創作・技術部には、「音響班」「照明班」があります。今回座談会形式で、音響と照明の仕事についてインタビューしました。
—今年で何年目ですか?また担当しているお仕事を教えてください。
小早川:13年目で照明を担当しています。
花輪:8年目で照明を担当しています。
澤田:9年目で音響を担当しています。
竹島:6年目で音響を担当しています。
—演劇との出会い、SPACに入るまでの経歴、SPACに入った理由を教えてください。
小早川:小さい頃から演劇を見る機会はあったんですが、あまり興味はなくて、画を書くのが好きで、将来はイラストレーターか漫画家になりたいと思っていました。大学生の時に、照明をあてて影をつくりだして、それを写真におさめて、提出するという課題が出されて、どうやって明かりをあてるか、とか考えるのが楽しくて、その課題が今の仕事につく、きっかけになりました。大学の演劇部にも入って、演じる側も体験したんですが、照明が一番で、出身は広島なんですが、大学卒業後は、広島でそれなりに大きい照明会社に就職して、いろいろな照明の仕事をやっていました。結婚式の照明とか、演劇仲間の舞台照明をやる機会もあったりして、で舞台照明家協会の賞をもらったことで調子に乗ったこともあり、演劇の照明がやっぱりやってみたくなって、そんなときにSPACの求人をみつけて応募しました。
澤田:私は高校を出てすぐ就職しました。旅館の仲居です。半年ほどで辞めてしまい、その後転職を繰り返しました。中々続けられそうな職が見つからず焦りはかなりありましたが、転職の度にいろんな人と出会うことができ、その人達と話をしてみると、「いろんな言い訳をして諦めていた、自分が本当にやりたかった事ってもしかしたら案外無理じゃないかもしれない」と思えるようになりました。
それが「音楽にかかわる仕事についてみたい」というものだったんですよね。10代の頃はロックバンドが好きでよくライブに行っていました。まずは知識をつけるべきだと思っていたので音響の専門学校に行こうと考えていましたが、たまたま見かけたSPACの募集が「年齢・学歴・経験不問」だったのでSPAC自体に興味を持ちました。それが演劇に出会ったきっかけになるんですが、本来はなんか逆な感じがしますよね。
映画やテレビで見るお芝居とは違う「生もの」の芝居には、音楽のライブに似たものがあり底知れない魅力を感じました。これほどわくわくしながら求人に応募したのは初めてです(笑)
小早川さんは未経験で照明会社に入られたとき、資格とかどうされたんですか。
小早川:広島の照明会社に就職して、働きながら一生懸命勉強してました。照明って電気の計算が必要なんですけど、もともと数学が苦手だったので、結構大変でした。
—音響班の澤田さんはSPACに入られたとき、どうされたんですか?
澤田:SPACで音響の仕事をする上で特に資格は必要ないのですが、予備知識としてネットや本でかなり勉強しました。
花輪:私は演劇部に入りたくて、高校から演劇部に入りました。始めは役者側もやってみたんですが、自分は裏方だなと思って、裏方に回りました。裏方の中で何をやるかは好きなだけ選べて、照明を選びました。
その後、専門学校でなく、大学に進学してほしいとの両親の希望もあり、照明を学べる大学に進みました。卒業後、地元・静岡に戻りたい気持ちがあり、静岡で就職先を探したときに、SPACが見つかりました。
竹島:高校生のとき、アーティストのライブに行きたいけど、学生だったこともあり、金銭的に行けないことと、放送部でしゃべるより機械をいじるのが楽しいかったことから、将来コンサートとかの音響につきたいなぁって思いました。選んだ専門学校でライブの音響を学んでいたんですけど、俳優さんが好きになって、舞台にのめりこんでしまい、専門学校の部活で演劇があって、そこでいろいろ経験をしているうちに、演劇の音響さんも楽しいなと思うようになりました。就職するときに、地元、静岡で演劇が出来るところに入りたいなって考えた時に、SPACの求人がでていたので、SPACに入りました。
澤田:ミュージカル好きって言っていたのは専門学校から?
竹島:はい。専門学校で、ミュージカルを無料で招待してくれる機会があって、そこですごく楽しくて、はまってしまいました。
澤田:一緒に仕事していて、機械とかすごい一途に好きなんだなって感じて、尊敬するんだよね。私は機械が弱いから、何の知識もないところから勉強するのは大変だった!
機械が好きなのは放送部に入っていた時から?前から?
竹島:放送部に入った時からですね。
小早川:演劇の音響を実務の仕事としてはじめてやったのが、SPACですか?
竹島・澤田:はい。そうですね。
竹島:専門学校時代に、フェスのスタッフの手伝いで、入ったことはあるんですけど、本当に自分がやるっていうのは、SPACがはじめてです。
—各班では、どのような仕事をしていますか?
澤田:公演へ向けてまずプランニングをします。これは、どのシーンにどんな音をどうやって鳴らすかを考えます。例えば川辺のシーンがあったとして、「川の音が頭上から聞こえるのはおかしいから、下にもスピーカーを置きましょう」みたいな事です。
プランを基にスピーカーやマイクを仕込むのも自分達でやります。
また仕込む時の大事な作業としてシステムチューニングがあります。お客さんに最適な状態で音を聴いてもらえるように様々な調整をします。耳が痛くなるような甲高い音が余分にあれば削ったり、重低音で迫力を出したい時は低い音をの部分を増やしたりする作業もそのうちの一つです。
こうして仕上げたシステムを使って私達はオペレートをします。
具体的には芝居の進行や俳優さんの動きに合わせて音楽や効果音を流したり、マイクで拾ったセリフや楽器演奏の音量バランスを、リアルタイムに調整をしています。
稽古をたくさんして本番に臨んでいます。
作品を抱えていない時は設備や機材のメンテナンスをしています。
小早川:照明の大きな仕事の区分けとしては、照明デザイン、オペレート、作品に関わるピンスポットだったり本番に関わるもの、など。作品ごとによってもちがいます。作品についたら、デザイナーが外部からくる場合もあるし、自分がやるパターンもあるし、デザインとオペを両方やることもあります。
花輪:他には機材のメンテナンスをしたり。
小早川:それをみんなでやってます。
花輪:『伊豆の踊子』だと、デザインは外部の方で、オペは私で、ピンは2本でふたり。これがSPACのフルメンバーです。
小早川:海外だと分類化されていて、オペをする人はオペって決まっているけど、SPACだとやれることはやるって感じですね。
花輪:当時は「わたし、いけるの!?」って感じにはなりました。ですが、結果として責任は伴うけれど、任される達成感はあります。
小早川:やりがいはありますね。
澤田:乗り越えるのは大変ですよね。私も重圧感じるし、プレッシャーはある程度感じています。
—プレッシャーを乗り越えるコツやおまじないはあったりするんですか?
小早川:なるべく楽しむ気持ちを。客席の一番後ろにいて、雰囲気を楽しめて、毎回お客さんが違って雰囲気がちがうから、それを楽しみながらオペをするようにしています。気づくと、笑っているときがある(笑)
花輪:お気に入りの香水つけてるとか言おうと思ったんですけど、精神論でしたね(笑)
澤田:あとは、食べる ですかね。ここ一番大変なときは、自分が食べたいものを食べるようにしてます。
小早川:はだし、でやるようにしてます
澤田:わたしも(笑)靴は脱いで、靴下は、はいていますけど。
竹島:時計とかも外したりしていますね。
—音響班、照明班の大変なところを教えて下さい。
花輪:人数がほしいなとは思います。年間スケジュールが出て、私と小早川さんがメインで作品につくんですが、たとえば、Aに小早川さんがついたら、同時期に稽古が始まるBには私。その後すぐの作品には、小早川さんで…みたいに、交互につくスケジュールになっていて、もう少し自由度がほしいかなと。
小早川:今、照明班が3人。音響班も3人だね。少ない人数で、年間スケジュールを照らし合わせた時に、どうしてもそこで担当が決まってきてしまう。仕込みとか一斉にするときもあれば、作品が同時に動いて、稽古とか合間に入って…忙しくても作品担当になれる喜びはあるんですけど、重圧もあり(笑)照明班同士で協力しながら、自分の仕事にかかっていますね。
僕はデザインがしたくて、SPACに来たんですね。一般的に照明の業界で、オペレーターになるまでも、何年もかかったりするのが、SPACだと、いきなり入ってすぐ、やらないといけない。そこが大変なところであり、良いところだと思います。
澤田:竹島が入って来て、何が大変だったか、覚えてる??
竹島:専門学校では音楽の方しか学んでなかったので、演劇のことはほぼゼロに近い状態で、1年目の8月にシアタースクールについて、何もわからず、オペをやらないといけなかったのが大変でした。楽しかったけど、どうしたらいいんだろうって思いました。また、卓の仕組みがちょっとずつ違っていて、使い方が違って、戸惑いましたね。
澤田:演劇は観たことない状態で、SPAC?
竹島:2.5次元ミュージカルには、行っていたんですけど。普通のお芝居はあまり見たことがなかったです。
澤田:私にとって、大変だったことは、音は目に見えないので「イメージを共有する」のが、大変でしたね。
小早川:人数が少ない中でやっていく大変さがあって、照明も音響も表現するためには機材が必要で、灯体を制御するための卓があって、それがデジタルなものも使うので、それがどんどん変わってきて、それに対応していく、追いついていく大変さがあります。
花輪:音響は結構共通かなと思うんですが、照明はメーカーごとにバラバラで大変。
小早川:照明のあたらしい機材がどんどんでてきて、やれることがひろがってくるんですけど、それをどんどんプログラミングしていくためには、その知識が必要で、オペレーターの負担が増えているとは感じます。
花輪:照明はLED化が進んでいるんですけど、音響ってどうなんですか。
澤田:やっと覚えたのに、また新しい知識を増やしていかないといけないっていうのは音響にもあります。大変ですけど、でも面白いですよね。
花輪:面白いです。
一同(笑)
小早川:演出家が具体的な指示をくれない場合もあるから、それを読み取る必要があって、その力も必要ですし、それを伝える難しさがあります。コミュニケーションをすることも必要で、何を欲しているか、自分がどうしたいって相手に伝えることが大事。
花輪:ほかの企業にも共通していますよね。
小早川:長くやっている分、演出家と長く接していると感じる部分もあるし、長くいるとお互いがどうしたいって考えているのがわかってくる。それが劇団らしいですね。それでスムーズに感じることがありますね。
—1日のスケジュールを教えてください。
澤田:稽古期間だと、11時に起きて、12時40分に劇場入りして、13時から18時まで稽古につき、18時から20時まで稽古場の話題をもとにプランを構成します。家に帰ってからも音源の編集をしたりする事があります。こだわりだすとついつい時間を忘れてそのまま朝なんて事も結構あります(笑)
小早川:音響って、長い期間、稽古に付き合わなきゃいけない。出来上がってないと決まんないですよね。
澤田:そうですね、作る時間より試すことに時間をかけているかもですね。
花輪:音響さんは稽古場でもPCで音が出せますけど、照明は劇場に入らないとわからないので、そういう意味では短期間ですべてを仕上げないといけないのかなと。
竹島:中国公演の時のスケジュールを例にすると、14時に劇場入り。野外劇場なので、機材の養生をはがして、卓周りの電源をいれて、チェックを入れて、ワイヤレスの準備。本番前の稽古に備えて、準備をしてから、休憩します。休憩は30分あればいいな、くらいですね。15時40分から15分間で、本番前の稽古のためにワイヤレスを役者のみなさんに渡していきます。30分間の演奏稽古の間に、一緒に音出し。そのあと、18時半まで休憩や練習をして、次は本番に備えてワイヤレス準備。18時45分からワイヤレスを役者の皆さんに渡していきます。19時15分開演。終演後、バラシて、梱包して積み込んで、23時くらいまでかかったかな。
花輪:『白狐伝』駿府城公演での稽古日スケジュール。照明は太陽があると見えなくて調整とかが出来ないので、基本は夕方からスタートですが、今回充電しなきゃいけない機材があったので、私は13時に駿府入りして、充電をスタート。全体稽古は14時からで、その時間に照明の外部スタッフに合流してもらい、充電した機材のセッティング。16時30分から照明の点灯チェックをして、18時から21時30分まで場当たり。その後、修正作業。場当たりと同時並行で修正していったので、怒涛でした。
小早川:僕からは、劇場に仕込む直前で、リハ室で通し稽古があった日を。たとえば、15時~16時まで通しがありますって場合は、そこに立ち会います。で、17時から18時までは、演出家との打合せ。次の日から、機材準備・仕込みだと、打ち合わせの後に、機材を何台使うか、色をなに使うか、仕込み図の作業をします。下手したら、家に帰って、深夜まで。
花輪:みなさん睡眠時間を削るんですけど、わたしは睡眠時間が削れない人なんですけど(笑)
小早川:結構、ぎりぎりに集中しないといけなくて、劇場仕込みの前は、タイトなスケジュールで、PCにデータ打ち込んだり…。
花輪:事前準備をしとかないといけないです。劇場入る前にできるところはできるだけやっておくことが大事。いくら準備しても小屋入り後は大変ですから
—1年間のスケジュールを教えて下さい。
小早川:4月は演劇祭準備。5月に演劇祭があって、6月はメンテナンス。最近は7月に海外ツアーが入って来て、8月はシアタースクールや県民月間。そこから秋シーズンの稽古が入ってきて。
担当があるから、担当ごとにちがってはきますね。作品が決まって自動的にパズルがきまっていきます。
—まとまったお休みはどうされてるんですか。
小早川:班内で相談して、個人的にある程度希望に沿ったものになっているかなと思います。必ずいなきゃいけないところ以外はフリーで調整できているかなと思います。外部の仕事も調整しやすいかなと。
全体で割と決まっていると判断しやすいので長期休暇はとれているほうかなと。僕は結婚して子供がいるんですけど、本番は休めないんですけど、土日休みたいですっていうのは、班内で相談して希望を通してもらっています。
澤田:だいたい照明と一緒ですね。10月と11月に長期休みが取れたので、SPAC以外の現場でお仕事をしました。勉強も兼ねて。あと今年は東京でやっているお芝居を観にいく機会が多かったです。
小早川:一般の音響照明会社よりは、休みの日数はとれていると思います。前社だと、突発な仕事が多いので、年間スケジュールが組めなかったですね。
—それぞれ今後挑戦していきたいことを教えてください。
澤田:今よりもっと面白い事ができるように知識や経験を増やしたいです。機材の扱い方や作業工程について、SPAC以外の現場ではどんな違いやノウハウがあるのか、時間を作って勉強していこうと思っています。
小早川:やりたいことがあって、SPACに入ったので、生活面の両立もできているので、維持していけたらなと思います。
花輪:プランを任されるようになったので、力不足は感じています。
竹島:音で観客をもっと感動させたいなと思います。
小早川:SPACでは、海外の人が感動してくれているのを目の当たりできるので、良いですね。海外の人が静岡にくることもあるし。げきともや一般公演で感じる喜びもありますけど、反応が違ってくるので。
澤田:スタンディングオベーションとか。
—スタンディングオベーションは中国公演でもあったんですか?
澤田:反応ありましたね。「フーっ!」といった声の反応とかも。
—創作・技術部に挑戦してみてほしい人はどのような人ですか?
小早川:トラブルを楽しめる人。本番をつつがなく終わらせるのが大前提なんですが、たとえば以前、公演日に照明がつかなくなったことがあったんですけど…。朝のチェックの時間帯に電気を送るシステムがブリッジ2つ分、計40台くらいのライトがつかなくなり重要なライトを15台くらい選んで他の正常なシステムから引き回し、その日は演出部も、役者さんもみんなが協力してくれたおかげで、なんとか本番を乗り越えることができました。一緒にそんなときも楽しんで乗り越えるのは大切ですね。
澤田:音響の仕事を始める為に必要なものは、音に関する専門的な知識より先に「わくわくする気持ち」と「チャレンジ精神」だと思います。この2つがあれば知識と技術は付いてきてくれます!
花輪:わたしはオペが好きですが、それ以外にも、照明でいろいろやってみたいと思っている人、照明のどの道をすすむか定まっていない人は、ここにきて、損じゃないと思います。
竹島:演劇や音響が好きな人が来てくれれば!
花輪:本番観れるしね。
一同:笑