演目担当クロストーク
高林利衣×入江恭平

制作部では、「横軸」と呼ばれる舞台作品の制作担当の仕事が大きな仕事の1つです。
今年度、『ギルガメシュ叙事詩』『人形の家』の担当である高林さん、入江さんから話を聞きました。

 

それぞれ今年で何年目ですか?
また、担当している仕事を教えてください。


 数えて私もびっくり、14年目でした!縦軸でいうと、会員・物販・総務・経理・採用事務。横軸(演目)は、今年は『ギルガメシュ叙事詩』から始まり、SPAC-ENFANTS-PLUS=スパカンファン-プラス『Reborn-灰から芽吹く-』、ふじのくに野外芸術フェスタin浜松『松菱跡地のさかさま姫』『人形の家』の担当です。

 僕は今年で4年目となります。縦軸は、営業・総務・採用事務・インターン・新人研修。横軸(演目)は、今年は『ギルガメシュ叙事詩』『弱法師』『人形の家』を担当しています。1つの演目を2、3人で担当していて、こうやって見ると今年は高林さんとご一緒することが多いですね。

演劇との出会い、SPACに入るまでの経歴、
SPACに入った理由を教えてください。


 私は地元が浜松市(静岡県)で、中学校3年生の時に浜松市主催の、舞台を創作する事業に参加して、そこで初めて演劇を創る楽しさを知りました。高校演劇部での活動も経て、演劇に関わる仕事をしたいなと思い始め、静岡文化芸術大学で学び、新卒でSPACに入りました。

 
 「演劇の仕事をやってみたい」と思ったきっかけは何ですか?

 大学の講義が本当に楽しくて、一番好きだったのは演劇評論家の扇田昭彦先生の講義。先生の講義ではじめてSPACの存在を知りました。あと、シェイクスピア研究の小林かおり先生の講義も大好きで、単位を取った後も、おふたりの講義に通い詰めていました。博物館学の先生に「専門性を高めなさい」と言われたのも印象的で、先生方との出会いを通じ、「自分はやっぱり演劇かな?」と思ったのが、きっかけと言えばきっかけなのかもしれません。
 大学時代は、演劇サークルと音響照明のサークルに所属し、毎年秋に浜松で行われる薪能公演の運営スタッフもしていました。また、暇なときは大学の図書館で戯曲の本を読んだり、演劇公演のDVDを視聴したり、四六時中、大学にいました。SPACに入りたいと思った理由は「何をやりたいか?」って考えた時に「やっぱり舞台を創作する側に行きたいな。舞台作品を作っている現場にいたいな。」と考えて。

 自分がクリエイションに参加できるというのは魅力ですよね。
 僕の演劇との出会いは22歳の時でした。今29歳なので7年前ですね。それまではずっと音楽業界に行きたいと思っていました。小さい頃から歌うことが好きで、ずっとバンドでボーカルをしてました。ただ、20歳の秋頃に、ふと将来の姿をイメージしたときに、どう考えても売れているイメージができなくて「そんな人生は嫌だ!」と思ってやめました。
 それで改めて「音楽を仕事にするためには何が必要か?」って考えたときに「そもそもどうやってお金にしていくかを考えることって、プロデューサーの視点だろう」と思い至り、「それなら教養や論理的思考力を身につけておいた方がいいだろう」と思って、そういったことを学べる大学を探してたら、青山学院大学に総合文化政策学部というところがあったので、一念発起して受験し、22才でそこに入学しました。入ってすぐ演劇を観る課題があって、それが初めての演劇鑑賞でした。
 すごい衝撃でしたね、鳥肌がたった。音楽のライブと一緒だ!って。演出家の鈴木忠志さんが言うような「動物性エネルギー」みたいなものが、ステージに立っている目の前の俳優から放たれていて、映画とは全く違うものなんだなって感動しました。
 その後、地元にあった彩の国さいたま芸術劇場でバイトしたり、アングラ感のある公演を片っ端から観に行ったり、利賀村に行ったり、勅使河原三郎さんのダンスを観たり、KARAS APPARATUSのワークショップに参加する中でだんだんと演劇・ダンスにハマっていきました。また、自分で演劇公演もプロデュースする中で、色々なご縁に恵まれて、虚構の劇団・ぽこぽこクラブで俳優・演出家として活躍する三上陽永さんと出会い、一緒にワークショップや公演をやるようになったことも、大きな契機となりました。就職活動のタイミングでお世話になっていた先生に「SPACに行ったら?」とご紹介いただき、採用試験を受けました。なぜ演劇だったのかというと「縁があった」ということですかね。

 

 

演目担当の仕事内容を教えてください。


 新作だと、参考書籍のデータ化といった台本作りの補助的な仕事からスタートします。、次に稽古開始に向けて、稽古場や出演者、スタッフの予定を管理したり、事前のスタッフミーティングの場を設けたりします。さらに、チケットの売り出しに向けて、広報や営業戦略を考え、チラシ作りがはじまって…と進んでいきます。
 私は、作品についての歴史や社会背景を自分なりに調べて、それを広報や営業に活かしていくのが好きです。それは演目担当ならではの仕事なのかなと思います。

 具体的な仕事内容をあげたらキリがないので一部になりますが、箇条書きで。
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スケジュール管理 / 内部・外部関係者との連絡・調整 / PR活動 / チケットの売り込み / 他公演への折込 / 関連企画の考案・運営 / 広報媒体への掲載情報の作成 / ブログ・SNS執筆 / 必要物品の手配 / 経費申請等の事務作業 / 公演当日の運営 / 字幕手配 / 記録映像手配 / オーディション運営 / ツアーの段取り…etc
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 一言で表すと、「プロジェクトマネジメント」という言葉を僕は使っています。経営学の一分野で、簡単に言うと「これに沿ってやっていけば、どんなプロジェクトもなんとかやれるよ」というものです。「公演を成功させる」というゴールに向かって、今回の成功とは何か、スケジュールや期限、予算、何が必要か、他にどんな制約があるのか…などを考えながら、公演という企画(プロジェクト)を運営(マネジメント)していきます。
 ただ、芸術作品に携わる仕事なので、経営の視点だけでなく、クリエイターの視点も必要だと思っています。

 

演目担当の1日のスケジュールを教えてください。


 
 いろんな日がありますね。

 作品によって期間も様々ですが、新作だと稽古開始から千穐楽まで2、3ヶ月あるので、公演初日の直前は帰りが遅くなることがありますよね。制作部のコアタイムは10:00〜18:00ですが、これは目安で、18時に終わる日もあれば23時に終わる日もあるというように、終業時間も日によって違いますね。24時を超えることはあまりないですが。

 ざっくり言うと、稽古が始まる前に来て配布物の印刷等の準備をして、稽古が終わったら、稽古の記録映像の共有、次の稽古予定の確認等をして、座組全員が帰ってから帰ります。1つの作品を2、3人で担当するので、担当間で調整して、終わりを待たずに、先に帰る日もありますが。
 稽古中は、稽古場で稽古映像を撮影しつつ、作品に関わる事務作業もしています。思いのほかデスクワークの時間が長いっていうのは意外なポイントかもしれないですね。

 確かにかつて自分がいた小劇場系の劇団と比べると、「SPACならではの仕事」というのが多い気がします。幅が広いですね。1つの作品の営業や広報にここまで力を入れて、なおかつ、それを外注せずに制作自ら営業や広報を行うというのは、スケジュールや人員的になかなか他の劇団や劇場ではできないことだと思います。
 これだけ長い時間クリエイションに携われて、幅広く色々な挑戦ができることはSPACの特色ですね。

 
 入江さんが感じた「“SPACならでは”の仕事」はどんな仕事ですか?

 言葉にすると少し地味ですけど、プレスリリース(プレス向けの文書)を作るとか。そもそも自分で劇団をやっていた時は取材すらなかったですし。あと、チラシの折り込みやPR活動の規模も大きいです。企業の福利厚生や視察で観劇してもらうために営業に行ったり、大学の授業でPRさせてもらったり、海外の方がよく利用されるところに行ったりする機会があるのはSPACならではだと思います。県立の組織だからこそ、やれることが多くありますね。
 また、客演アーティストやその所属事務所との対応もそうだし、SPACは宿舎を持っているので、その準備やアテンドをするのもSPACで働いているからこそ体験できることかなと。公演時のアナウンス文章をイチから作るのだってなかなかやらないことですよね。他にもいっぱいあるけど言い出したらキリがないです(笑)

 俳優だけではなく、制作者、スタッフも同じように芝居づくりに専念できるっていうのがSPACならではのいいところなんですね。

次に、演目担当の面白さ、やっていてよかったことを教えてください。


 やっぱり、お客様の笑顔。あと「スパカンファン-プラス」のような人材育成事業だと、参加者の皆さんに「参加して良かった!」って言ってもらえたときは、一番のやりがいにつながります。それと、色々な人に出会えるのはいいですね。

 演目担当の面白さは、作品だけではなく、プロジェクト自体を作っていくところにあるなと思っていて、そのプロジェクトの中で行われる「作品」はアーティストが創る。でも、制作は、企画の立ち上げの最初の方から、例えば公演が終わった後の映像製作まで関わる。この1つのプロジェクト自体をどう見せていくのか、どう動かしていくのか、どのような空気を作るのかっていうところに自分のアイデアを反映させられると思っています。

演目担当の大変なところを教えてください。


 締切がいっぱい重なってしまっている瞬間?同時に色々な仕事を担当しているので、目の前の担当演目の仕事をしながら、縦軸の物販や会員の仕事、その次の担当演目の仕事をしています。特に演劇祭が見えてくる冬は、年始が来て、年度末が来て、もうワーっと冬を乗り越えるみたいなイメージがあります(笑)

 例えば、僕は『ギルガメシュ叙事詩』の本番一週間前に、次の担当演目である『弱法師』のオーディションの広報をやっていました。大変だったけど嫌々やってるわけじゃなくて、クリエイションしたくてやっているという認識です。あの時はハイになってましたね(笑)プロジェクトが始まると、スケジュールが自分中心ではなく、プロジェクト中心になる。常に定時で帰れる仕事ではないですね。でも早く帰れるなら帰りたいとは思っています。

 SPACには「定時がない」ので、自分で作業時間を見定めて「この時間までに帰るぞ、今日は」と自己管理をすべく、私も頑張っています。やらないといけない作業はもちろん、やってみたい作業にかけたくなる時間って、限度がないので。

仕事をする上で大事にしていることを教えてください。


 「人と人が出会う場所を作り出し、支えていく」という意識は大事にしています。私自身、地元に育てられて今ここにいますし、静岡県内で生活していても、こうやって国内外の色々な人に出会えたことは、SPACをはじめとする静岡の文化行政のおかげだと思っています。若い世代が色々なアーティストに出会って、年配の方々が舞台に感動して、老若男女問わず、新しい人生の扉が開く場所。公演があるから、劇場で人に会える。色々な人に出会える場所、色々な人に出会える場所が劇場にあると思っています。そういう場所を作り出して、支えているという意識はこれからも大事にしていきたいです。
 SPACで働くために移住してくる方もいるし、毎年演劇祭のときは静岡に来てくれる県外の方もいます。コロナ禍になってから控えている方もいますけど、「なかなか静岡には行けないけれども、応援してます!」って言ってくれる方もいて、それだけでも本当に勇気になりましたし、そうした繋がりを今後も大事にしていきたいなと思っています。

 僕は、雇われて働いているのではなく、「1人のクリエイターとしてプロジェクトに携わっている」という意識をとても大事にしています。「こだわりを持つ」ということでしょうか。目の前にあるタスクが大変でも、「楽な道と大変な道、どっちをとるのか」ではなく、「このプロジェクトに必要かどうか」みたいな選択の仕方をしてます。これは尊敬するアーティストのGACKTさんの影響です(笑)。
 覚悟を持って静岡に移り住んで来たわけだし、それにもっと高いお給料もらえるところは他にもいっぱいあると思いますが、そんな中であえてSPACを選んだからには全力投球していきたいと思っています。


 

それぞれ今後どうしていきたいか、どうなっていきたいかを教えてください。


 個人的なことかもしれませんが、地元・浜松市に貢献していきたいなと考えています。2014年から始まった「SPAC×静岡文化芸術大学連携事業」を牽引されていた梅若猶彦先生が来年3月に退任されるため、今後の連携を模索しなきゃ!と思っているせいか、「いつか大学の卒業生が浜松に根付いて、文化行政を豊かにしたり、会社を立ち上げたりして、地域を活性化していくことが理想なんだよね」と、大学でお世話になった方が語っていたのを最近よく思い出します。
もともと静岡市と浜松市は地理的に遠いのですが、2014年からの活動で少しずつ低くなっていた壁が、コロナ禍でまた高くなってしまった、と感じているので、何か交流する場を作るとか、役に立っていきたいなと漠然と考えています。

 僕は、SPACにまだ3年半しかいないので、まずはプロデューサーとして一人前になれるよう、それまではここで修行したいと思っています。やはりSPACは、他の劇団と比べてではありますが設備も人員も潤沢なので、「日本で演劇をやるには一番良い環境」だと思っています。それで、SPACの次はどこかって考えたら、海外だと思っています。

 

 

制作部の良さを教えてください。


 いろんな人がいるところですね。年齢も背景も出身もバラバラの人が集まって1つのことをやるというのは不思議な感覚ですね。

 それに加えてパーソナリティーやワークライフバランスへの意識も様々ですし、「多様性のある組織を作っていこう!」という意識は感じます。
 僕個人としては、「こういうことに挑戦したい」っていう思いを持っている人に対してしっかり応えようとしてくれる土壌があるところですかね。
 ここは常に「どうしていこうか」というマインドがある組織なので、「こういうことに挑戦してみたい」とか「この組織には、このプロジェクトには、こういうことが必要なんじゃないか」と言うと、宮城さんをはじめ、多くの人が話を聞いて「面白いね」って言ってくれる環境です。それなりに大きい規模の組織ですが、そういう懐の深さはちゃんと生きていると思います。

 宮城さんと俳優、スタッフの距離が近いのは、SPACならではなのかなと思います。こんな距離感では、なかなか喋れないのではないでしょうか。

 制作部のほとんどのメンバーは個人事業主として活動しているので*、複業ができます。僕はSPACに来て1年半ぐらいは東京でも劇団の制作をやっていました。今もたまに大学の授業のゲストスピーカーやSPACの俳優さんと一緒に、外部で企画をやっています。
*こちらも合わせてお読みください:制作部スタッフ インタビュー/丹治陽

制作部に挑戦してみてほしい人はどのような人ですか?


 色々なことをやってみたい方ですかね。最終的には、様々な経験をしていく中で相性のいい仕事を割り当てられることが多いから、「これができないから」って決めつけなくてもよくて、色々な仕事があるからこそ、その中で自分の得意分野を突き詰めていける環境だと思っています。

 もちろん合う合わないと言うのはどこの職場でもあると思いますが、実際に働いてみないとそれは分からないと思うので、事前にこういった記事を読んだり、説明会に参加したり、SPACの作品を観て、「やってみたい!おもしろそう!」と思ったら、とりあえず挑戦してみてほしいですね。できるだけ「思っていたのとは違う!」とはならないように情報収集はしてほしいです。
 また、僕と高林さんは採用事務担当もやっているので、心配なことがあれば相談してくださいね。いつでもお待ちしております!

公開:2022年12月2日/インタビュー収録:10月
※高林の「高」ははしご高が正式表記