コラム『ポリシネルでござる!』

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伊藤晃(いとう・あきら)
人形劇団クスクス代表。2007年に秋田県でうまれたプロ劇団。「クスクス」という小さな声を大切に、面白くて楽しい人形劇をしてゆきたいと願っています。秋田、岩手、山形など東北を中心に、全国で公演しています。

伊藤晃

 2006年9月、フランス北東部の都市シャルルビル・メジエールで行われた世界人形劇フェスティバルに出かけた。10日間の期間中に150本近くの人形劇が上演される世界最大のフェスティバルである。

 そこで「ラ・パンデュ」というグループの「ポリシネルでござる!」という人形劇を観た。

 ヨーロッパには乱暴で怠け者の道化が活躍する伝統的な人形劇が各地にある。イタリアでは「プルチネラ」、イギリスでは「パンチ」、そしてフランスでは「ポリシネル」。民衆の気軽な娯楽として、時には権力への風刺や支配への抵抗として、いつも身近にあった人形劇。とはいえ古典劇であるから現代の東洋人が観るのはいかがなものか、という事前の心配は杞憂であった。ヨーロッパの古典的人形劇が、現代の日本人でも楽しめるだろうか。観劇前の心配は杞憂であった。

 古いアパートの中庭にしつらえられた伝統的な形式の舞台で、人形を操るのは若い男女。劇は道化のポリシネルと恋人、赤ん坊と犬と警官と死神といったお馴染みの連中が入り乱れ、司会役の男とポリシネルが掛け合いをしながら、テンポよく進行する。

 人形の扱いが見事だ。途中の大立ち回りには、僕も人形遣いだから可能なのはわかるが、同じ人形遣いだからこそ唖然とした。SF映画のパロディや台湾風な立ち回りも取り混ぜながら、子どもは大笑い、大人は眉をひそめながらも拍手喝采である。

 内容はお下品で不道徳、しかしそれが不快に感じられないセンスの良さがある。「伝統」としてカギ括弧でくくられるのを許さず、抑圧されたエネルギーの捌け口として現代に再生されていた。

 人形劇には、こんなにも力があった。僕らはいつのまにか限界を規定してはいなかったろうか。以来、「ポリシネル」は僕の目標である。終演後にサインをもらったポスターは、いまも稽古場の壁に架かっている。

 このたび静岡県舞台芸術センターの招きで来日するという。秋田から馳せ参じたいところだが、自分たちの初日が直後に控えている。
さて、僕は当日の客席に座っていられるだろうか。