コラム『生と死のあわいを生きて』

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今井翼(いまい・つばさ)
神奈川県出身。2002年9月「タッキー&翼」としてCDデビュー。出演した舞台をきっかけに、フラメンコを本格的に学ぶ。歌手・俳優などの幅広い活動を通して、スペイン文化の普及に貢献したことが評価され、昨年6月、世界初のスペイン文化特使に任命された。

今井翼

 下北沢で、初めて小島章司氏の公演を観たとき、衝撃が走りました。
 人間離れした存在感、いい意味でフラメンコの既成概念を覆す作品性、さらには表現の枠、国境・性別・年齢を超えた存在感。身体から湧きあがる言葉にならないエネルギーは、どんな衣裳をも透かしてすべてを見せている、そんな“生きた”芸術の力を感じたのです。
 踊り、中でもフラメンコは表現者の血・肉・皺までも含めた人としての年輪や深み、生きざまを賭けて表現するものだと思っています。小島章司氏は、今のように簡単に渡欧できない1960年代に船で単身スペインへ渡り、フラメンコを学び、スペインのカンパニーに参加してツアーで踊っておられます。情報の無い時代にそこまでできる勇気はもちろんですが、僕が尊敬してやまないのは、氏のフラメンコへの情熱が単なる西洋文化への憧れではなかった点です。フラメンコを日本に持ち帰った氏は、やがて日本の古典芸能などと融合させた自国の文化・芸術としての独自の世界も切り拓かれました。そこには、深い人間愛と自国愛があり、それこそが大衆芸能であるフラメンコの魂だと思います。
 今回はたった一回の舞台のために、氏が作品を創り、踊るといいます。さまざまな映像メディアを身近に楽しめる今ですが、フラメンコは生きた芸術。だからこそ、そのたった一回のために出かけ肌で何かを感じることをおすすめしたい。それが氏のような素晴らしい年月を重ねた芸術家のものであるならなおさらです。できれば、フラメンコを知らない人にこそ、心をまっさらにして接していただきたい。
 僕自身、7年前からフラメンコに夢中で、スペイン文化特使も務めています。今年はつい最近2週間スペインへ行き、アンダルシアのタブラオで踊りました。言葉にすると角が立ったり照れくさかったりする感情も、フラメンコなら人間らしく自由に表現できる、それが魅力です。
 これからは僕も日本人ならではのフラメンコの表現を通して、人間の魅力を多くの方に伝えたい。そしてその道の向こうにはいつも、豊かな時間を積み重ねた小島章司氏の背中があります。

(聞き手:浦野芳子)