アルルカン、天狗に出会う
- 日本語
- english
執筆協力・翻訳・字幕製作:大浦康介
作品について
コメディア・デラルテの人気者アルルカンの正体は魔物!?
天狗がフランス人に憑依する驚愕のパフォーマンス!
イタリアの喜劇コメディア・デラルテの代表的な登場人物アルルカン(アルレッキーノ)。今は道化として知られていますが、もともとの姿は魔物。アルルカンの本当の姿を探し求めて、ディディエ・ガラスは「バベル・アルルカン」というプロジェクトを立ち上げました。世界各地に伝わる魔物的な登場人物を自ら演じ、アルルカンに出会わせます。ディディエ・ガラスはフランス人ですが、コメディア・デラルテの名手。天狗を演じるにあたって日本に滞在し、能の師匠のもとで鍛錬を重ねました。フランス人の口から中世日本語が飛び出すこの作品に立ち会えば、言葉も人種も越えて身体表現が立ちあがるスリルを体験することになるでしょう。バベルの塔、崩壊前夜へ! ガラスのパフォーマンスは私たちを誘います。
あらすじ
コメディア・デラルテの俳優が仮面をつけて舞台に登場し、いつものアルルカンを演じようとする。だが、アルルカンの本来の姿は一種の魔物であり、やがてこの魔物が俳優に憑依して、自らを滑稽な道化へと貶めていった俳優たちに怒りをぶちまけていく。魔物は中国の鍾馗(しょうき)など、世界中の伝統のなかで生きてきた他の魔物たちとの出会いを語る。やがて日本の魔物である天狗が憑依し、中世の日本語で語り出す・・・。
【バベル・アルルカンとは】
この作品は2001年に始まった「バベル・アルルカン」というディディエ・ガラスの壮大なプロジェクトの一環です。一人芝居「アルルカン」のさまざまなバージョンをさまざまな国で製作し、その国の神話的で悪魔的な人物を、やはりディディエ・ガラスが、その国の言語で演じています。プロジェクトの日本版『アルルカン、天狗に出会う〜(H)arelequin/Tengu〜』は、彼が金剛流の宇高通成のもとで演技術を学んだ1998年のヴィラ九条山での滞在の成果でもあります。
コラム
仮面-過去世への扉
宇髙通成
もうすでに数年も前になるが、フランスから、ディディエ・ガラスと言う名の仮面劇の演者が私の所に来た。彼は革で作られた、王や王女、王子や召使い、はたまた乞食の仮面を交互に着け、様々な役を即座に演じて見せた。すぐ目の前に座っていた私は、威厳に満ちた仮面から繰り出される言葉や、大きなしぐさに、石のように硬く縮まってしまった。また、哀れな老人に変わると、心の中から救いの手が出そうになった。彼の劇中に知らず知らずの内に入り込んでいた私は、ふと、能で味わう何か、心騒ぐ想いを感じ取った。それは、仮面でしか表現出来ない希有な現象であると同時に、長い間、この特殊な現象について真面目に問うて来た。その問いはこうである。いったい仮面は、なぜ人の心の底まで入り込んで、様々な感動を与えるのだろうか。それは幾度となく繰り返されて来た、人生という輪廻転生の中で、恐れ、敬い、驚き、悲しみ等と言った、喜怒哀楽の感情が、我々の心の中に蓄積され、様々な心の揺さ振りを引き起こすのではないか。いわば仮面は、我々の感情の縮図とも言える。そう言った深い意識の底に沈んでいる過去の思い出と、仮面が一致する時に、特別な感動を生むのではなかろうか。日本に於ける仮面の代表は、おのずと能面にたどり着く。しかしながら、能面は日本のオリジナルではなく、インド、中国、韓国から伝承された、宗教的要素を含んだ、仮面群の到達点が能面の原点であり、能という魂救済の仮面劇が、より熟成を加えて、今の能面が出来上がった。今や、能楽は日本だけのものではなくなりつつある。能の表現のメソッドを学ぶ、多くの外国人の中で、ディディエ氏のように、目線の使い方、面の傾斜によって生み出される、能的な表現の世界は、無尽に広がるに違いない。益々の熟成を加える彼の仮面劇は、甚だ脅威であり、楽しみでもある。ただ、私にフランス語の理解力が無い事は、実に情けない事である。
宇髙通成(うだか・みちしげ)
シテ方金剛流能楽師。
重要無形文化財総合指定保持者。五流を代表する演者の一人で、唯一の能面作家でもある。『翁』『道成寺』『卒都婆小町』『鸚鵡小町』などを披き、新作能の制作も手掛ける。(『子規』『原子雲(祈り)』『龍馬』演能。)景雲会・面乃会・INI(国際能楽研究会)を主宰し、幅広く活動。2007年、文化庁国際芸術交流支援事業の一環として、欧州にて公演。
______________________________
東京公演:6月4日(金)、5日(土)19時開演 会場:銕仙会能楽研究所
お問い合わせ:東京日仏学院TEL.03-5206-2500
京都公演:6月13日(日)16時開演、14日(月)19時30分開演 会場:アトリエ劇研
お問い合わせ:アトリエ劇研TEL.075-791-1966
←左のアイコンをクリックすると、SPAC発行のパンフレット「劇場文化」掲載のエッセイをお読みいただけます。
アルルカンと天狗—東西の魔物が出会う
高田和文
ディディエ・ガラスの〈旅〉
大浦康介
協賛 | キュルチュールフランス |
---|---|
後援 | 東京日仏学院、フランス大使館 |
ディディエ・ガラス
俳優、演出家。
パリ国立演劇学校(コンセルヴァトワール)でクロード・レジらに師事したのち、レジ、ジャック・リヴェット、リュドヴィック・ラガルドらの作品で俳優として活躍。クリスチャン・シアレッティと共同で製作した『繊細なるアハメッド』(アラン・バディウ作、1995)でモリエール賞最優秀俳優賞にノミネート。1998年、京都のヴィラ九条山に滞在し、金剛流の宇高通成に師事して能を学ぶ。99年には北京で中国京劇院の名優李光に師事。2000年、『モネー・ド・サンジュ(猿のお金)』で狂言大蔵流の松本薫(太郎冠者役)、中国京劇院の董志華(孫悟空役)とともにアルルカンを演じ、アヴィニヨン演劇祭、アルマグロ演劇祭(スペイン)などに参加、アルマダ演劇祭(ポルトガル)で大賞を受賞。その他、ラブレー、セルバンテス、ゴンブローヴィッチなどの作品を一人芝居の形式で演じている。10年からブルターニュ国立劇場の提携アーティスト。