僕はハムレットだった。
浜辺に立ち、
寄せては砕ける波とおしゃべりしていた。
背後には、廃墟のヨーロッパ。
『ハムレットマシーン』は、ブレヒトの最大の後継者と評された、旧東ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの代表作である。
シェイクスピアの『ハムレット』をベースとした、わずか数ページの謎めいた詩的テクストだが、世界の演劇人たちが、このテクストの演出に挑戦してきた。
その内容は、抑圧的な共産主義体制の下で、特権的な地位を与えられた知識人の良心の葛藤を、復讐を遂げようにも遂げられぬハムレットの苦悩に重ねたもの。
今回は、静岡県内の精鋭である子供たちと大人たちを出演者として迎え、ハムレットが象徴する「若者の苦悩」を包囲し、蹴っ飛ばし、笑い飛ばすことを目指す。まるで、理想も現実もお構いなしに作動し続ける、マシーンのように!
ハイナー・ミュラー(1929〜1995)
劇作家。東ドイツでギリシア悲劇やシェイクスピアにもとづいた作品を発表。本国では長く上演禁止となっていたが、世界各地の演劇祭で彼の作品が連続上演されるなど、20世紀最大の劇作家の一人と評される。ベルトルト・ブレヒトの創立したベルリナー・アンサンブルの芸術監督のひとり。
大岡淳 [おおおか・じゅん]
演出家、批評家、パフォーマー。
1970年兵庫県生まれ。演劇ユニット「商品劇場」主宰、ミュージカルユニット「チューインガム過激弾」監督、日本演出者協会国際部部長を経て、2006年よりSPAC文芸部に所属。また現在、パフォーマー集団「普通劇場」代表、袋井市・月見の里学遊館ワークショップ・ディレクターも務める。ブレヒトの思想と方法に立脚した演出をモットーとする。桐朋学園芸術短期大学、静岡文化芸術大学、河合塾コスモコース非常勤講師。