2017年10月13日

秋→春のシーズン2016 劇評コンクール 審査結果

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秋→春のシーズン2016の劇評コンクールの結果を発表いたします。

SPAC文芸部(大澤真幸、大岡淳、横山義志)にて、応募者の名前を伏せ全応募作品を審査しました結果、以下の作品を受賞作と決定いたしました。

(応募数19作品、最優秀賞1作品、優秀賞2作品、入選5作品)

(お名前をクリックすると、応募いただいた劇評に飛びます。)

■最優秀賞■
小長谷建夫さん【ただ泣かされただけじゃなかった】(『高き彼物』)

■優秀賞■
松下リッキーさん(『高き彼物』)
平井清隆さん(『サーカス物語』)

■入選■
平井清隆さん(『東海道四谷怪談』)
丞卿司郎さん【なぜかダークヒーローに共感する瞬間】(『東海道四谷怪談』)
宮川ぶん学さん【高き彼物。過去の適切な家族の風景を通じた未来への演劇人への大ヒント】(『高き彼物』)
小長谷建夫さん【凍てつく冬を融かす春の日差しのように】(『冬物語』)
五感さん(『真夏の夜の夢』)

■SPAC文芸部・大澤真幸の選評■
選評

秋→春のシーズン2016 作品一覧
『東海道四谷怪談』(構成・演出:中野真希 原作:四代目鶴屋南北)
『高き彼物』(演出:古舘寛治 作:マキノノゾミ)
『サーカス物語』(演出: ユディ・タジュディン (俳優・スタッフ一同の構想に基づく) 作:ミヒャエル・エンデ作)
『冬物語』(演出:宮城聰 作:ウィリアム・シェイクスピア)
『真夏の夜の夢』(演出:宮城 聰 作:ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳『夏の夜の夢』より 潤色:野田秀樹)


秋→春のシーズン2016■最優秀■【高き彼物】小長谷建夫さん

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ただ泣かされただけじゃなかった

 こんなことで泣くようなヤワじゃないぞと堪えていたのだが、後ろの席の男性が涙のためか鼻づまりになって口で息をし始め、時々「うーっ」という妙な泣き笑いの声を上げるに至り、折角閉めていた涙腺が見事に開いてしまった。気が付くと周辺の観客もみんな鼻を啜りあげたり、目元を拭いたりしている。
 古館寛治演出の「高き彼物」は上質の人情劇、高い志を持った人情劇であった。
 三時間の芝居と聞いて、居眠りをしないようにと少々身構えて席についたのだったが、開幕と同時に真夏の驟雨を浴び、昭和50年代の川根の田舎町に引きずり込まれ、以後そこの雑貨屋の居間で繰り広げられる人間ドラマに浸りきりとなった。警戒していた眠気は、より強敵の涙と鼻水に替わったわけだ。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■優秀■【高き彼物】松下リッキーさん

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 この演劇のクライマックスは、猪原正義の告白だ。舞台上に動くものはいない。でも、激しい緊張感にあふれている。舞台上の緊張感は客席に広がることにより強度が増し、劇場が一体となって猪原正義の次の言葉を待っている。猪原正義を演じる渡辺敬彦は、会場全体の緊張感をしっかりと受け止めながら告白を続けている。自分の言葉が観客の心に響き、広がっていくのを感じている。しかし、決して観客に語りかけているのではない。ただ、感じ、受け止めているのだ。観客もまた、舞台上で起こっていることを感じている。この瞬間からも、演出家・古舘寛治が役者と観客の想像力を信じ、戯曲と誠実に向き合っていることがわかる。彼は演劇の力を信じているのだ。僕はそのことに強く共感する。だから僕は、なぜこの舞台が、ここまで感動的に受け止められているのかを考えてみたいと思う。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■優秀■【サーカス物語】平井清隆さん

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 暗がりの中、朗読の声を掻き消けさんばかりの轟音が響く。悪魔の咆哮にも似たその轟きは、サーカス小屋を取り壊そうとする建設機械の音だ。朗読の声も負けじと力強さを増しながら続く。「エリを真中にして守るようにぎゅっと寄り添って立つ。機械の騒音が耳を聾するまでに高まる」。

 インドネシア出身のユディ・タジュディン演出の『サーカス物語』(原作ミヒャエル・エンデ)は、物語の最後の場面から始まる。観客は緊張と不安に包まれ、物語世界へと引きずり込まれる。引波に浚われる足元の砂の様に、現実と言う立ち位置が不確かな幻の如く消えてゆく。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■入選■【東海道四谷怪談】平井清隆さん

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 中野真希演出の『東海道四谷怪談』(以下『四谷怪談』と略す)は「怪談」と言ってよいのか。観劇しながらそんな思いが頭をよぎった。

 あらすじは周知の通りだ。お岩が夫・伊右衛門に惨殺され幽霊となり復讐を果たす、と言うもの。日本の代表的な怪談の一つだ。しかし、怖い場面よりも、圧倒的にコミカルに笑う場面の方が多いのだ。伊藤家の乳母・お槇が伊右衛門の元を訪れる下りで、捕らわれていた小仏小平を隠すところなど、まさしくコントそのものだ。伊右衛門とお槇、伊藤喜兵衛とその孫・お梅の四人で、如何にしてお岩を排除しお梅を後添えにするかと言う悪巧みをめぐらす場面もしかりだ。企みのあくどさとは対照的に笑いが満載なのだ。場面だけではない。悪人であるはずの伊右衛門とて、人非人と非難をしたり憤りを覚えたりと言うよりも、漫才にツッコミを入れたくなるような風情に描かれている。終盤の小塩田又之丞も絵に描いたような正統派の武士であるが、それが却って可笑しみになるように描かれている。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■入選■【東海道四谷怪談】丞卿司郎さん

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なぜかダークヒーローに共感する瞬間

確かに主役である伊右衛門は文句の言いようのない極悪人だ。
しかし舞台を観終えて、なぜか不思議と憎めない一面がある。
その理由は何だろうと考えていた。

『東海道四谷怪談』は皿を数えるお岩の科白で知られる怪談芝居『番町皿屋敷』を下敷きに描かれている。
四谷怪談とまったく無関係な赤穂浪士の討ち入りを絡め、忠臣蔵の外伝という形を取っているのは、この怪談の原型である『播州皿屋敷実録』の舞台となった播州にかけたものだと思われる。

江戸時代当時、表向き、芝居や読み物で武家物はご法度とされていた。
町人が武家について言及することは禁じられていたからだ。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■入選■【高き彼物】宮川ぶん学さん

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高き彼物。過去の適切な家族の風景を通じた未来への演劇人への大ヒント

 グランシップ楽日に観覧にて、練度上積み補正あるも、確かな名作。

 今作は1978年静岡県川根町。猪原家という家族の猪原正義という元英語教師の再婚にまつわる物語である。
再婚の話題に上がるのは野村市恵という国語教師。そして、藤井秀一という、友人をバイク事故で、自分の責めで失ってしまった負い目と受験に悩む高校生。また、正義の娘、智子の献身と彼女自身の縁談の話。
そして、その智子の縁談が発展して、正義自身の負い目も救済され、物語は統一を見る。

 ネタバレになるため、今作に現れる、【ボーイズ・ラブ】については、あえて触れないほうが、今作の威厳にふさわしい、【言い過ぎない】凛とした劇評となろうかと思う。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■入選■【冬物語】小長谷建夫さん

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凍てつく冬を融かす春の日差しのように

 気高く美しい王妃の臨月近いお腹に、夫でもない男の手が触れた。いや触れそうになった。まさか触れるはずがないが、男の手はまた、高貴な命の宿る柔らかな王妃のお腹を撫でるように動いた。いやそう見えただけだろう。あり得ないことだ。あり得ないが、あの二人の態度はなんだ。顔を近づけ笑い合い、そしてその男の手がまた・・・
 妻の王妃ハーマイオニと親友のボヘミア王ポリクセネスの二人の様子から、シチリア王リーオンティーズの胸に生じた不義への疑惑は、どんな観客の予想をもはるかに超えるスピードで増大する。小さな疑念は、たちまちのうちに凝り固まった確信に昇格し、小さな嫉妬は、永遠に続くと信じていた愛や友情を憎悪へと醜く変貌させる。その憎悪が復讐の念に姿を変えるのは、それこそほんの瞬間の出来事だ。まるで雪山の頂上の凍った梢から欠け落ちた小さな氷の一片が、昨夜積もった雪を蹴落とし、その下の積み重なった万年雪まで動かし、あっという間に谷間を揺るがす大雪崩となるように。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■入選■【真夏の夜の夢】五感さん

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 五感に訴えかけてくる演劇、というものをはじめてみた。
 演奏、役者のからだの動き、声、表情、舞台装置のはたらきはもちろんリアルだが、SPACの真夏の夜の夢からは、そこにないはずのにおい、温度までをもリアルに感じる。
 そのとき舞台で展開されている草や土や木の少し湿ったようなにおい、雨のにおい。登場人物の呼気や照明の温度。今このとき生きているものの気配が、むき出しになって吹きつけてくる、そんな感触がある。そして、それらはきれいに、舞台に溶け込んでいた。 続きを読む »


秋→春のシーズン2016■選評■SPAC文芸部 大澤真幸

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 2016秋→春のシーズンの劇評コンクールに対しては、19本の応募がありました。観劇の感動を文章にしてお送りくださった応募者の皆さんに、お礼申し上げます。以下、劇評コンクールの講評を記しておきます。
 まず、19本の劇評が、どの作品を対象にしていたかの分布を見ますと、『サーカス物語』への劇評が1本と少なかったことを別にしますと、どの作品——『東海道四谷怪談』『高き彼物』『冬物語』『真夏の夜の夢』——に対しても4~5本と、平均的に応募がありました。しかし、入選以上の劇評は、一部の作品に、特に『高き彼物』に偏りました。この偏りは、『高き彼物』が観客に伝えようとしているメッセージが、他の諸作品より分かりやすかったからだと推測されます。全体として、原作者や演出家が明示的・自覚的に言おうとしていることを解説するというレベルを超えた、批評性をもった分析や解釈になっている劇評は、残念ながら、たくさんあったとは言えません。 続きを読む »