2018年7月28日

秋→春のシーズン2017 劇評コンクール 審査結果

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秋→春のシーズン2017の劇評コンクールの結果を発表いたします。

SPAC文芸部(大澤真幸、大岡淳、横山義志)にて、応募者の名前を伏せて全応募作品を審査しました結果、以下の作品を受賞作と決定いたしました。

(応募数21作品、最優秀賞1作品、優秀賞2作品、入選3作品)

(お名前をクリックすると、応募いただいた劇評に飛びます。)

■最優秀賞■
小田透さん(『オセロー~夢幻の愛~』)

■優秀賞■
小長谷建夫さん【災禍の中変身する娘たち】(『変身』)
高須賀真之さん【永遠の切断面―『ミヤギ能 オセロー~夢幻の愛~』より】

■入選■
川村創さん【SPAC版『変身』の快楽】
小長谷建夫さん【一千年前の時限爆弾】(『しんしゃく源氏物語』)
小長谷建夫さん【オセローを脇役にしたミヤギ能】(『オセロー~夢幻の愛~』)

■SPAC文芸部・大澤真幸の選評■
選評

秋→春のシーズン2017 作品一覧
『病は気から』(潤色・演出:ノゾエ征爾 原作:モリエール)
『変身』(演出:小野寺修二 原作:フランツ・カフカ)
『しんしゃく源氏物語』(演出:原田一樹 作:榊原政常)
『オセロー~夢幻の愛~』(演出:宮城聰 原作:ウィリアム・シェイクスピア[小田島雄志訳による] 謡曲台本:平川祐弘)


秋→春のシーズン2017■最優秀■【オセロー】小田透さん

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 平川祐弘による謡曲台本は『オセロー』の事後譚ともいうべき物語である。すべてがすでに終わったところから始まる。オセローはすでにデズデモーナを殺し、自害している。それから50年も後のことである。しかし、ただ単に時間的に後の話というのではない。シェイクスピアが男たちの物語を描いたとしたら、ここで語るのは女たちである。デズデモーナとサイプラスの女たち。彼女たちは彼女たちの生きられた経験を語るだろう。そして彼女たちの記憶は必然的に政治的なものである。トルコ軍に敗北したヴェニス軍は非戦闘員たる同郷人をサイプラス島に置き去りにした。軍に見捨てられた女たちは生きていくために体を売るしかなかった。コミカルな踊りやコケティッシュな振る舞いに偽装されてはいるが、卑猥な言葉遣いから響いてくるのは、戦争の記憶である。こうして最初に登場するヴェニスからの旅の僧が聞かされるのは、彼がおぼろげにしか知らなかったサイプラス島領有をめぐる過去の真実であり、イスラム圏における白人女の現在の窮状である。舞台は歴史の忘却にたいする糾弾にはじまる。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■優秀■【変身】小長谷建夫さん

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災禍の中変身する娘たち

 フランツ・カフカは「変身」の出版に当たって、表紙や挿絵などに虫の姿は絶対に出さないよう出版社に要請したという。
 私や家内が小説「変身」でイメージするのは巨大なゴキブリである。突然現れ、家族の悲鳴とともに部屋や家具の端沿いに走り回り、そして突然姿を隠す虫。そのくせ時に大胆に壁に張り付き、叩き落される前にぱっと飛んでこちらの顔にぶつかりまた忽然と消える虫、ゴキブリ。
 しかし考えてみればゴキブリは毒虫ではない。毒虫とすると巨大なムカデか。甲虫という訳もあり、ムカデでもなさそうだ。ともかくも舞台上で虫はどのように出現するのか。小野寺修二演出、SPAC出演による舞台「変身」の、これは本質的な見どころとは言い難いかもしれないが、観客の大いなる関心であったことは間違いないだろう。そして私の好奇心とも言える心の深いバケツは観劇後、やや粘っこい液体で縁いっぱいに満たされたといっていいだろう。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■優秀■【オセロー】高須賀真之さん

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永遠の切断面―『ミヤギ能 オセロー~夢幻の愛~』より

 『オセロー』はいうまでもなくシェイクスピアを代表する悲劇である。だが、原作が将軍オセローの心の葛藤を主題としたのに対し、今回の舞台『ミヤギ能 オセロー~夢幻の愛~』では、潔白でありながらオセローに殺されたデズデモーナ(の霊)の孤独を主題に描き出した。
 この舞台では能の形式を用い、デズデモーナの霊(シテ)がヴェネチアから来た巡礼(ワキ)に語りかけるという構造を取っている。霊が語りかけるという構図は、たとえば目取真俊の短篇小説『面影と連れて』にも見られるが、共通していえるのは、霊がこの世とあの世の間を孤独のうちに彷徨う姿だ。この霊は死んでなおかつて愛した人と再会することも叶わず、かといってどこかへ行くこともできず、生と死の狭間に留まり続ける。そこは「永遠」というにはあまりに曖昧とした空間だ。デズデモーナの霊からは「いつまでここにいなければならないのか」という悲痛な叫びが聞こえて来るようだ。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■入選■【変身】川村創さん

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SPAC版『変身』の快楽

 フランツ・カフカのあまりに有名な短編小説『変身』の舞台化は、非戯曲にも関わらずこの数年の間にも幾つかの上演実績を耳にしているし、不条理文学の古典であるこの寓話が芸術家をいかに惹きつけるかを垣間見る。もっとも著名な戯曲作品である『ハムレット』や『三人姉妹』を上演するのと、『変身』を翻案・上演するのとはどこか違いがありそうだ。『変身』の魅力は、そのストーリー展開にではなくその文体、あるいは、語られる事柄と語られ方(文体)との関係の現代的特色にあるのであって、となるとこの作品は「台詞劇」には向かわず、必然、非言語領域の表現が大きな比重を占めてくることは容易に想像されるのだ。
 小野寺修二は身体的パフォーマンスを駆使して重層的で抽象的な「ドラマ」世界を構築する大きな才能だ。しかしその精力的な舞台創造(量産)によって認知度が行き渡ったせいか、さほど有難がられていないようにも思う。あるいは、出来不出来のある作り手なのか・・。だが少なくとも『変身』は高い芸術性を持つ秀逸な舞台作品になっていた。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■入選■【しんしゃく源氏物語】小長谷建夫さん

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一千年前の時限爆弾

 「なあんもせえへんで、睦月も去(い)んでしもうたえ」とかなんとか、わが夫婦の間では、宮廷言葉(少々怪しげだが)がブームである。
 「しんしゃく源氏物語」観劇のショックを引きずってのことだ。作は榊原政常、演出原田一樹、配役はSPACの面々による舞台である。いやそれを言うなら、ここに原作の紫式部の名を忘れてはなるまい。
 稀代のプレーボーイ、光源氏の女性遍歴と相手となった王朝の女性達の恋々として嫋々たる心情をさらに綿々と綴った小説。そのくらいがこの古典文学の源氏物語に対する自分の認識であった。今回の観劇に先立ち原作の第六帖を読んでみた。いや勿論現代語抄訳であるが。そしてなんと(今更恥ずかしいが)ストーリーテラーたる紫式部がそこにいるのを見出し、月末の観劇と相俟ってわが睦月もそれなりに意義ある月とすることができたわけである。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■入選■【オセロー】小長谷建夫さん

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オセローを脇役にしたミヤギ能

 能について特段の知識を持ち合わせているわけではないが、能が人間の身体の動きや表情、言葉を極力削り取り、それによって登場人物の思いや執念を滲み出させ、その運命を浮かび上がらせようとしている・・・のではとの推測ぐらいはできる。原料の米を削りに削った吟醸酒のようなもの、というほど単純なものではなさそうだが。
 竹内昌子氏によれば、能は「西洋演劇の常識を、平気な顔で覆してしまう演劇形態」だとのことである。確かに一人の人物の台詞が複数の人間によって語られたり、長い旅路がほんの数歩の仕草で表されたり、黒子(後見)が堂々と登場したりする能は、演劇空間を一生懸命現実に近づけるよう努力している者にとっては、なんとも不可思議な存在なのであろう。そう言われれば、そんな能に見入る観客が、その仮想世界に「平気な顔をして」自らを没入させていけることの方が不思議にも思えてくる。 続きを読む »


秋→春のシーズン2017■選評■SPAC文芸部 大澤真幸

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 2017秋→春シーズン劇評コンクールに対して、計21の劇評の応募がありました。内訳は以下の通りです。
『病が気から』1
『変身』5
『しんしゃく源氏物語』3
『ミヤギ能 オセロー〜夢幻の愛〜』12
『オセロー』への応募がとりわけ多く、全体の半分以上でした。

 今回、最優秀賞に選ばれたのは、小田透さんの『オセロー』への劇評です。内容の点でも、また文章の点でもたいへん洗練されていました。 続きを読む »


2017年12月26日

ふじのくに⇔せかい演劇祭2017 劇評コンクール 審査結果

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ふじのくに⇔せかい演劇祭2017の劇評コンクールの結果を発表いたします。

SPAC文芸部(大澤真幸、大岡淳、横山義志)にて、応募者の名前を伏せ、全応募作品を審査しました結果、以下の作品を受賞作と決定いたしました。

(応募数22作品、最優秀賞1作品、優秀賞1作品、入選8作品)

(お名前をクリックすると投稿いただいた劇評に飛びます。)

■最優秀賞■
高須賀真之さん【未来を見つめる目―『アンティゴネ~時を超える送り火~』を観て】(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)

■優秀賞■
西史夏さん (『ダマスカス While I Was Waiting』)

■入選■
菅谷仁志さん(『MOON』)
高須賀真之さん【未来への祈り―『ダマスカス While I Was Waiting』を観て】(『ダマスカス While I Was Waiting』)
五感さん(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)
青柳暢人さん(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)
山下智代さん(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)
西史夏さん(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)
ニシモトマキさん【水の意味するものは何か】(『アンティゴネ~時を超える送り火~』)
長谷川真代さん【レイプ的自慰行為の先にあるもの】(『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』)

■SPAC文芸部・大岡淳の選評■
選評

ふじのくに⇔せかい演劇祭2017 作品一覧
『アンティゴネ ~時を超える送り火~』(演出:宮城聰)
『MOON』(作・演出:タニノクロウ)
『ウェルテル!』(演出:ニコラス・シュテーマン 出演:フィリップ・ホーホマイアー)
『ダマスカス While I Was Waiting』(演出:オマル・アブーサアダ 作:ムハンマド・アル=アッタール)
『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』(構成・演出:ジゼル・ヴィエンヌ 製作:パペットシアター・ハレ)
『六月物語』(構成・演出・出演:ピッポ・デルボーノ)
『1940-リヒャルト・シュトラウスの家-』(演出:宮城聰 脚本:大岡淳)


ふじのくに⇔せかい演劇祭2017■最優秀■【アンティゴネ~時を超える送り火~】高須賀真之さん

Filed under: 2017

未来を見つめる目―『アンティゴネ~時を超える送り火~』を観て―

 宮城聰演出作品『アンティゴネ~時を超える送り火~』(以後『アンティゴネ』と記す)は死者たちの物語であり、この芝居で語られる言葉は死者たちの言葉だ。ここで言う「死者たち」というのは、単に芝居の中で死んでいく登場人物たちのことだとか、原作者ソフォクレスが生きた約2500年前の古代ギリシャの人々のことだけでなく、人類が誕生して以来死んでいったものたちすべての言葉だと言うことができるかもしれない。
 舞台は法衣を纏ったひとりの僧侶が、白い衣装で身を包み水に覆われた舞台上を彷徨っている者たち〔=霊魂たち〕にそれぞれ劇の役割を与えるところからはじまる。霊魂たちはある者はアンティゴネとなり、ある者はクレオンとなり、またある者は登場人物たちの声=言葉となり、ある者は楽を奏でる。役を与え、役を演じるというこの行為は、あたかも演劇の原初的体験のようでもある。 続きを読む »


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