室内









<演出家プロフィール>
クロード・レジ Claude RÉGY
演出家。1923年生まれ。52年から演出活動をはじめ、特定の劇場や劇団に属することなく、独自の理念で、マルグリット・デュラス、ハロルド・ピンター、ヨン・フォッセなど、数多くの同時代作家の作品を上演する。81年以降、パリ国立高等演劇学校(コンセルヴァトワール)で教鞭を執り、また著書によっても若い演出家や俳優に影響を与えている。90年代以降では、ヨン・フォッセ作『だれか、来る』(99)やサラ・ケイン作『4.48サイコシス』(イザベル・ユペール主演、2002)が話題を集め、10年Shizuoka春の芸術祭での初来日公演では、フェルナンド・ペソア作『彼方へ 海の讃歌(オード)』が日本の観客にも熱烈に受け入れられた。
 

感性の臨界へといざなう闇と光・・・そして底知れぬ沈黙・・・。
90歳を迎える巨匠クロード・レジが
パリと静岡での3ヶ月に及ぶ稽古を経て打ち立てる新たな伝説。

2010年に楕円堂で上演された『彼方へ 海の讃歌(オード)』を観て、レジ作品の魅力にとりつかれた人も多いだろう。フランス国内でも彼はそうやって多くのアーティストに影響を与え、「もう演劇はレジ以外に見る必要はないのではないか」とまで言わせてきた。創作者にとって理想的な環境というここ舞台芸術公園で、レジは1985年のフランスでの上演以来念願の『室内』のリ・クリエーションを、日本の俳優たちと共に試みる。オーディションを経て選ばれた幸運な俳優たちと、飽くなき「実験」をやめないクロード・レジの真っ向勝負。静岡、パリでの凝縮した稽古を経た意欲作を、見逃すことはできない。

『室内』について
クロード・レジ  2013年3月

夜。窓の向こうに、家族の暮らしが見える。

平和な暮らしに見える。

だが、これらの生者たちを囲っている壁の向こうに、メーテルリンクがいう「闇の海」の内部に秘められているものを、わたしたちのうちに穿(うが)たれたひそかな空洞がなしている領域を見せなければならないのではないか。この空洞は、意識的な生も無意識の生をも超えているために、到達不可能なようにも見えるだろうが。

空洞の闇が光を放つ。そして、わたしたちが全力で覆い隠そうとしているものについて、口を開いてしまう。死である。

この家族の娘の一人が亡くなった。

平穏そのもので、一見幸せそうなこの家族。

葬列が、亡くなった若い娘を運ぶ担架が、あゆみを進めている。そして容赦なく家に近づいてくる。

そもそもこの家の家族の平穏も、家族の一人が、すぐそばで、まさにこの晩に亡くなるということの予感によって、知らず知らずのうちに乱されていたのではないだろうか。

その若い娘は、もしかすると、自ら死を望んだのかも知れない。娘は水による死を、溺死を選んだ。

家のなかでは小さな子が眠っていて、担架が到着しても目をさまさない。眠りと死との親近性があまりにも強いために。

この葬列の道行きは、わたしたちのうちを行く死の道行きでもある。

メーテルリンクは、空間上わたしたちに近いところで交わされる言葉を、より遠いところで展開する、全く言葉のないイメージと結び合わせた。こうして、生と死との共存を非常に見えやすいものにしている。二つの力は反発しあい、反発しあうことで一種の結合を、新たな力を作り出している。

盲目的な恐怖から遠く離れて、『室内』はこの生と死との本質的な共存を生み出し、それにイメージを与えている。

これがたぶんメーテルリンクの最大の力なのだろう。感性が知的認識を越えていく世界へと、わたしたちを誘ってくれるのである。


 公演情報

世界初演 演劇/フランス、日本

■公演日時
6/15(土) 16時開演
6/16(日) 17時30分開演
6/22(土)、6/23(日)16時30分開演

◎6月23日の終演後に、クロード・レジ(演出)と宮城聰によるアーティスト・トークを行います。

※本作品では演出の都合上、開演後のご入場をお断りさせていただきます。恐れ入りますが、予めご了承ください。

上演時間: 約100分
日本語上演

■会場
舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」

■チケット
一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金などがあります。詳しくはこちら
全日程で予定枚数を終了いたしました。今後はSPACチケットセンター(TEL.054-202-3399/10時〜18時)にてキャンセル待ちの受付をいたします。ご了承ください。

■劇場直行バス
渋谷発のバスを運行いたします。

 スタッフ/キャスト

演出:クロード・レジ
作:モーリス・メーテルリンク
訳:横山義志
出演:泉陽二、伊比井香織、大高浩一、貴島豪、下総源太朗、鈴木陽代、たきいみき、布施安寿香、松田弘子、弓井茉那、吉植荘一郎、関根響、朝羽恵(アンダースタディ)

舞台監督:内野彰子 
演出助手:アレクサンドル・バリー 
装置デザイン:サラディン・カティール 
装置製作:深沢襟 
照明デザイン:レミ・ゴドフロワ 
照明スタッフ:樋口正幸、神谷怜奈 
舞台:佐藤聖 
衣裳(ワードローブ):大岡舞 
通訳:通訳:浅井宏美、原真理子、山田ひろ美
制作:ベルトラン・クリル、米山淳一、コーリー・ターピン
製作:SPAC-静岡県舞台芸術センター、アトリエ・コンタンポラン
協賛: ANA 
助成: アンスティチュ・フランセ 
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本 

※「アトリエ・コンタンポラン」は、フランス文化・コミュニケーション省 芸術創造総局が助成する劇団です。

 みどころ

闇が闇と手をとって現れるならば・・・我々はどんな小さな光にも希望を見出せるのではないか・・・。
童話『青い鳥』のイメージとは裏腹に、19世紀末から20世紀にかけて、ヨーロッパ文壇の寵児だったメーテルリンクの初期の作品は、どれも深い闇と絶望に支配されている。1894年に発表された『室内』は、人々の間で生と死を隔てているはずの壁が溶解しゆっくりと両者が入り交じっていくさまを描いている。作家の描いた闇と、その中に蠢くものを見つけ、観るものの感性を拡張するべく演出家が現出させた闇。舞台上の家族を眺めているうちに、観客の目は昆虫を観察する科学者のようにひらかれ、繊細に多くのものを捉えていくはずだ。ほのかな光の中に浮かぶ俳優の一挙手一投足にこそ天佑がある。この闇の織りなすタペストリーは、メーテルリンクと同様に「世紀末」を生き、新たな時代を拓いていく術を模索している現代人にレジが呈する無形の財産となるだろう。
(大西彩香)