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2021年6月25日

【ふじのくに⇄せかい演劇祭2021 レポート<後編>】

レポート<前編>はこちら
 

5月2日(日)〜5日(水・祝) 『アンティゴネ』
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の後半、5月2日からはついに『アンティゴネ』の幕が開きました。本作は、2017年にもここ駿府城公園で上演されていますが、その時は同7月に招聘を受けていたアヴィニョン演劇祭に向けたプレ公演でした。アヴィニョンやニューヨークでの上演を経てスケールアップした作品を静岡で観ていただきたい、その想いは2020年の中止を経てまさに悲願となりました。
 

紅葉山庭園前の特設会場に観客が集まってくる
 

次第に暮れかかり、静かに開演が迫る
 

幅40メートルの舞台は全面に水が張られ、高さ18メートルの巨大な壁が存在感を放ちます。開場時間から舞台には白い衣裳をまとった俳優たちが登場、お鈴を鳴らしながら水の中をゆっくりと歩き、入ってきた観客も静かにその時を待ちます。と突然、チンドン風の太鼓が鳴り開演。軽妙に入ってくるのは作品のあらすじを5分で伝える「ミニ・アンティゴネ」隊です。静岡弁も交えた口上が、これから始まるギリシア悲劇へのハードルをぐっと下げてくれます。これまでの海外公演でもそれぞれの現地の言葉で行われ、とても好評でした。


ミニ・アンティゴネ隊の口上に客席の緊張もほぐれる
 

そして始まる100分の舞台。アンティゴネは、相打ちとなった二人の兄を敵味方に隔てることなく埋葬したことで王クレオンの怒りに触れ死を賜り、生きながら岩屋に囚われます。それぞれの役は、SPAC芸術総監督・宮城聰の真骨頂とも言える「二人一役」の演出で、一つの役を「語り」と「動き」に分け、対になった二人の俳優が演じます。コロス(コーラス)を伴う重厚な語りと、一人で演じるのでは到底生まれないような超越した動き、そして全編にわたり俳優が奏でる生演奏の音楽や、スケールの大きな舞台美術と照明、それらが渾然一体となり幻想的な世界観を生み出しました。
 

王クレオン(右)、アンティゴネ(左上)と妹イスメネ(左下)
 

岩屋に引かれていくアンティゴネの嘆きの場面︎
 

壁に浮かび上がる影が物語のスケールをより大きくした
 

宮城は、人を善悪に分けないアンティゴネの思想を「死ねばみな仏」という仏教の死生観に重ね、登場人物たちを死者の仮初めの姿として描いています。束の間の“役”を与えられた者たちが演じる悲劇、これに対して合間に挟まれる“盆踊り”は誰もが平等で穏やか。今の世界の状況が頭をよぎり、本作がこのコロナ禍に凱旋公演を迎えることになった巡り合わせの不思議を感じずにはいられませんでした。


盆踊りの輪に、役を終えたアンティゴネも加わる
 

ラストシーン、再び明るいパーカッションの音楽が鳴り響き、舞台奥の庭園の緑が照らし出されると、地に伏した登場人物たちが起き上がり盆踊りの隊列に加わります。演奏隊も一人また一人と加わると、やがて無音に。静かな手振りの中で灯籠流しの行灯が水面に浮かび、終演を迎えました。寒さがこたえる野外の舞台でしたが、客席から舞台へ集中した視線が注がれ、また終演後は惜しみない拍手が送られました。


緑が浮かび上がるラストシーン︎
 
 
5月2日(日)〜5日(水・祝)「ストレンジシード」
日中に行われた「ストレンジシード」では、26組のアーティストたちが、駿府城公園や市役所周辺の8つのエリアでパフォーマンスの花を咲かせます。今年で6回目、昨年は5月の開催を同9月に延期し、来場者の事前登録やエリアを区切っての人数制限などを行い、感染対策を整えて今回を迎えました。以前と比べると事前登録のハードルはあるものの、子どもから大人まで幅広い観客がゆるやかに集う「ストレンジシード」ならではの光景がそこここで見られました。
 

駿府城公園/芝生ステージ
 

山崎皓司『世界平和』at駿府城公園/ガーデンステージ
 

大熊隆太郎(壱劇屋)×達也(サファリ・P)×SPACストレンジチーム『Team Walk』at市役所/大階段ステージ
 

太めパフォーマンス『ランデブー』at市民文化会館/石舞台ステージ
 

アーティスト×静岡のコラボレーションも広がりを見せました。参加が3回目となるホナガヨウコは、公募による10代の若者たちと静岡で創作したダンス作品を発表。パステルカラーの衣裳を着たティーンの内なる想いが言葉になり、青空の下で交差します。


ホナガヨウコ『対角線の交点の求め方』at市民文化会館エリア/石舞台ステージ
 

現代アート作家の村上慧による「清掃員たち」は、清掃員のコスチュームを着て街に紛れ込む、というこれまでは彼自身が国内外で行ってきたパフォーマンスですが、今回は前日までの予約で参加者を募り、一般市民が日替わりで清掃員の格好をして公園内に出没!「コスチュームを着る」という行為が、その人を風景に溶け込ませたり、はたまた清掃員らしからぬ行動が演劇的に見えたり・・・。日常の中に違和感や別の視点を発見する面白さがありました。


村上慧『清掃員たち』at 駿府城公園/お城ステージ
 

思い思いに場に溶け込む?!『清掃員たち』
 
 
多田淳之介らによる、子どもや一般の方が参加できるプログラムも。オリジナル“はっぴ”を作ってパレードする子ども向けワークショップや、巨大なキャンバスをリアル版SNSに見立てて知らない人同士がメッセージや絵で会話リレーするコーナーも静かな盛り上がりを見せていました。


多田淳之介+高松ワークショップLab.『ハッピー!はっぴ!ファクトリー!』at 市役所/ダイニングステージ
 

多田淳之介+高松ワークショップLab.『だまっておしゃべり!トーキングキャンバス!』at 駿府城公園/お城ステージ
 

  
 
5月2日(日)〜5日(水・祝)「ずらラジオ」
「ストレンジシード」のスケジュールと並行して、駿府城公園内のフェスティバルgardenには、今回新たに「しりあがり寿presentsずらラジオ」のブースが立ち、参加アーティストが次々に登場、またSPAC俳優らが日替わりでパーソナリティをつとめました。しりあがりさんのゆるっとしたトークに乗せ、創作の裏話や作り手の想いをたっぷり聞く(またはYouTubeで見る)ことができ、パフォーマンスがより立体的に見えてくる試みでした。


「しりあがり寿presentsずらラジオ」at香るラジオステーション
 
 
関連企画:5月3日(月・祝)「お茶摘み」/4日(火・祝)「広場トーク」
3日には、毎年恒例、この時期の静岡ならではの「お茶摘み体験in舞台芸術公園」も行われました。お天気にも恵まれ、富士山くっきり!演劇祭のお客様はもちろんのこと、地元の親子連れに静岡在住の外国人の方も混じり、広い茶畑でディスタンスを保ちながら手摘みを楽しみました。


快晴!広い茶畑に広がり、ひたいに汗しながらの手摘み
 

積んだお茶はカゴに集めて計量、たくさん摘めました♡
 
 
今年は茶摘みの合間に、『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の「バックステージツアー」を初開催。作品の舞台監督が舞台美術の紹介をした後、ステージに上がり傘屋に入ってみたり、“おちょこ”の傘をさしてみたり…。上演をご覧になった方も、公園に初めていらした方も、「自然」と「芸術」が共生する舞台芸術公園の魅力を存分に味わっていただくことができました。


茶畑から歩いて1分、野外劇場「有度」に到着!
 

SPAC創作・技術部の舞台監督による解説、皆さん興味津々
 

おちょこの傘!気分はメリー・ポピンズ?♪
 
 
・・・
4日の夕方に行われたのは、こちらもフェスティバルgardenで恒例となった「広場トーク」。青空に風がわたる広場で、哲学者の國分功一郎さんとメゾソプラノ歌手の清水華澄さん、SPAC芸術総監督の宮城聰が登壇し、劇作家の石神夏希さんの司会でトークが弾みました。
宮城が打ち出した今年の演劇祭テーマは、“サプリメントとしての肉体”、トークも同じテーマを軸に話が広がります。冒頭、宮城は昨年オンラインで開催した「くものうえ⇅せかい演劇祭」を経て、今年は演劇祭を「ともかく生でやらなくちゃいけない」と感じ、「人間は人と向き合う時に計量できないくらい微量の栄養を互いに受け取っているのではないか」と、“サプリメント”という表現を解説。オペラ歌手として世界で活躍し、この一年同じように生の舞台の代えがたさを痛感された清水さんと、大学のリモート授業で伝えることの難しさを感じている國分さんのわかりやすく哲学的なトークで、1時間はあっという間に過ぎていきました。
▶︎ 広場トークの内容は次号ブログで詳しくご紹介します!そちらもお楽しみに。


清水華澄さん、透き通った明るい声で観衆を和ませる
 

國分功一郎さん(右)と司会の石神夏希さん(左)
 

SPAC芸術総監督の宮城聰
 

広場でふらりとトークを聞く、そんな時間も2年ぶり
 
 
・・・
中止の年を経て、実際に走りきった今年の演劇祭。オンラインでつながることができた「くものうえ」も貴重な時間でしたが、目の前にお客様がいる「リアル」がいかに尊く代えがたい活力を交感しているか、そのことを再確認した12日間でした。すぐには解決しない問題・困難が世界を覆うなか、互いを想い、無言のエールを交わし合える場が「演劇祭」なのだということを改めて思い起こしました。
 
最後に、このような状況下で感染対策にご協力いただきご来場くださった皆さま、そして開催を支えてくださったスタッフ、シアタークルー(ボランティア)の皆さまに感謝申し上げます。そして今年は来場が叶わなかった皆さまとも、また静岡でお会いできることを心待ちにしています!
引き続きSPACを応援よろしくお願いいたします。


 
 

文:坂本彩子(制作部)