2013年2月21日(木) カーン
SPAC文芸部 横山義志
カーン公演二日目、ツアー最終公演。今日も午後入りで訓練、稽古。
昨日からの評判で150席くらい売れたそうで、18時くらいから早くもチケットを求める方々が。今日も満席。
この劇場では開演を知らせるラッパの代わりに汽笛が使われている。かなり強烈な音。芸術監督のジャン・ランベール=ヴィルドが骨董屋で見つけてきたという。
カーンのお客さんは、音楽にも笑いにも演技にも、繊細に反応してくださって、ありがたい。緊張感のある舞台。語り手役の阿部一徳さんがアドリブで「フランス千秋楽」と入れ、最後の場面では「北の王」役の大道無門優也さんがノルマンディー女性二人を連れて登場。終演すると、やはり多くのお客さんが立ち上がり、気がつくとチケット売り場の方まで客席のうしろで拍手を送ってくれている。本当に誰もが演劇を愛しているのがひしひしと伝わってくる劇場。
昨日一緒に舞台で働いていた技術スタッフが、わざわざ当日券を買って見に来てくれたのには驚いた。終演後、「こんなすごい舞台は何年ぶりだろう。自分も音楽をやってるんだけど、ここまで人を巻き込めるっていうのは脱帽だね」とおっしゃってくれた。他にも、技術スタッフが何人も友達や家族を連れて観に来てくれていた。
「もう一瞬も目が離せなかった。次はいつ来てくれるんだ?」と劇場に併設されている現代美術センターのディレクターさん。
ホテルから劇場まで送迎してくれているバスの運転手さんは同僚を4人も連れて見に来てくれて、「あの最後の太鼓、いや鳥肌が立ったよ。本当に見てよかった。このカンパニーなら一ヶ月毎日送迎してもいいね」などとおっしゃってくれた。
昨日美加理さん阿部さんと話していたカーン大学演劇科の学生たちのうち3人が今日も来てくれている。
バーにはまだお客さんが残っているが、劇場内では終演直後からバラシがはじまっている。
バラシのハイライト。錘をつけ、みんなで体重をかけながら綱を引いて300キロあるスチールデッキを上げて、脚をはずしていく。
イタリア出身の舞台班クラウディオさんは、急に綱のブレーキがはずれたときに綱をつかもうとして、摩擦で手に火傷を負ったことがあるという。危険と隣り合わせの職人技。
音響のジョエルさん(帽子の方)は71年からカーンの劇場で働いているという一番のベテラン。16歳で、演劇を見たこともなかったのに劇場の舞台スタッフとして働くことになり、演劇に魅せられて、舞台裏のあらゆる分野を経験してきた。「近頃フランスでも舞台スタッフの層が薄くなって、職人技を活かせる演出家もいなくなってきた。こだわりを活かしてくれる舞台を見るのが一番の楽しみなんだけどね」とのこと。
午前2時、バラシ終了。公演を支えてくれたスタッフたちと乾杯し、舞台監督のビルーにお花を贈呈してからホテルへ。