消された官僚を追いかける消えた俳優
世界の矛盾が凝縮された中東レバノン発
俳優のいない(?)ノンフィクション一人芝居
1996年、レバノン財務省の官僚が大金をトランクに詰めて行方をくらませた。人は、金はどこに行ったのか? レバノンの気鋭アーティスト、ラビァ・ムルエが果敢に真実に挑む! ・・・のだが、舞台には誰も見あたらない。舞台上のスクリーンに次々と映し出される新聞記事にツッコミを入れていくラビァ。いつしかスクリーンはラビァのメモで埋め尽くされていくが、犯人の行方も俳優の行方もさっぱり見えてこない・・・。 政治とメディアが作り出す現代の迷宮に鋭く切り込む、ラビァ・ムルエの傑作パフォーマンス。
劇評
『不思議の国のアリス』を思わせる幻想的な物語【ルビ:サーガ】が、消えた男を追う新聞記事から立ち上がってくる。嘘と真実の紙一重を執拗につつきまわしてレバノンの汚職にまみれた政界とメディアとを告発する、とってもシュールな90分。――『ザ・ガーディアン』紙
ラビァ・ムルエ
俳優、演出家、劇作家。1967年ベイルート(レバノン)生まれ。
レバノン大学で演劇学を専攻し、90年より劇作家、演出家、映像作家として活動を開始。以後、ラビァの作品はヨーロッパやアジア各地の主要な芸術祭や劇場、美術館で盛んに発表され、世界のアートシーンに常に大きなインパクトを与えている。
内戦を経てなお揺れ動くレバノン社会の傷と矛盾を執拗に見つめ、検閲すれすれの挑発を絶妙のユーモアにくるんで、見たこともないようなパフォーマンスに仕立て上げる。たえずテクストとそれ以外の要素との新たな関係を探し求め、今日における演劇の可能性を問いつづけている。
舞台作品に『三枚のポスター』、『人生は短い、だが一日は長すぎる』『たばこをやめさせて!』他。日本でも東京国際芸術祭の招きで『ビオハラフィア』(04)、『これがぜんぶエイプリルフールだったなら、とナンシーは』(07)を上演して好評を博した。またショートフィルムも数多く発表している。『TDR(ザ・ドラマ・レビュー)』誌編集委員。