2013年2月6日(水) パリ
SPAC文芸部 横山義志
朝から字幕の調整。やってみないと分からなかったことがいろいろ。
13時からトレーニング、稽古。
初日の幕が開ける。今日は19時開演。『ロミオとジュリエット』のオマール・ポラスさん、『タカセの夢』のメルラン・ニヤカムさん、『令嬢ジュリー』舞台美術のローラン・P・ベルジェさん、昨年演劇祭で『旅』を上演してくれたイタリア・ポンテデーラ劇場の方など、SPACゆかりのアーティストが続々と駆けつけてくれる。今年の演劇祭で『室内』を作ってくれるクロード・レジさんは別の町でツアー中で、わざわざファックスで初日の成功を祈るメッセージを送ってくださった。昨日に続いてステファヌ・マルタン館長もいらしてくださった。「騎馬演劇」のバルタバスさんがいらしたのにはちょっと驚いた。そういった演劇関係者やジャーナリストも少なくないが、圧倒的多数は、チケットを買ってきてくれているふつうのお客さん。水曜日でもほぼ満席。
今日は昨日よりもノリがよく、じっと見ているだけでなく、所々笑いも起きて、ちょっと安心。終演後のレセプションで、批評家や演出家などが寄ってきて、口々に「これはすごかった、友達にも話しておく」とか、「家族を連れてもう一回見に来る」などと言ってくれる。
レセプションのあと、さらに劇場の技術スタッフが準備してくれた打ち上げ。お酒やおつまみだけでなく、劇場技術者らしく、わざわざ照明や往年のディスコ音楽まで仕込んでくれている。ニヤカムさんと踊り出す俳優たち。
「本当はミュージシャンなんだけど、家賃を稼ぐためにこうやって働いてるんだ」というスタッフが何人もいて、「あのアヤコ(寺内さん)のジャンベはグルーヴィーで最高だったよ、みんな俳優だなんて信じられない」なんておっしゃってくれた。
ケ・ブランリー美術館のスタッフたちは、前回の公演を知っている人が多いこともあるが、驚くくらいハートのある人たちだった。チーフのブリュノさんは、何かお願いすると必ず「じゃあ一杯おごれよ」とか、「これでボトル一本だな」とか、「そろそろジャック・ダニエルだな」とか、「ワイン一ケースだな」とか、毎日しつこいくらい言ってきて、面倒なやつだと思っていたら、この日は自分で大量のお酒を買ってきて振る舞ってくれたらしい。今日になってようやく分かってきたが、ブリュノは、作品を良くするための仕事であれば、どんなに面倒なことでも(冗談は言いつつも)すぐにやってくれるし、時にはこちらが頼んでいないことまで、気を利かせてやってくれたりする。
他のスタッフは、「ブリュノがクレイジーだから、ここにはクレイジーなスタッフしか集まらないんだ」などと言っていて、ブリュノは「ただ仕事だけするなんて、なんにも面白くないだろう?一緒に一つのものを分かち合えて、人間的なつきあいができるようなやつとしか、おれは仕事はしないんだ」などと語っていた。今日はしんどいから早めに帰ろうか、などと思っていたが、みんなが引き留めてくれたおかげで、いろいろ話せてよかった。ちょっと幸せな初日。