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2016年6月1日

イナバとナバホの白兎/パリ日記(7)

2016年5月27日(金)
SPAC文芸部 横山義志

午前9時劇場入り。

午後1時頃から俳優のトレーニング、自主稽古がはじまる。スズキメソッド、等々。少しずつ、劇場と劇団がなじんでいく。

午後3時から9時まで舞台稽古。広報用の写真撮影。2013年のマハーバーラタ公演でも写真を撮ってくれたシリルさん。

ケ・ブランリー美術館による関連企画、公演前の常設展ガイドツアーのために、舞台美術の木津潤平さんにインタビュー。貴重なお話なので、ここに掲載しておきたい。

木津潤平さんのお話。

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【舞台美術のコンセプト】

宮城さんからレヴィ=ストロースの『月の裏側』をやるという話があったときに、レヴィ=ストロースが言っている、世界中に散らばっている様々な神話の構造が「オモテウラ」の関係にあり、物語が「変換」して旅をしていくさまをビジュアル化してほしいというオーダーがありました。
なぜ物語がそのまま伝わらずに、わざわざ反転しながら伝わっていくのか、その仕組みを理屈ではなく、感覚的に納得できるように表現できないか、と考えました。
そこで、「鋳型」というコンセプトを思いついたのです。
ある鋳型の中に金属を流し込むと、その型を反転させたものができます。そのまわりに粘土など型どりをすると、元と同じ形の鋳型ができます。
物語もこのようにして、ある原型を元に、そこにその土地の動物やら自然やらのモチーフを流し込んで別の物語が作られるたのではないか、と仮定してみると、そうして生まれた物語は元の物語を反転させた構造を持っています。そうやって、物語は反転しながら伝わっていたのではないか、と考えました。この仮説のようなものに基づいて、ひとつの鋳型を空間として提示しているのが今回の『イナバとナバホの白兎』の空間デザインです。
具体的には、舞台上に半透明のカーテンを吊り下げ、その形が鋳型になっています。一幕では、カーテンの外側に役を演じる俳優の身体があって、内側には台詞を語る話者とお囃子の演奏者がいます。二幕では、それが反転し、外側に語り部がいて、内側に仮面をかぶった演者がいます。レヴィ=ストロースの発見した「変換」の仕組みをこのような形で表現しています。三幕では、原神話すなわち鋳型が成立する以前の状態を表現するたために、カーテンを上空に吊り上げています。頭上に輝くカーテンはオーロラのようでもあり、神話の種が光となって空から降降り注いでいるかのようにも感じられます。

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【アジアから何かインスピレーションは?】

当然僕自身がアジア人なので、インスピレーションを受けているというよりは、自分の作るものの中に自然とアジア的なものが含まれるはずで、海外での公演の際はそれを意識してデザインをするように心がけています。今回は、物質感のない、抽象的な存在によって境界をつくることを考えました。その透明感のある境界線というのが、ヨーロッパ人からみるとアジア的と思うかもしれません。200年前の建物がそのまま残っているヨーロッパが石造文化なのに対し、日本は木の文化なので、結果的に、空間を囲う存在が物としてずっとそこにある、というよりはその形だけが「型」ととして受け継がれていきます。このことは、実際にヨーロッパの文化に触れて自覚できたことです。

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今回のケ・ブランリー美術館公演では、はじめて木津さんが構想した舞台美術が完全に実現されることになる。

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フランス国立ケ・ブランリー美術館開館10周年記念委嘱作品
『イナバとナバホの白兎』
6/9(木)~19(日) ケ・ブランリー美術館クロード・レヴィ=ストロース劇場
◆公演の詳細はこちら
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