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タイタス解剖〜ローマ帝国の落日

監督:ブリギッテ・マリア・マイアー
原作:ハイナー・ミュラー
   (シェイクスピア『タイタス・アンドロニカス』による)
映像出演:ジャンヌ・モロー、アンナ・ミュラー、他
7月4日(土) 5日(日) 10:30/17:30開演
舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
上映時間:60分
一般大人2,000円 / 大学生・専門学校生・高校生以下1,000円

ヌーヴェル・ヴァーグの女神ジャンヌ・モローとハイナー・ミュラーの娘アンナ・ミュラーが対峙、シェイクスピア最大の問題作が今日の世界に広がる亀裂を接写する!

帝国VS第三世界、野蛮はどちらだ
復讐の連鎖によって切り刻まれ、解体されていく世界
果てしなくつづく解剖に、どうしたら終止符が打てるのか?
 
 ハイナー・ミュラーの『タイタス解剖―ローマ帝国の落日』がブリギッテ・マリア・マイアーの手で映像化!一昨年のアヴィニヨン演劇祭でミュラー作『カルテット』のリーディング公演に出演したジャンヌ・モローは、この話を聞いて即座にオファーを受け入れ、ベルリンに飛んだという。
 ミュラーの妻であった映像作家ブリギッテ・マリア・マイアーは、この作品のためにエジプト、ガーナ、中国を訪れ、現代の「帝国」に対抗する「周縁」の状況を模索。またベルリン国立バレエ団のダンサーたちを起用し、ミュラーのテクストと14の鮮烈なタブローで今日の「帝国の落日」を描いている。
 今年4月にベルリンでプレミア上映された話題作が早くも日本上陸!

■コラム
「ハイナー・ミュラーからウィリアム・シェイクスピアへの手紙」 大岡淳

 君が、後世に残る悲劇作品をいくつも生み出すに先立ち、最初期に書いたのが『タイタス・アンドロニカス』だったということは、偶然ではないだろう。流血が流血を、復讐が復讐を呼ぶこの物語こそ、君が本当に目にしたものは何だったのかを暗示している。この戯曲には、観客の道義に訴えかける希望の一片すら見当たらず、ローマ帝国は、タイタスの息子リューシアスによって先導されたゴート族によって蹂躙され、主要登場人物は残らず死に果て、舞台はさながら灰燼に帰して幕を閉じる。この崩壊感覚こそ、君の故郷。思わず私は、新約聖書を読みながら何より黙示録の情景に興奮した、少年の頃を想起した。
 私が共感を覚える登場人物は、帝国を追放され、蛮族を引き連れて帰還する、リューシアス・アンドロニカス。越境を繰り返して延命する権力者。私もまた、共産主義国である東ドイツの文化人・知識人として、かつて、西側の資本主義国を訪問することを許された特権階級の一員であった。越境者の胸に疼くのは、祖国への愛憎。越境という行為が引き起こすのは、祖国への忠誠を尽くそうとする者の振舞が、逆に祖国への裏切りと見えてしまうパラドックス。帰還したリューシアスを待ち受けていた役目は、帝国の破産管財人。思えば、東ドイツが消滅してドイツ統一がなされた際、私は今こそ独立労組を結成すべきだと呼びかけたが、その声は、「自由」を求めるヒステリックな民衆の声にかき消されたのだった。
 9.11は、ヨーロッパ人好みの黙示録。君の物語の中で「諸悪の根源」という役割を押しつけられたのがムーア人であるということが、既に9.11の予告編のようなもの。むろんそのような小物の悪党がいようがいまいが、帝国の崩壊は避けられなかった。現代の帝国であるアメリカ合衆国もまた、今や没落の途上にある。既に鬼籍に入った君と私とで、天上からこのカタストロフィを楽しもうではないか。さて、酒は何にする?

大岡淳(おおおか・じゅん)
photo_column_ohoka演出家、批評家。1970年、兵庫県生まれ。静岡県舞台芸術センター(SPAC)文芸部スタッフ、袋井市・月見の里学遊館芸術監督、パフォーマー集団「普通劇場」代表。昨年SPACにて、ハイナー・ミュラー作『大人と子供によるハムレットマシーン』を演出。桐朋学園芸術短期大学、静岡文化芸術大学、河合塾COSMO非常勤講師。

後援 ドイツ連邦共和国大使館
ドイツ文化センター


ブリギッテ・マリア・マイアー

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(ブリギッテ&ハイナー・ミュラー)

写真家、映像作家。
 1965年、レーゲンスブルク(ドイツ)生まれ。カッセル大学ヴィジュアルコミュニケーション科で写真とパフォーマンスを学び、90年からベルリンでアーティストとして活動。神話や歴史を素材にした人物写真で注目を集め、カッセルのドクメンタ(ヴェネチア・ビエンナーレとならぶ国際現代美術展)をはじめ世界各地で写真・映像インスタレーションを発表。92年にハイナー・ミュラーと結婚。写真集に、ミュラーの死をテーマにした『死は間違いだ』(2005)など。

ハイナー・ミュラー(1929-95)

旧東ドイツの劇作家・演出家。
 1929年、ザクセン州エッペンドルフ生まれ。50年代から劇作を始め、ブレヒトの後継者として東ベルリンの演劇界に登場。57年に一人目の妻インゲ・ミュラーとの共作『賃金を抑える者』で劇作家としてデビュー、ハインリヒ・マン賞を受賞。しかし61年に自作がドイツ社会主義統一党などの干渉により上演中止になり、東ドイツ作家同盟より除名されて以降、ギリシア悲劇やシェイクスピアなどの古典の翻訳・改作をはじめるようになる。77年に西独の演劇雑誌に発表された『ハムレットマシーン』(昨年「SPAC秋のシーズン」でも大岡淳の演出により上演)は多くの重要な演出家を魅了し、以後、世界で最も影響力のある劇作家の一人となった。84年『タイタス解剖』を発表、翌年西独で初演される。95年に死去。
 ギリシアで同年開催された第1回シアター・オリンピックスでは、鈴木忠志らとともに国際委員の一人として名を連ねている。99年に静岡で開催された第2回シアター・オリンピックスでは、「ハイナー・ミュラー写真展」が開かれた。

ジャンヌ・モロー

photo_titus_2映画女優。
 1928年、パリ生まれ。代表作にルイ・マル『死刑台のエレベーター』(57)、ゴダール『女は女である』(61)、トリュフォー『突然炎のごとく』(61)など。現在も世界各地の映画作品に出演しつづけている。