女よ、世界を産みなおせ!
『王女A』は2005年8月に「マレビトの会」によって初演された。松田正隆は、『紙屋悦子の青春』(1992)など、茶の間を舞台に日常を端正に描く作品で知られていたが、『天草記(てんそうき)』(00)を機に、伝承や神話と日常が融合した魔術的リアリズムといえる作風へと移行していった。03年に「マレビトの会」を結成して以降は、非論理・非日常的な世界の構築へと大きく変貌をとげている。
『王女A』も詩のように断片的なテクストを用いており、台詞も登場人物に対して明確に割りふられていない。失踪した王女Aを探す侍女たち、亡霊となった王国の兵士たち。彼らの妄想のような言葉の数々が人物の境界線をあいまいにしながら叙事詩的世界を形作っていく。この作品の女たちは来る日も来る日も機を織りながら夫オデュッセウスを待つペネロペイアを彷彿とさせる。だが、松田の描く女たちはホメロスの叙事詩のように男の都合に唯々諾々と従う女たちではない。『王女A』は待つ女こそが世界の命運を握る反転された『オデュッセイア』である。豊饒な言葉の海から、リアルが浮かびあがってくる。
◎ あらすじ
かつてのある王国。王女Aは王女への即位を拒み消息を絶った。王女Aを探す長い旅に出た侍女たち。1年ぶりの再会を果たした夜、彼女たちは壁の貯蔵庫から布の断片を持ってきては花嫁衣裳を縫い合わせる。この世のすべての花嫁を焼きつくすために。やがて亡霊となった王国の兵士たちが海を越えてやって来る。侍女たちは彼らの無念を慰めるべく舞踏会を催す・・・。
「プルーラル・シアター・プロジェクト」は、静岡県舞台芸術センターが、岡山に本拠をおくNPO法人アートファームとの共同製作により、平成19年度から3ヵ年にわたり1年に1本の演劇作品を創作し、両都市で連続上演するという計画。初年度の今年は、松田正隆が自身の戯曲『王女A』を、岡山で活動する演劇ユニット水蜜塔のメンバーとともに創り、静岡と岡山(08年1月)で上演する。