらばの夢~』にて音響を担当する右田聡一郎(SPAC創作・技術部)が舞台音響の仕事をご紹介いたします。(インタビューは2019年9月11日に行ったものです)

 
-どのように舞台音響の仕事を始めたのですか?

 子どもの頃から、映画や舞台、音楽などを楽しむときに、表舞台に立っている人ではなくて、作っているクリエイターやスタッフを調べる癖がついていました。高校生のときに自分の聴いているCDを並べてみたら、渡辺美里、小室哲哉、坂本龍一、ジャネット・ジャクソン、マドンナ……と一見バラバラだったのですが、ひとつの共通点があって、すべて同じ人がミキシング(※)を手がけていたんです。バラバラの音楽を聴いているようでいて、実はこのミキシング・エンジニアの人の音を聴いているんだと気づいて、この職業に就きたいと思いました。アメリカにミキシングを専攻できる大学を見つけたので、思い切ってそこへ行くことにしました。

 大学を卒業して仕事を始めた頃、ちょうど音楽配信が盛んに行われるようになって、みんなパソコンで録音するようになり、レコーディングを自宅でできるようになってしまった。上司には「この先、仕事がなくなるかもしれないから、レコーディングだけにこだわらない方がいい。ニューヨークには舞台や映像など、同じ能力を活かした仕事が色々ある」と言われました。上司の影響も受けて色々な現場を見たり手伝ったりしているうちに、舞台芸術の仕事が増えるようになりました。

※ミキシング:別々に録音された音源を、それぞれの音色や音量などを調節して、ひとつの音楽として仕上げること。
 
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-そもそも舞台音響の仕事ってどんなお仕事なんですか?

 演出家のやりたいことを汲みとって、それを音という形で実現させることです。

 ひとつは、SE(効果音)などの音を決めていく。たとえば雨のシーンでも色々な雨の音が考えられます。演出家によっては「ギザギザした感じ」とか「もっと情熱的な雨で」とか、抽象的な言葉で希望を言うので、その意味を自分なりに考えて、どうかな? こうかな?と試しながら選択していきます。場合によっては、自分で音を録音しに行くこともありますね。
 もうひとつは、劇場の音をつくること。これはエンジニアとしての側面が強い仕事です。音響のはね返りや残響時間など、その劇場がもっている特徴をふまえて、いかに客席の人に聴きやすく、演出家の意図通りに届けられるかを調整していく。たとえば、スピーカーを30センチ動かすだけで、音の飛び方は全く変わるんですよ。
 一定の音楽をある程度聴きやすくどの客席にも届けるだけだったら、固定のスピーカーがあれば良いです。でも、場面によっては、どこから聞こえてくるかが分からないようにすることもあるし、その逆の場合もある。だから、スピーカーの位置を固定するのではなく、毎回考えて動かさなければならないんです。図面を引くこともありますが、現場での調整がとても重要ですね。

 今回の『ペール・ギュントたち』では、演出家だけでなくサウンドアーティスト/作曲家の森永泰弘さんが参加されるので、アーティストの方々がやりたいことを「SPACの劇場で」形にしていく役割になりそうです。この劇場の特徴を把握しているスタッフとして、全体のバランスを取りながら調整役になれればいいなと思っています。
 人によって「良い音」は違うし、その作品によって求められる「良い音」も違ってくるので、現場での擦り合わせがとても重要になりますね。

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-お仕事で大変なことはありますか?

 舞台の仕事はチームで進めていくお仕事です。レコーディングの仕事はひとりで作業することが多いから、自分の調子次第で一気に仕事が進められる利点もありますね。でも、劇場での作業は多くの人と時間を共有している。自分の作業が滞れば、他の部署のスケジュールにも迷惑がかかる。僕自身がのんびりした性格なので、時間との戦いになるのが大変ですね。
 
-舞台音響の仕事をやりたいと思ったら?

 基礎となる部分は学ぶ必要があるでしょう。学校へ行ってもいいし、独学でもいいかもしれません。でも、舞台音響は<正解がない世界>です。時代が経てば、いままで正しいとされてきたことが、そうではなくなっていくことも多い。ルールに従ったり、従来のやり方を参考にしたりするのはいいけど、まったく同じにやる必要はないと思っています。「こっちの方が良いのでは?」と、自分で疑ってみて、トライしてみて、自由に自分のやり方を模索していける音響家を目指してほしいと思います。
 
-最後に中高生の皆さんへメッセージをどうぞ

 僕はもともと英語が不得意だったなかで留学を決めました。苦手なことがあっても、やりたい気持ちがあれば、大概のことはどうにかなる(笑)。何事にも楽しんで取り組んでもらえればと思います。
 
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SPAC秋→春のシーズン2019-2020 #2
『ペール・ギュントたち〜わくらばの夢〜』
2019年11月9日(土)、10日(日)、16日(土)、17日(日)
各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場

原作: ヘンリック・イプセン
訳:毛利三彌

上演台本・演出: ユディ・タジュディン

共同創作:
ウゴラン・プラサド(ドラマトゥルク)
川口隆夫(パフォーマー/ダンサー/振付家)
ヴェヌーリ・ペレラ(振付家/ダンサー)
美加理(俳優)
ムハマッド・ヌル・コマルディン(俳優/ダンサー)
森永泰弘(サウンドアーティスト/作曲家)
グエン・マン・フン(ヴィジュアル・アーティスト)
アルシタ・イスワルダニ(俳優/パフォーマー)
グナワン・マルヤント(俳優/作家)

大内米治、佐藤ゆず、舘野百代、牧山祐大、
宮城嶋遥加、若宮羊市(俳優〔SPAC〕)

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