わたしはかもめ、いいえ、そうじゃない・・・。
ブラジル最先端カンパニー、チェーホフをあそぶ
チェーホフの『かもめ』の上演・・・
この難題に挑むある劇団の一日。
『かもめ…プレイ』はチェーホフの「かもめ」を演ずる稽古場をそのまま舞台にしている。「かもめ」の主人公たちは演劇に失敗してばかりいる。演劇を演じられない人たちの悲喜劇はどうやって演じればいいのか?ブラジル現代演劇の俊英エンリケ・ディアスは、この難問に絶妙の解答を見つけた 一緒に失敗してみればいいのだ。やりすぎたり、物足りなかったり、役が合わなかったり…。そんな繰り返しで、少しずつ舞台ができあがっていく。稽古場の悲喜劇が、チェーホフの傑作をスリリングにする。
チェーホフの「かもめ」の物語
モスクワから遠く離れた別荘地。トレープレフは劇作家になることを夢見て、女優志望の恋人ニーナを主人公に、自宅の外れで舞台を上演する。トレープレフの母はかつての大女優アルカージナ。その愛人で売れっ子小説家のトリゴーリンも舞台を観ている。アルカージナには息子が打ち出す「新機軸」が気に食わず、舞台をぶちこわしにしてしまう。だが、トリゴーリンは二人の試みに興味を抱き、やがてニーナをモスクワに連れて行く。時が移り、旅回りの女優となったニーナが、流行作家となったトレープレフのもとを訪ねてくる・・・。
エンリケ・ディアス
ブラジルの演出家、俳優。1967年、リマ(ペルー)に生まれる。リオ・デジャネイロで「コンパーニャ・ドス・アトレス(俳優の劇団)」を友人たちと共に設立。90年代初頭、ボルヘスとマラルメに着想を得た『ア・バオ・ア・クー』によって注目される。「コンパーニャ・ドス・アトレス」にとってテクストは出発点に過ぎず、ディアス自身を含めた俳優たちの演技の共同作業によって作品を構成していく。88年から、ディアスは同時に即興とジャンル横断性を特徴とする「コレティヴォ・インプロヴィゾ」という劇団のディレクターも務めている。この劇団はエンリケ・ディアスとマリアナ・リマの演出作品に参加したパフォーマーたちの出会いによって生まれた。近年はパリ、ベルリン、モスクワ、ニューヨーク、ブエノスアイレス、ボゴタ、リスボンなど世界各地で上演活動を展開。アンドルーシャ・ワディントンの『ハウス・オブ・サンド』(2005、日本未公開)など、映画出演も多数。
劇評
熱帯から来た、ずらしの効いたユーモアに貫かれた作品。リラックスした雰囲気の中で、時には火山のように激しく猛然と権威に立ち向かうこの俳優たちは、いつもチェーホフにつきまとうため息から遠く、遠く離れて、演劇という芸術を強烈に生きているのだ。――『ル・ソワール』紙