劇場文化

2016年9月28日

【東海道四谷怪談】悪女、それはお岩(古井戸秀夫)

 悪女というと現在では、男を誑(たら)して手玉に取る、そんな美女のことをいう。昔からの譬えでは「外面(げめん)如菩薩(ぼさつ)、内心(ないしん)如夜叉(やしゃ)」。見た目は美しい仏さまだが、心の中は怖い鬼。小悪魔というのは、その別名である。
 ほんらいの悪女にも「外面」と「内心」があった。見た目が醜い醜女。性格が悪い女。後者はのちに、毒婦と呼ばれるようになる。
 お岩のモデルも、悪女であった。外面は生れ付きではなく、重く患った疱瘡すなわち天然痘の後遺症であった。ワクチンの種痘が普及されるまで、疱瘡は子供たちの通過儀礼。お岩はそれが遅れた。大人になってから罹患して、醜い女になったのである。 続きを読む »