おたる鳥をよぶ準備

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10周年の新作世界初演は静岡で。
ツアー唯一の野外公演を敢行!!

黒田育世率いる女性だけのダンスカンパニーBATIKは、今年結成10周年を迎えます。この節目の年、黒田個人にとってもカンパニーにとっても、一つの区切りとなる新作初演の地に選ばれたのは、舞台芸術公園の野外劇場「有度」。BATIK結成の翌年、静岡芸術劇場での『SIDE
B』上演で、SPACダンス・フェスティバル2003優秀賞に輝いた彼女たちにとって、静岡は特別な場所でもあります。静岡での初演の後(野外での上演は静岡のみ)、本作は伊丹、名古屋、東京と日本各地を巡ります。

「おたる鳥」という言葉に込められた黒田育世の想いとは――。

「おたる鳥」は黒田育世自身による造語です。「おたる」とは「満ち足りて体が動き出すこと」であり、「おどる」の語源とされています。「おたる」が鳥になって、自分の体をついばみ、国境を超えて世界のどこかへ運んでいってくれたら――。「私が死んだ時に、世界のどこかで、同じように誰かが踊っていることを思い出して、喜んでほしい。」そう願う黒田が、「死ぬ準備」として創り始めたというこの作品は、同時に「生きて出会うことへの讃歌」にほかなりません。10年間共に踊り続けてきた仲間たちと創り上げる、新たな「死と再生」の表現に期待が高まります。

公演情報

世界初演  ダンス/日本

■公演日時
6月30日(土)、7月1日(日) 各日18時開演
◎6月30日の開演前と終演後にカチカチ山で「フェスティバルBar」を営業いたします。

上演時間:約180分(途中休憩含む)[予定]

■会場
舞台芸術公園 野外劇場「有度」

■チケット
一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、早期購入割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金があります。

STAFF / CAST

構成・演出・振付:黒田育世

振付・出演:
BATIK(伊佐千明、植木美奈子、大江麻美子、梶本はるか、田中美沙子、寺西理恵、中津留絢香、西田弥生、矢嶋久美子、黒田育世)

音楽:松本じろ

共同製作:
愛知芸術文化センター、アイホール(伊丹市立演劇ホール)、
SPAC‐静岡県舞台芸術センター

製作:BATIK  制作協力:ハイウッド

演出家・振付家・出演者プロフィール

黒田育世(くろだ・いくよ)

BATIK主宰、振付家・ダンサー。6歳よりクラシックバレエをはじめる。谷桃子バレエ団に所属しながら1997年渡英、コンテンポラリーダンスを学ぶ。2000年より伊藤キム+輝く未来で活動。02年にBATIKを設立。カンパニーでの活動に加え、飴屋法水、古川日出男、笠井叡、野田秀樹などさまざまなアーティストとのクリエーションも多い。映画『告白』(中島哲也監督/10年)への出演も話題となった。

カンパニー・プロフィール

BATIK
黒田育世の振付によるダンスカンパニー。2002年に活動を開始し、『SIDE B』、『SHOKU』、『花は流れて時は固まる』、『ペンダントイヴ』などの作品を次々と発表。バレエを基礎に、身体を極限まで追いつめる過激でダイナミックな振付けは、踊りが持つ本来的な衝動と結びつき、ジャンルを超えて支持されている。海外でも公演多数。03年SPACダンス・フェスティバル「優秀賞」、03年トヨタコレオグラフィーアワード「次代を担う振付家賞」、04年「朝日舞台芸術賞」、06年「舞踊批評家協会賞」を受賞。
http://batik.jp/

コラム

身体を越えて、生命を踊らせるために
乗越たかお

 黒田育世は、デビュー以来、十年以上にわたって強烈な作品群でダンス界を牽引してきた。生命の奥底にまで分け入り、原初の力を引きずり出し、隣接する死の脈動までをも描き出してきたからである。ここ数年は『ペンダント・イヴ』(06年)で「誕生」について深く描き、『矢印と鎖』(09年)では様々な事情を背負いながら生きる人々の姿を重ね、『あかりのともるかがみのくず』(10年)では「母」という存在を重厚に描いた。いずれにも断固として生き続ける意志が舞台に充溢していた。しかし黒田いわく、本作は「死ぬ準備のための作品」だという。一見すると後ろ向きの印象を持つかもしれないが、決してそういうわけではない。
 タイトルの「おたる」とは、「感情が満ち足りて身体が動き出す」という意味だという。「おたる鳥」とは黒田による造語。おたるが鳥となって自分を食べてくれないだろうか、そして国境もなにも超えて空を飛んでいってくれないだろうか……。
プロトタイプ版は2011年に朗読企画で上演されたが、この時点でかなり本気の「ダンス作品」に仕上がっており、観客を驚かせた。しかしSPACが世界初演となる本公演では、さらに大きく作り替え、生と死を新しく捉え直す作品となるだろう。
 かつて「ダンスを踊る、ではなく、もうダンスそのものになってしまいたい」と言っていた黒田が、今回はこう語っているのだ。
「こうしている間、たくさんの人が死んでいて、私が死ぬ時も誰かがきっと夢のように踊っているだろうと思います」
 思い出されるのは昨年の震災である。日本全体が巨大な死を目にした。灰色の水が、無慈悲なくらいなめらかに人々と建物、そして生活を呑み込んでいった。さらには原発の事故という「絶望ギリギリの日常」を我々は生きている。おそらく本作で直接震災を扱うことはないだろう。そもそも震災に限らず、これまでも世界は、いつも悲劇に満ちていたのだ。ただし同時に、身体いっぱいに満ちた感情で踊っている「おたる」者も絶えずいた。そうやって世界はつながってきた。「死ぬ準備」とは「終わりへの準備」ではなく、ひとつの身体の死を越えて踊り継がれる、世界の連環を識ることなのではないだろうか。
 そしてダンスとは、本来そのために在るものだったのだ。
 鳥に食われた種子が遠くに運ばれて芽吹くように、「今」を生き抜いている瀬戸際の身体から放たれたダンスが、我々観客ひとり一人の身体の中で育っていく。誰しも死は避けられないが、死の準備によって、日々の生を何度でも慈しむことができるだろう。黒田の覚悟を、刮目して待ちたい。

乗越たかお(のりこし・たかお)
作家・ヤサぐれ舞踊評論家。ベストセラーとなった『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)や、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』(NTT出版)など著書多数。