SPACの舞台音楽 その類い稀な成り立ちに迫る

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棚川寛子(たなかわ・ひろこ)
  舞台音楽家。音楽家矢野
  誠に影響を受けパーカッ
  ションを始める。演劇の舞
  台音楽や、パフォーマン
  ス活動などを行う。近年の
  主な活動には、SPAC‐
  静岡県舞台芸術センター
をはじめ、Ort-d.d やアートネットワークジャパン「子どもに見せたい舞台」シリーズの音楽、「芸術家と子どもたち」のワークショップ、セミンコオーケストラの活動などがある。

宮城聰演出作品を観劇した人ならば誰しも気づくことがある。劇世界を支える音楽が俳優による生演奏なのだ。そのプランナー、音楽監督の棚川寛子とは何者なのか。どのように舞台音楽を制作しているのだろうか。

宮城聰との出会いから始まった

 棚川が宮城と出会ったのは19歳の時。舞台を志してはいたが、大きな声を張り上げ動きまわる当時の流行に違和感を持っていた。そんなとき宮城の一人芝居に出会い、「言葉との距離感がある」ことに共感した。宮城演出作品のオーディションを受けるも不合格。だがその後、直接声がかかり、参加することになる。初めのうちは効果音程度に楽器を演奏する一俳優だったが、次第に音楽に肩入れする。1996年『天守物語』を節目に音楽のボリュームが増加。それでも俳優が生演奏することの強みにまだ気づかなかった。1999年『王女メデイア』に至り、演技と音楽のシンクロを肌で感じるようになっていく。

稽古場でゼロから立ち上げる
【『本物のフィアンセ』稽古中の写真】
 棚川の音楽づくりは独特だ。稽古場で即興的に音のフレーズを組み立てる。楽譜があるわけではない。棚川いわく「音楽をつくるだけなら難しくない」。ただ「それだけではおもしろくない」。『王女メデイア』で発見した音楽と演技の交感は、2012年『本物のフィアンセ』で明確に自覚できた。制作期間に不慮の事故で亡くなったSPAC衣裳部竹田徹の存在が大きい。「初日に徹ちゃんに捧げるつもりだったんです。ところが、演奏中に“捧げる”なんておこがましいと気づいて、生かされていることを強烈に実感しました。」受動的にエネルギーを感じとることが重要だと言う。これがレベルアップの鍵になる。

感覚をひらくための訓練とは?
【ワークショップ中の写真】
 稽古ではリズムをとりながらしりとりや台詞を用いたゲームをする。リズムの維持と言葉の操作を同時進行し、知覚や感覚を刺激するのだ。棚川は演劇制作の経験をもとに音楽ワークショップも行う。とくに特別支援学校に行くことが多い。「私の方が教わることが一杯。それを演劇の現場に持ち帰っています。」中高生鑑賞事業や海外公演など成果は出ているが、「まだ先がある」と感じている。「SPACで5年、俳優たちに蓄積ができてきました。もっとよくするためには演奏者同士の信頼が必要。喧嘩した後の演奏はとげとげしいんですよ(笑)」明るい笑顔に現場を生きる演劇人の強さがのぞく。

(文:西川泰功)