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セキュリティー・オブ・ロンドン

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演出:アントニー・シュラブサル
作・出演:ゼナ・エドワーズ
6月12日(土) 16時開演、13日(日) 13時開演
舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
上演時間:65分 英語上演・日本語字幕
※背もたれのない客席になります。

ゼナ・エドワーズによるワークショップ開催決定!! 参加費無料
『パフォーマンスにおける境界とは?』
6月12(土)10時〜12時 舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」

作品について

大都会ロンドンの真実をえぐるパフォーマンス・ポエトリーの傑作!
歌声にのせてつづられる人種を越えたヒューマンドラマ!

ロンドンのパフォーマンス詩人の新星ゼナ・エドワーズ。ヒップホップやアフリカ音楽まで織り交ぜた、ハイブリッドでエキサイティングなワン・ウーマン・ショー。大都会ロンドンの路地裏に生きる4人の登場人物を笑いと涙でつづる『セキュリティー・オブ・ロンドン〜監視カメラの王国〜』はゼナの才知が存分に発揮された作品です。しかもこのパフォーマンス、監視カメラの目線で展開します!……!?
ロンドンといえば繁華街や住宅街に監視カメラが設置され、四六時中、監視員があらゆる視点から「目」を見張っているという、まさに監視カメラの王国。路地裏まで注視するこの「目」が見届けるのは、あらゆる差別を超越する衝撃の瞬間です。いつしか観客の「目」も監視カメラと重なって…

あらすじ

大都会ロンドンの路地裏に住む4人の出会いの物語。パレスチナ出身の47歳マフムードは、ロンドン生まれでアフリカ系カリブ人の16歳の少女アイリーンに出会う。アイリーンの双子の兄であるエリジャーは、第二次世界大戦の帰還兵で82歳のアルガーノンと出会う。そして世代や人種、文化の違いを超えた交流が芽生えていく・・・。
アフリカの語り部グリオのように、ゼナは歌と詩とを織りまぜながら物語を語り、ときには観客に、登場人物の選択について決断を迫る。監視カメラの目を通じて、不思議な物語が浮かび上がってくる。

コラム
ある日の出来事
安積朋子

ゼナ・エドワーズの舞台『セキュリティー・オブ・ロンドン』のクリップで彼女の演じるいくつかの人格を観た時、わたしは1月のある朝を思い出した。30年ぶりという大雪の翌朝、スケートリンクのように凍っていた車道で転んで立ち上がれなくなっていた老人を、通りがかりの人たちと一緒に助け、救急車を呼んだことを。
老人は黒人でカリブ諸島出身のようだった。ゆったりした陽気な口調で「視界が暗い」と訴えた。最初に手を貸した白人のパートナーとわたしは、大柄な彼を支えきれず右往左往していた。近くのトラックから降り、老人の腕の下に肩を入れて舗道まで運んだのは中東系の若者だった。老人を舗道に横たえ、氷の上に座って老人の頭をそっと自分のふとももに載せた。その手際の良さから、戦闘の訓練を受けた人かもしれないと思った。インド人らしき女性が自分のミトンを老人の手にかぶせ、黒人の若者が毛布を掛けるのを手伝った。10分ほどで救急車が着くと、見ず知らずの5、6人は氷の上に座っていた若者の労をねぎらい「Have a good day」と声をかけてその場を離れた。
世界のあちこちから来て、それぞれの理由でロンドンの下町に住む人たち。信じるものが違い、食べ物や服装、買い物をする店も違う。その違いは摩擦を起こし諍いを生み、歴史をひもとくまでもなく多くの戦いの種になっている。それは、どんな社会でも起こっているいざこざの拡大された姿でもある。けれど、普段は感じている自分の周りの「くくり」を何かのきっかけで離れ、ひとりひとりの声を身近に聞くチャンスに出会えば、あの朝のように暖かい気持ちでお互いの隣に立てるのではないか。
ゼナ・エドワーズは、普通なら見落としてしまうような路上の小さな声を拾いあげ、彼女独特のリズムで再構築して演じる。それはステレオタイプを遠く離れ、わたしたち誰もが持っている弱さや優しさを、ユーモアに乗せてそっと運んでくれる。

安積朋子(あずみ・ともこ)

1966年広島生まれ。家具、プロダクト、展示会デザインを手がけるTNA Design Stu-dioを主宰するデザイナー。
92年渡英。95年、英国王立芸術大学院(Royal College of Art)家具科卒業。在学中93年に舞台デザイナーとしてダンスカンパニー「Vital Theatre」に加わり、エジンバラ演劇祭にて一週間の公演を行う。

←左のアイコンをクリックすると、SPAC発行のパンフレット「劇場文化」掲載のエッセイをお読みいただけます。

何も奪わず全てを奪う監視
――『セキュリティー・オブ・ロンドン』観劇の前提として
大澤真幸

「リズムの翻訳」
佐藤雄一

後援 ブリティッシュ・カウンシル

アントニー・シュラブサル

演出家。
ドレイトン・コート・シアター(ロンドン)の芸術監督を務めたのち、現在はフリー。主な演出作品に『かもめ』、『検察官』、『料理昇降機』、『ショッピング・アンド・ファッキング』、『ロッカバイ』、『出口なし』、『マラー/サド』、『ブラスティッド』など。またベケット、ピンター、メイエルホリドなどに関する著作もある。英国王立芸術協会特別会員、元ノーサンプトン大学演劇科上級講師。
昨年は『セキュリティー』のテクストやDVDが出版された他、インド古典舞踊の踊り手であり、コンテンポラリーダンスの振付家でもあるアッシュ・マクハジーとの共同制作企画『シェイクスピア、ボリウッドに行く』も手がけた。2010-2011年度には、イタリア系アメリカ人の歌手マリオ・ランツァの生涯についてのワンマンショーも予定されている。

ゼナ・エドワーズ

詩人、歌手、パフォーマー
13歳から歌手・ミュージシャンとしてパフォーマンスをはじめ、ミドルセックス大学卒業後は詩人・舞台監督として活動。1998年にパフォーマンス・ポエトリーをはじめ、2002年からプロのパフォーマンス詩人として詩作ワークショップの指導などもはじめる。ゼナの活動はロンドン北部トッテナムで注目を集め、2007年にアーツ・ファウンデーション・アワードをパフォーマンス・ポエトリー部門で受賞。「新世代」を代表する詩人の一人とされ、ヨーロッパやアフリカ各国に活動の幅を広げている。
パフォーマンスではカリンバやコラなどアフリカ伝統楽器の生演奏からサンプリングされた電子音源まで多彩な音楽が甘美な歌声と融合し、ゼナが編み出す言葉の世界に観客を誘っていく。
近年の活動は非常に多岐にわたっている。ロイヤルフェスティバルホールでの公演、ロンドンジャズフェスティバルや、オランダ国際文芸祭、グラストンベリーなど国際フェスティバルへの出演、コヴェントガーデンにある「ザ・ポエトリー・カフェ」所属アーティストとしての活躍、BBCラジオ番組のプロデュース・出演やショートフィルムの製作、国内外でのワークショップ講師、また音楽CD“FUTURE SOUNDS OF JAZZ”シリーズには歌手、作詞家として参加している。