◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆
中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。パンフレット裏表紙のインタビューのロングバージョンを連動企画として、ブログに掲載します。
台本:久保田梓美(くぼた・あずみ)
神奈川県出身。雑誌編集者。手がけた台本は『ルル』(ク・ナウカ)、『マハーバーラタ』『黄金の馬車』(SPAC)など。
———どうして演劇の台本に関わろうと思ったのですか?
高校生の頃、放課後に芝居を観始めました。学校では出会えないような、すごいパワーをもった不思議な人たちの世界に憧れていました。話すことも面白いし、なんだか身のこなしが普通じゃない人たち。そんな中、宮城聰さん(現SPAC芸術総監督)の劇団ク・ナウカの公演でボランティアを募集していて、それに応募したのが始まりです。舞台裏の手伝いを経て、いつの間にか台本を任されるようになりました。最初は劇作家になりたいとか、ものを書きたいという気持ちよりも、この人たちの生み出す作品のすぐそばにいたいと思って続けていました。今でも私には、劇団の一員というよりも、一人のファンという気持ちがあります。
大学を卒業して就職する前後で中野真希さん(現SPAC所属)演出の『ルル』の台本を担当して、それから出版社で仕事をしているときに、『マハーバーラタ』の話が来ました。その時はもう、一も二もなく承諾しましたね。
———『マハーバーラタ』というと、今ではSPACの代表作の一つといえますが、自分が台本を担当した作品がそういう大きな扱いを受けるのは、どういう気持ちなのでしょう。
私がつくったといっても、実際は俳優と車座になって、みんなで考えたんですね。みんなで意見を出し合って、シーンをカットしたり復活させたり、言葉遣いを変えてみたり…。それは『舞台は夢』でも同じです。「自分がつくった」というよりも、「ひとりではたどりつけない、こんな遠くまで連れてきてもらった」という気持ちなんです。
———そもそも台本構成とは、どういうお仕事ですか?
既存の日本語訳を下敷きにしながら、せりふの語りやすさや、演出家の解釈に合わせて台本をつくっていきます。演技抜きでせりふをしゃべってもらい、ひっかかるようなところを直していきます。イメージとしては、俳優さんや演出家など、たくさんの人の解釈を含められる“薄くて軽い器”をつくる感覚です。小説家のように自分の書きたいものを書くのではなく、衣裳スタッフのように、一人ひとりに合わせてつくります。大きなパワーをもった昔の物語を、役者の身体を通してお客さんに届けるためのパイプのような役割だと思います。
『舞台は夢』では、最初イザベルの父ジェロントは若者の自立に対立するような人物としてせりふをつくっていました。重厚で、恐ろしい感じです。でも、演出家のフレデリックさんから「今回のジェロントは娘を本当に大事に思っている父親として描きたい」と言われてから、せりふ中の言葉遣いがずいぶん変わりました。実は、『舞台は夢』の稽古が始まったころはまだ時代と場所の設定が決まっていなくて、日本に置きかえるという案を試したときには、みんなのせりふに江戸弁が入っていたりもしました(笑)。今は「どこか外国の話」というところに落ち着きましたけどね。
魔法使いアルカンドルの通訳や、ホラ吹き将軍マタモールのせりふは、俳優さんからたくさんアイデアをもらいながらつくっています。みなさんが出してくるものがすごく面白いんです。お芝居はみんなでつくるもの、ということをすごく感じます。台本を一人で書いている作業は孤独だけど、稽古場にくると孤独じゃないんです。そういう作業の中で、私自身が「『舞台は夢』って、こういうお話だったんだ!」と気づくこともあります。
――『舞台は夢』は17世紀のフランスで書かれた戯曲です。それを現代の日本によみがえらせるために、どんなことを考えましたか?
『舞台は夢』の原作は、アレクサンドランという韻文の形式で書かれています。それは、現代のフランス人が読んでもわかりにくく、フランス語で現代語訳するのも難しいそうです。
そういうアレクサンドランという形式にのっとって書かれている、というのは『舞台は夢』の大きな魅力の一つではありますが、今回それを日本語に移し替えるということは、「物語を形式のくびきから解放する」という意味もあります。
日本語という、まったく別の言語に置き換えることで、物語の核をシンプルな形でそのままお客さんに伝えられるかもしれません。そうすれば、17世紀のフランス人だろうと、現代の日本人だろうと、共感できる部分を発見できるのではないでしょうか。
———『舞台は夢』の魅力を教えてください。
大人が腕によりをかけてつくっている、その「大人パワー」を感じてほしい!高校生のとき、放課後に演劇を見てドキドキしていた、私のような人がいたらいいな、と思います。「この人たちはなんなんだろう」「あれはなんだったんだろう」と、そういう風に惹かれる人がきっといるはずですよね。
『舞台は夢』には、一幕一幕が悲劇だったり、ドタバタ喜劇だったり、まるでお芝居のショーケースみたいな楽しさがあります。だから、いろいろなところに目を向けて、自分が好きなキャラクターや場面を見つけてください。「視点の自由」という、お芝居の醍醐味がよく表れていると思います。脇役を見ていてもいいし、照明を見ていてもいいんです。よそ見も大歓迎ですよ!もちろん、本番では俳優さんたちがよそ見をさせないくらい、一生懸命演技をしていますけどね。
2015年7月12日 静岡芸術劇場にて
構成:塚本広俊
SPAC 秋→春のシーズン#1
『舞台は夢』
公演日時:9月23日(水・祝)、26日(日)15:00~
9月27日(日)14:00~
10月10日(土)、11日(日)14:00~
公演会場:静岡芸術劇場