じゃじゃ馬ならし
作:シェイクスピア
出演:トネールフループ・アムステルダム
静岡芸術劇場
上演時間:120分
大学生・専門学校生2,000円
◇おとな向け◇ 刺激の強い表現がありますので若年者の観劇はおすすめしません。
いまヨーロッパを席捲するじゃじゃ馬の群れ、上陸。
切れ味鋭い演出と名優たちの超パワフルな演技で、シェイクスピアのいわくつきの名作が現代のアムステルダムにスタイリッシュによみがえる。
オランダ演劇シーンをリードする演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェ、初来日作品。
オランダ最大のレパートリーシアター、トネールフループ・アムステルダムを率いるのは、ベルギー人の演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェ。オランダ演劇を変えた男ホーヴェは、ヤン・ファーブルやローザスの本拠地、アントワープで活躍したのち、同じオランダ語圏のアムステルダムに拠点を移した。
自由と享楽の街、アムステルダム。つねに現在にしか興味がないかのように見えたこの街の観客たちが、ホーヴェに出会ってシェイクスピアやテネシー・ウィリアムズの面白さに気づいた。
オランダ語圏のアーティストたちの特徴は、自由で型破りな発想にある。ホーヴェはアムスを選ぶことで、退屈な前衛とは手を切った。ホーヴェの「じゃじゃ馬」には、「いま」の体がどくどくと息づいている!
■あらすじ
パドヴァの大商人バプティスタには二人の娘がいた。おしとやかで美しい妹のビアンカは常に求婚者に取り巻かれているのに、自分の意志を妨げるものすべてに強烈な反抗を示す姉の「じゃじゃ馬」カタリーナは、父親の頭痛の種だった。バプティスタは求婚者たちに「姉が結婚しない内は妹を嫁がせない」と宣言するが、そこに「持参金さえくれればカタリーナと結婚しよう」という若者ペトルーキオが現れる。彼はカタリーナの意志を無視して強引に結婚を決め、彼女を「調教」しはじめる・・・。
■演出家の言葉
「『じゃじゃ馬ならし』は単なる恋愛悲劇ではなくて、社会に対する率直な批判を含んだ作品だ。この話の舞台となるパドヴァは、現在のことしか眼中にない、何もかもが経済の論理に従って動いている都市だ。この町を支配している厳格なモラルは、経済的利益を守るためのものでしかない。一方民衆の中ではアナーキーを、そして今のとは全くちがった、本物の生き方を求める欲望が、煮えたぎっている。自由と文明のマスクの下には、目的があらゆる手段を正当化する無情な社会がある。ペトルーキオとカタリーナの物語は、本当に調和の取れた社会をつくるには、誰もが自分とまわりの人々を尊重するようにならなければならない、ということを教えてくれる。」(イヴォ・ヴァン・ホーヴェ)
■トネールフループ・アムステルダム
オランダ最大の劇団。アムステルダム市の象徴の一つでもある市立劇場スタッツスハウブルフ(2006年歌舞伎座オランダ公演の会場にもなった)を本拠地とする。1987年に設立され、古典を型破りな形式で見せることで知られてきた。年間平均5本の新作を発表し、公演数は300回近く、延べ観客数は90,000人にのぼるという。
■コラム
「調教」の面白さ 林あまり
『じゃじゃ馬ならし』というタイトルはとても有名。でもストーリーはどうだろう。お転婆なお嬢さんがステキな紳士に教育されて、レディに変身する物語だと勘違いされていることが多いのでは?
ところが実際のストーリーは決してそうではない。ヒロインは、お転婆なんてものではなく、筋金入りの「いじめっ子」タイプだ。おとなしい妹を殴ったり、縛りあげたり、常軌を逸した乱暴ぶり。これではいくら美しくても、嫁のもらい手などない。
そこに現れたひとりの男、持参金めあてに彼女に求婚する。ふたりの出会いのシーンは見ものだ。男はいけしゃあしゃあと愛を語り、女はそんな男をののしり続ける。お互いの言葉は、ダジャレのてんこ盛りである。やれ熊ん蜂の針はどこにあるかお知りでないだの、やれ針はお尻にあるだの(福田恒存訳)。実にくだらない、しかし丁丁発止のダジャレ合戦。ふたりはここでお互いに(ムム、おぬしやるな)と認め合う。女は初めて、男というものを“自分の相手”として意識したに違いない。すでに恋は始まっている。
男がまんまと押し切って結婚の運びとなり、女への「調教」が始まる。ろくに食事も与えず眠らせず、徹底的に服従させる。これを「男尊女卑」と見るのは的外れ。強い者をもっと強い者が負かしてしまう面白さなのだから。考えてみれば、人と人との関係そのものが、影響を与え合うと言えばキレイだけれど、ある意味では「調教」し合っている、とも言えるのではないか。どちらが主導権を握るのか、無意識にであれ私たちは日々闘っている。
今回登場するオランダの劇団トネールフループの公演は、きわめて現代的な演出だ。途中、「これって・・・・・・DV?」とびっくりする暴力的なシーンも。男女のシリアスな面も描き、性愛の意味にも迫る。喜劇の枠に収まらない意欲作だ。
こういった新演出に出会うたび、シェイクスピア作品の力、生命の長さを再認識する。
林あまり(はやし・あまり)
歌人。1963年、東京生まれ。成蹊大学文学部日本文学科卒。高校時代より短歌を作り始め、大学時代にマガジンハウスの詩の雑誌「鳩よ!」でデビュー。86年、第一歌集『MARS(マース)☆ANGEL(エンジェル)』(沖積舎)出版。劇評も手がけ、「テアトロ」誌等で執筆。作詞に、坂本冬美「夜桜お七」「さよなら小町」他。著書に、歌集『ベッドサイド』(新潮文庫)、『スプーン』(文藝春秋)他。現在、成蹊大・多摩美術大・武蔵野大非常勤講師。趣味はプロレス観戦とベランダ園芸。
協力 | オランダ王国大使館 |
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後援 | ベルギー大使館 |
ベルギー・フランダース政府観光局 | |
ベルギーフランドル交流センター |
イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
演出家。
1958年、ベルギー生まれ。81年からベルギーとオランダで数々の劇団を率いたのち、2001年にトネールフループ・アムステルダムの芸術監督に就任。演出作品はすでに50以上。シェイクスピア、モリエール、イプセンなどの古典からテネシー・ウィリアムズ、ピンター、コルテスといった20世紀の劇作家、さらにはベルイマン、アントニオーニ、カサベテスといった映画作家まで、非常に幅広いレパートリーを持つ。活動範囲も広く、オフ・ブロードウェイ(アメリカ)で二度オビー賞(最優秀演出賞)に輝き、エジンバラ演劇祭(イギリス)ではエンジェル賞を受賞。昨年はアヴィニヨン演劇祭(フランス)公式プログラムとして、6時間の大作『ローマ悲劇集』(シェイクスピア「コリオレーナス」、「ジュリアス・シーザー」、「アントニーとクレオパトラ」)を巨大なテレビ局のセットのなかで上演し、話題を集めた。
98年から04年には舞台芸術祭オランダ・フェスティバルのディレクターとしてピナ・バウシュ、ピーター・セラーズ、マルターラーなどを招き、オランダの舞台芸術活性化に大きな役割を果たした。オペラの演出も数多く、現在、初の映画作品も制作中。
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
劇作家。
エリザベス朝演劇の興隆に伴い次々と劇場が建設される中、彗星のごとくあらわれたウィル。この役者上がりの劇作家は、民衆演劇の伝統を踏まえながらも新たな形式を積極的に取り入れ、奔放な想像力で新たな時代を生きる人間の苦悩と希望を描いて、瞬く間にロンドンっ子たちを魅了していった。グローブ座共同株主になって経済的にも成功、ジェイムズ一世の時代には国王の庇護を約束された。以後、『ハムレット』(昨年、SPACが秋のシーズンで上演)、『リア王』、『夏の夜の夢』など彼が書いた40本弱の戯曲群は西洋演劇の古典として確立していき、現在では世界中で最も頻繁に上演される劇作家となっている。