コラム 『Hate Radio』

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山路徹(やまじ・とおる)
1961年東京生まれ。1992年、国内初となる紛争地専門の独立系ニュース通信社「APF通信社」を設立する。これまでビルマ、ボスニア、ソマリア、カンボジア、アフガニスタン他、世界各地の紛争地を精力的に取材する。

山路徹

 戦争を起こそうとする勢力(主に政治家)が、民心を掻き立て世論を戦争へと導く手段として必ず利用するのがメディアだ。全ての内戦・戦争において世論誘導にメディアが利用されている、と言っても過言ではない。
 私が過去に取材した内戦や戦争においても100%メディアが利用されていたし、時に、メディア自身が戦争を煽っていたケースも少なくない。
 例えば、1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナの内戦では、セルビア、クロアチアの各勢力が、それぞれ民心を煽るために主にテレビメディアを利用していた。民族や宗教の違いを巧みに利用し、世論を内戦へと導いた。そして、それまで仲良く暮らしていた隣人同士が突然、敵になってしまったのだ。更に悲劇なのは、内戦が長引き、犠牲者の数が増えていくと、それぞれの民族の心の中に取り返しのつかない憎しみが生まれ、始まりは決して民族・宗教の違いが本当の原因ではなかったのに、結果的に、民族・宗教戦争になってしまったことである。
 また、2001年のアフガン戦争や2003年のイラク戦争において、戦争当事国であるアメリカはメディアを通じて戦争の必要性と正当性を国内のみならず世界に訴えた。特にイラク戦争においてアメリカは、「イラクが大量破壊兵器を保有している」という、イラク脅威論を喧伝し国際世論を味方につけたが、結局、これは事実ではなかったことが明らかになっている。
 戦争の規模や性質はまったく違うが、舞台『Hate Radio』」は、ルワンダ内戦の真実の一端を通して、内戦・戦争の本質をとても分かりやすく描いている。 
 そして、見る者の心の奥深くに突き刺さるメッセージには戦慄さえ覚えるのだ。また、『Hate Radio』」は、メディアそのものに対する戒めと、メディアに踊らされてはいけない、という民への警鐘を鳴らしているように思う。
 私たちの国・日本も最近では領有権問題がメディアを賑わす機会が増えてきたが、そこから何を読み解くのか?日本の今後の平和はメディアの良識と国民のメディアリテラシーにかかっていると改めて思った。