コラム『母よ、父なる国に生きる母よ』

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大岡淳(おおおか・じゅん)
1970年兵庫県生まれ。演出家・劇作家・批評家。SPAC文芸部スタッフ、ふじのくに芸術祭企画委員、はままつ演劇・人形劇フェスティバルコーディネーター、静岡文化芸術大学非常勤講師。

大岡淳
 日本では〈母なるもの〉は今も、神聖な地位を占めているのではないだろうか。私の同世代は『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』のような松本零士作品に親しんできたと思うのだが、幼少期の私は、あのマザコン全開のキャラクター設定にドン引きで、周囲の男の子たちが、何の疑問も抱かずメーテルの下敷きなんか持っているのを見ると、おいおい!と心の中で叫んだものである。また大和和紀『あさきゆめみし』なんて読んでいる女の子たちに対しても、ちょっと待て、光源氏だって、桐壺更衣の影を追い求めるマザコン・プレイボーイじゃないか、イケメンだからってそんな男に憧れて、将来嫁姑問題で苦労したって知らないぞ!と、やはり心の中で叫んだものである。〈母なるもの〉おそるべし。

 その一方で、思春期の私は、内田春菊・岡崎京子・原律子・桜沢エリカといった、いわゆる「女の子エッチマンガ家」の出現に遭遇した。若い女性マンガ家たちが、青年誌上で、自らの性や性欲について堂々と表現し始めたのだから、これは事件であった。〈母なるもの〉への抵抗とも思えた。わけても内田春菊が、フェミニズムのような理屈からではなく、すったもんだの人生経験から、男たちと母たちのマザコン的共犯関係を告発する戦闘的表現者へと成熟していったことには、思わずブラボーを叫んだものだった。心の中で。

 こんな話に共感するあなたも、反発するあなたも、ぜひ『母よ、父なる国に生きる母よ』を観てほしい。昨年春にワルシャワ演劇祭に招待され、ポーランド演劇の最先端の作品群を片端から観て回り、最も感動したのがこの芝居である。テーマは、ずばり母と娘の関係。母と息子の関係に負けず劣らず、母と娘の関係ってのも面倒でしょ?「友達母娘」なんてゴマカシでしょ?と私は思うのだが、遠くポーランドにも、似たようなことを考えている人たちがいたというわけである。パワフルで、ユーモラスで、なかなかの社会派でもある、極上のエンタテインメントを、堪能して下さい。私も、今度こそ声に出してブラボーを叫びます。