コラム『室内』

ベネディクト・ル・ラメール Bénédicte Le LAMER
2000年、ブルターニュ国立劇場付属演劇学校を修了。01年、クロード・レジ演出のコンサート『消えた男の日記』(ヤナーチェク作曲)でデビュー。その後レジ演出『死のヴァリエーション』(ヨン・フォッセ作、03年)、『目的のない男』(アルネ・リグレ作、07年)に出演。03年に自らの劇団を立ち上げ、演出家としても活動している。『室内』創作に先立って行われた俳優向けワークショップでは、長年レジ作品に関わってきた女優として、1ヶ月にわたって講師を務めた。

ベネディクト・ル・ラメール
 クロード・レジの作品は、多くの方にとってはふつうじゃない、見慣れないものだと思います。でも、本当の現実というのは、見慣れていないものなのかも知れません。いずれにしても私にとっては、世界が違って見えるくらいの経験でした。

 クロードの作品をはじめに観たときには、ほとんどショックでした。まだクロードの名前も知らないときでしたけど、パリで演劇専門の高校に通っていて、16歳くらいのとき、コメディ=フランセーズでクロード・レジ演出の『出口なし』(サルトル作)を観ました。本当に「何なの、これ!」という感じで、まずは拒否反応でした。それで高校を出てから、一度大学で文学を学んでいたんですが、論文を書いていたらふたたび演劇に興味を持つようになって、ブルターニュ国立劇場付属演劇学校のオーディションを受けました。そこでクロード・レジが教えている、と聞いてはいたのですが、そのときはまだ、観た作品と名前が結びついていませんでした。

 クロードとの出会いは驚くべきものでした。クロードの言葉を聞くと、私がずっと一人で探し求めていたものを、耳元でささやかれているかのように感じました。大学時代からメーテルリンクも読んでいましたが、そういった詩人たち、作家たちと私を、クロードが直接に結んでくれるように感じました。クロードの舞台は死の話ばかりなので、こういう話は妙かも知れませんが、私はクロードの舞台に出会ってはじめて、自分が生きている、と感じました。自分の心臓が脈打っているのを感じました。ちょっと啓示を受けたような経験でした。

 クロードの舞台はとてもゆっくりで、何もかもが速く進む今の世界では、かなり非日常的な経験をすることになります。詩や芸術というものは、自分のうちに裂け目を生み出すようなものなのではないかと思います。私たちはテレビのニュースで、血が流れるような強烈な暴力を見ることには慣れていますが、それでも言葉が生み出す暴力的な力にはなかなか耐えられません。私たちは日常生活のなかでは、まわりが見えないままに、何かを求めて日々進んでいきます。その何か、真理や現実といったものを、詩や舞台を通じて見つけることもあります。クロードと出会って15年になりますが、今でも発見の連続です。私がこれまで前を向いて生きていくことができたのも、そのおかげなのだと思います。

(構成:横山義志)