2017年10月13日

秋→春のシーズン2016■選評■SPAC文芸部 大澤真幸

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 2016秋→春のシーズンの劇評コンクールに対しては、19本の応募がありました。観劇の感動を文章にしてお送りくださった応募者の皆さんに、お礼申し上げます。以下、劇評コンクールの講評を記しておきます。
 まず、19本の劇評が、どの作品を対象にしていたかの分布を見ますと、『サーカス物語』への劇評が1本と少なかったことを別にしますと、どの作品——『東海道四谷怪談』『高き彼物』『冬物語』『真夏の夜の夢』——に対しても4~5本と、平均的に応募がありました。しかし、入選以上の劇評は、一部の作品に、特に『高き彼物』に偏りました。この偏りは、『高き彼物』が観客に伝えようとしているメッセージが、他の諸作品より分かりやすかったからだと推測されます。全体として、原作者や演出家が明示的・自覚的に言おうとしていることを解説するというレベルを超えた、批評性をもった分析や解釈になっている劇評は、残念ながら、たくさんあったとは言えません。
 そうした中にあって、最優秀作の「ただ泣かされただけじゃなかった」(小長谷建夫さん)は、『高き彼物』の主題の正確な理解に加えて、舞台装置や役者の演技への鋭い分析をも含んでおり、バランスのとれた、読ませる劇評になっておりました。ハッピーエンド的な結末の中にもまだ解決されていない問題が残っているのではないか、という最後の問いかけも、この物語を冷静に相対化するもので、よかったと思います。優秀作の松下リッキーさんの劇評は、評者自身の子育ての体験や方針と対比させながら、『高き彼物』の中で描かれている人生の諸問題を考察したことで、他の劇評にはない深みをもったものになっています。もうひとつの優秀作、平井清隆さんの劇評は、『サーカス物語』への唯一の劇評でした。この劇評は、演劇が、「現実」「劇中の現実」「劇中劇」といった多層性が、どのように表現され、演じられていたかについての知的な分析があった点で、優れています。
 入選作の中では、登場人物の行動や態度に対するはっきりとした批判を含む「凍てつく冬を融かす春の日差しのように」(小長谷建夫さん/『冬物語』)や、「作品の主役は言葉なんだ」とする結論が非常に明確だった五感さんの『真夏の夜の夢』の劇評が、読んでいてもおもしろく、あと一歩で優秀作という水準にありました。