世界は踊る〜ちいさな経済のものがたり〜

企画・構成:パスカル・ランベール、エリック・メシュラン
作・演出:パスカル・ランベール
共同演出(静岡公演):大岡淳
哲学的テキスト・出演:エリック・メシュラン

出演:クレマンティーヌ・べアール、ケイト・モラン、セシール・ミュシテリ、ヴィルジニ・ヴァイヤン
一般参加者:
朝羽純也、落合久信、川口駒貴、小長井涼、小谷野桂子、佐藤萌里、佐野千秋、Sabine Stadler、柴田恵、杉上友紀、杉原可奈子、鈴木綾乃、鈴木久美子、芹澤輝代、濱﨑邦子、春野菜緒、本多佐千子、松浦大樹、横山香代子
コーラス指導(静岡公演):戸﨑裕子(音楽青葉会)
コーラス:辻康介、戸﨑廣乃、戸﨑文葉、蓑島晋 / 梅原智代、梅原知里、梅原奈美樹、倉石寛、鈴嶋孝将、高田智佳、土屋佑里香、蓑島洋子、山下浩平 / 永井 健二(SPAC)

上演記念プレトーク開催決定!
10月23日(土)ゲスト:宮沢けいすけ(静岡市議会議員)
「脱競争経済は可能か?」
10月24日(日)ゲスト:中嶋壽志(静岡経済研究所専務理事)
「多極化時代の静岡経済」
聞き手 大岡淳(SPAC文芸部/『世界は踊る』共同演出担当)
各日:17:15〜17:50 会場:舞台芸術公園内カチカチ山
参加費 無料(公演のチケットをお持ちの方) 
※事前申し込み不要

一般公演:10月23日(土)、24日(日)18時30分開演

舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間:90分 フランス語・日本語上演/日本語字幕
チケット:2,000円/高校生以下1,000円
※背もたれのない客席になります。 ※雨天時でも上演いたします。

作品について

フランス演劇界の俊英パスカル・ランベールと、経済哲学者エリック・メシュラン、4名のフランス人女優、そして50名の市民・・・。プロとアマチュアによる異色のコラボレーションがフランスで大きな反響を呼んだ、全く新しい群集劇が日本にやってくる! 舞台に立つ人々は、物々交換の時代のポリネシアから、金融危機に苦しむ現代のデトロイトまで、世界経済の歴史(=物語)を、軽やかに旅していく。そして、旅の終わりに見えてくる風景とは――?

埼玉、静岡、宮崎の3都市・3劇場で、パスカル・ランベールと日本人演出家との共同演出により、そこに生きる各地の市民とともに、新たに創り上げた日本版の上演。さあ、時を越え海を越え、旅に出よう!

◎県民参加体験創作劇場とは・・・・

地域における舞台芸術活動のより豊かな環境の創出と優れた人材の輩出を目的にスタートしたSPACの人材育成事業。1997年『シンデレラ』、99年『ロミオとジュリエット』、99年、2000年『忠臣蔵』、04年『忠臣蔵2004』、06年『東海道四谷怪談』(以上、演出:宮城聰)、07年『椿姫』(演出:渡辺亮史)など、参加者の県民とプロの演出家・スタッフが共同で舞台を創造している。その後、プロの俳優・スタッフとして活動を始めたり、地域での新しい演劇活動を展開している参加者も数多くいる。

大岡淳 インタビュー

本作のために渡仏し、演出家パスカル・ランベールの稽古に参加してきたSPAC文芸部・大岡淳。共同演出としての立場から、この「傑作」について語ってもらった。

−−『世界は踊る〜ちいさな経済のものがたり〜』は、世界経済の歴史を扱った演劇作品だそうですが、まずは具体的な内容について教えて下さい。

 これほど言葉で説明するのが難しい作品もそうそうありません。が、あえて説明してみますと、静岡版では、主にムーブメントを担当する出演者と、主にコーラスを担当する出演者が、あわせて40人近く舞台に登場します。そのほとんどはノンプロ(演劇や歌唱を職業とはしていない一般市民)です。この人たちが、この人たち自身の日常生活をうかがわせる身体表現を、それぞれ舞台上で展開します。この身体表現が、この作品の主役と言っていいと思います。
 そこに、プロの女優4人と、哲学者が登場します。女優たちは、ノンプロ出演者の傍らで、世界経済を題材にした寸劇を、次々に演じます。そして哲学者は、要所要所で世界経済史をテーマにしたレクチャーを、やはり舞台上で語ります。
 つまり、ノンプロによる身体表現と、プロ女優による演技と、哲学者による講義が一体化した、21世紀型のパフォーマンスなのです!……って、わかっていただけますか?

−−とりあえず凄そうだという雰囲気はわかりました(笑)。では質問を変えます。大岡さんはフランスでこの作品の稽古と本番に立ち会って、「傑作!」と興奮されていましたが、どこに魅力を感じたのですか?

 演出のパスカル・ランベールは、鋭敏な美学の持ち主です。ノンプロを相手にするときでも決して妥協を許さない人であり、また、そこに惹かれて大勢のノンプロが集結していました。
 近年、ドイツのリミニ・プロトコルというグループが典型ですが、ノンプロを主役に据えた演劇が、ヨーロッパでは勢いを得ているようです。しかしあの手の作品では、ノンプロは普段のままの状態で舞台に立つことを求められていると思います。一種のドキュメンタリー演劇なんですね。『世界は踊る』の場合も、ノンプロは役を演ずるわけではないですが、しかし、パスカルの美学によって統率されてもいる。いうなれば、プロの芸術家の視点を媒介として、普段の自分から脱皮した、自分自身の新しい姿をさらしているようなものなんですね。
 つまり、プロの芸術家とノンプロの生活者の新しい関係が、作品に強さをもたらしている。この感じは、今まで体験したことがなかったので、興奮しました。演劇の新しい地平を覗き見たような気がしましたね。

−−その「新しい関係」とは何なのかを、もう少し詳しく。

 今や、誰もが自己表現できる時代でしょう。インターネットによって、素人/玄人の別なく、誰もが自分の作品を世界中に発信することができます。SPACも、宮城監督の下で人材育成事業に力を入れています。SPACの仕事と並行して、私は袋井市にある月見の里学遊館(http://usagihall.com/)という公立文化施設で芸術監督を務めていますが、ここなどはワークショップ・センターを名乗っています。自己表現のツールとして文化芸術を活用するワークショップは、この10年ですっかり日本社会に定着した感があります。
 こうなると、素人/玄人という区分けにだんだん意味がなくなってきます。それだけに私たちは、プロの演劇人であることの意味とは何なのかを、現在の日本社会から鋭く問い返されていると考えるべきではないでしょうか。そうすると、これまでは、ノンプロにはできないことをやってみせ、観客を圧倒するのがプロの役割だったのでしょうが、これからは、ノンプロを舞台に立たせて、そのポテンシャルを最大限に引き出す促進役(ファシリテーター)を務めるのが、プロの役割だということになるのかもしれません。「新しい関係」とはそういう意味で、そのお手本を、パスカル・ランベールとフランスのノンプロ出演者たちが、鮮やかに見せてくれたという気がします。

−−フランスの初演では、フランスの市民たちが出演していたんですね。日本版はどうなりますか?

 日本版は、埼玉・宮崎・静岡の3都市で創作・上演されます。ノンプロ出演者は、公募で集められた、それぞれの地域の市民です。埼玉は、キラリ☆ふじみの芸術監督である多田淳之介さん、宮崎は、青年団の演出家である吉田小夏さんが、パスカルの演出を自分なりに捉え返して、共同演出者として稽古をおこないます。3都市それぞれで、内容が異なるわけではないんですが、でも、微妙に味わいの異なる上演に仕上がると思います。そこがまた面白いんじゃないでしょうか。

−−「経済」がテーマと聞くと、なんだか難しそうな気もしますが、その点はいかがですか?

 確かに、未開社会の物々交換から、現代アメリカの金融危機までを一気にかけぬけるので、面食らう内容かもしれません。そもそもこの作品が「経済」をテーマとしたのは、パスカルが、家を失って路上に家具を並べて途方にくれている、デトロイトの黒人家族の写真を目にして、なぜこのようなことが起きてしまうのか、疑問に思ったことに端を発しています。この疑問に明快に答えてくれたのが、彼の盟友である哲学者エリック・メシュランだったのだそうです。だったらエリックを舞台に出演させて、経済危機の謎を解くような舞台を作ってしまえばいい、ということだったんでしょう。実際この芝居の構成は、エリックとパスカルの共同作業によって創られました。
 結果として生まれたのは、資本主義の歴史を総体として問い返すような、タイム・トラベル・パフォーマンスだったといえます。そしてノンプロ出演者は、この世界経済史の主役であったところの、無名の民衆を表象しているように見えました。

−−最後に、これから『世界は踊る』をご覧になる皆様に一言お願いします。

 舞台上で展開するタイムトラベルを、ぜひ楽しんでいただきたいと思います。哲学者と女優たちは、ガイドさんだと思って下さい。舞台上のノンプロ出演者と共に、世界経済の歴史=物語をたどる旅に出かけましょう!

【大岡淳からのメッセージ】

フランス演劇界で活躍し、平田オリザ氏との交流で日本でも知られる、鬼才パスカル・ランベール。彼が芸術監督を務めるジュヌビリエ国立演劇センターが製作し、今年1月に初演した『世界は踊る〜ちいさな経済のものがたり〜』は、50人近いノンプロ出演者が世界経済を駆け抜ける、驚くべき作品であった。ここでノンプロが果たす役割は、決してプロ俳優の添え物、「アマチュアのエキストラ」ではない。彼らの存在感と身体表現と言語表現こそが、この舞台の主役である。その様は、現に世界史の主役は名もなき人々であったではないか、と語っているかのようだ。私はフランスで1ヶ月間パスカルの稽古に立ち会い、静謐で鋭利で時にユーモラスな彼の美学が、日本人を魅了するだろうことを確信した。この舞台で人々は、役を演じるのではなく、自分の存在そのものを提示する――ただし、いつもとはちょっと違ったやりかたで。ところで、あなたもまた、人生という名の舞台に立っている。そのことを驚きをもって再発見するために、この作品を御覧いただければ幸いでる。
大岡 淳(共同演出/SPAC文芸部)

企画・製作 財団法人富士見市施設管理公社、財団法人静岡県舞台芸術センター、財団法人宮崎県立芸術劇場、ジュヌビリエ国立演劇センター
製作協力 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
助成 財団法人地域創造、国際交流基金PAJプログラム、キュルチュールフランス、貯蓄供託金庫、ブイッグ建設イルドフランス、郵便局事業基金、リーディング用共済組合基金、在日フランス大使館文化部
後援 東京日仏学院
協力 ANA
  ツアースケジュール
《埼玉公演》 10月16日(土)、17日(日)
富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
《宮崎公演》 10月30日(土)、31日(日)
メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)

パスカル・ランベール

フランス・ジュヌビリエ国立演劇センター芸術監督。1984年、サイド・ワンポストゥーム・シアターを創設し、作・演出を務める。フランスの主要フェスティバル、劇場のほか、ヨーロッパ、アメリカ、日本での上演も行っている。また、オペラやダンス作品の演出、さらに監督として短編映画も手掛け、マルチな活動を展開している。日本では、『愛のはじまり』(2007)、『演劇という芸術』『自分のこの手で』(2009)2本立て公演に続き、今回が4作品目の上演となる。

大岡淳

1970年兵庫県生まれ。演出家・劇作家・批評家・パフォーマー。SPAC文芸部スタッフ、月見の里学遊館芸術監督、静岡文化芸術大学非常勤講師、はままつ演劇・人形劇フェスティバル2010演劇賞審査委員長。地域から発信する、新時代のエンタテインメントを探求中。SPACでの演出作品にハイナー・ミュラー『大人と子供によるハムレットマシーン』、SPAC俳優による『朗読とピアノの午後』、月見の里学遊館での演出作品にモリエール『喜劇ゴリ押し結婚』等がある。


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