若き俳優への手紙
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作:オリヴィエ・ピィ
日本語台本:平田オリザ 翻訳:芳野まい
出演:ひらたよーこ 杉山夏美
製作:SPAC
日本語上演・英語字幕 ★静岡県内の中学生は、30名までご招待あり。
作品について
宮城、ピィ、オリザ、よーこ…
想像を越えた夢のコラボレーションが実現!
「Shizuoka春の芸術祭2008」ではじめて日本公演を行ったピィが上演したうちの1本がこの『若き俳優への手紙』でした。観客が目の当たりにしたのは、まぎれもなく「演劇の奇跡」。ピィの劇詩は、言葉が肉体に宿ることの神秘を、圧倒的な衝撃とともに伝え、野外劇場は深い感動に包まれました。
今回は、このピィの傑作を、現代口語演劇の旗手・平田オリザの日本語台本をもとに、SPAC芸術総監督・宮城聰の演出でおくります。
これだけでも「事件」と言うには充分の共作ですが、この劇詩を身をもって演じるのは、オリザ氏の実生活上のパートナーであり、現代口語演劇の体現者であるとともに、現実離れした独特の存在感で異才を放ち、ミュージシャンとしての活動も盛んな、女優・ひらたよーこ…
“役者”がそろいました。もう見逃す手はありません。
あらすじ
悲劇の女神に扮した「詩人」が次々と襲いかかる演劇の敵たちに立ち向かい、時に滑稽に、時にグロテスクに、この演劇という奇蹟を語る。舞台を通してのみ語りうる、ピィ演劇論の精華。
コラム
これは、ほかでもない、あなたへ宛てた手紙である。
大岡 淳
文芸批評家・柄谷行人は「近代文学の終り」を宣言した。これは、文学の中でも小説が特権化された時代が終わった、という意味である。日本の文脈で言えば「純文学」が王座から滑り落ちた、ということだろう。その一方で、ミステリーやライトノベルやケータイ小説は流行している。つまり、文学が「芸術」を名乗る時代は終わり、エンタテインメントとしてのみ、文学は生き残ろうとしている。これは、他の表現ジャンルにもあてはまる現象である。「純粋美術」よりも建築やデザインの方が、「現代音楽」よりもポピュラー音楽の方が、消費者の嗜好を形にすることで、遥かに親しまれている。映画はテレビドラマの2時間版やマンガの実写版になってしまったし、演劇もまた、ミュージカルやサーカスのようなエンタテインメントとしてしか、生き残ることはできないのかもしれない。
つまり私たちは、近代という時代において尊敬を集めた「芸術」なるものの凋落を目にしているのだ。では、「芸術」を殿堂に祀った先達であるヨーロッパの人々は、この状況をどう考えているのだろう? とりわけ、「総合芸術」とも呼ばれた演劇の凋落を?
パリ・オデオン座芸術総監督である、劇作家・演出家オリヴィエ・ピィの戯曲『若き俳優への手紙』は、言葉の価値・演劇の価値が下落したことを嘆き、その再生を祈念する「詩人」に対して、多種多様なキャラクターが論争を挑む、まさしくドラマチックなドラマである。これこそ、ヨーロッパの最深部から発せられた「芸術」復興の叫びと言ってよい。だがそれは「芸術」に関心を寄せる人々だけでなく、全ての現代人に向けられたものだ。「芸術」復興に賛同するか否かに関わらず、この作品を通して私たちは、現代という時代が抱え込む、空虚の大きさを思い知ることになるのだから。
今春、平田オリザと宮城聰のコラボレーションによって、この『若き俳優への手紙』が、現代の日本人へ宛てられた手紙へと生まれ変わる。さて、あなたはどんな返事を書くだろうか?
大岡 淳(おおおか・じゅん)
演出家・批評家。
1970年兵庫県生まれ。(財)静岡県舞台芸術センター(SPAC)文芸部スタッフ、静岡県袋井市・月見の里学遊館芸術監督。SPACでの演出作品にハイナー・ミュラー作『大人と子供によるハムレットマシーン』、月見の里学遊館での演出作品にモリエール作『ゴリ押し結婚』がある。
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バベルの塔
竹下節子
オリヴィエ・ピィ、または「歓喜する絶望者」の使徒
ドゥ・ヴォス・パトリック
協賛 | キュルチュールフランス |
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後援 | フランス大使館、東京日仏学院 |
オリヴィエ・ピィ
劇作家、演出家、俳優。オデオン座芸術総監督。
1965年、南仏グラース生まれ。87年にパリ国立高等演劇学校(コンセルヴァトワール)に入学、並行してカトリック学院で神学と哲学を学ぶ。95年、アヴィニヨン演劇祭で上演時間24時間の自作『常夜灯―果てしない物語』7日間連続公演を敢行し、一躍脚光を浴びる。98年から2007年までオルレアン国立演劇センターを指揮、同年3月にオデオン座の芸術総監督に就任。03年にはクローデル『繻子の靴』(ジャンヌ・バリバール主演)の数十年ぶりの通し上演(11時間)を成し遂げた。08年にはギリシア悲劇『オレステイア』三部作を自らの新訳で通し上演。「Shizuoka春の芸術祭」では、2008年に『イリュージョン・コミック―舞台は夢』と『若き俳優への手紙』の2作品を、2009年には『オリヴィエ・ピィのグリム童話』3部作を上演した。
平田オリザ
劇作家・演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授、内閣官房参与、劇団「青年団」主宰、こまばアゴラ劇場芸術監督、(財)舞台芸術財団演劇人会議評議委員、東京芸術文化評議会評議員、三省堂小学校国語教科書編集委員ほか。
1962年東京生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。95年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞、2003年『その河をこえて、五月』で第2回朝日舞台芸術賞グランプリを受賞。02年著書『芸術立国論』(集英社新書)が第7回AICT演劇評論賞、06年モンブラン国際文化賞受を受賞。フランスを中心に世界各国で作品が上演・出版されている。02年以降、中学国語教科書にも採用された平田のワークショップの方法論に基づき、年間30万人以上の子供たちが教室で演劇を創作している。08年には、大阪大学で世界初のロボット演劇『働く私』を発表し世界的な注目を集める。
ひらたよーこ
劇団「青年団」俳優、ことばをうたうバンドあなんじゅぱす主宰。
1965年東京生まれ。作曲家の父のもと作曲に親しんで育つ。国際基督教大学教養学部在学中に劇団「青年団」に入団。以後、『東京ノート』をはじめとする数多くの作品に出演。ヨーロッパ等海外公演に多数参加。同時にシンガーソングライターとしての活動を開始。96年に演劇と音楽の結実点として「あなんじゅぱす」を結成。作曲、歌、ピアノを担当。正岡子規の短歌から谷川俊太郎、藤井貞和等の現代詩まで100年の言葉を歌う活動は、音楽というジャンルを越え、演劇、短歌、現代詩など様々な分野で高い評価を得ている。2004年にローマ、06〜10年にパリで5回のコンサートを行う。09年に日仏イラン合同演劇『ユートピア?』に出演。09〜10年、日仏合同公演『鳥の飛ぶ高さ』でフランス国内巡演(パリ市立劇場他)に出演、挿入歌作曲も手がける。最近の活動では、矢野誠と共に谷川俊太郎の詩編「少年」を作曲、コンサートを行なっている。