『高き彼物』出演者インタビュー、最後の7人目は、猪原平八役の吉植荘一郎さんです。
多くは語らないけれど存在感のあるお爺さんを演じるのは、おしゃべり好きな吉植さん。インタビューでも様々な小話が飛び出しました。
(収録は第一期稽古期間〔8月〕に行いました。)
–猪原平八という人物について教えてください。
普通のお爺さんです。お店に誰もいなければ「まいどー」とかやるかもしれませんが、農作業をやって、煙草を吸って、ビールを飲んでるようなお爺さんです。
背景はいくらでも考えられますね。この人は明治28年の生まれで、(息子の)正義が生まれたのは大正12年です。この年は関東大震災の年でしたし、正義は戦争の時代に育ったことになります。震災によって起こった様々な出来事を見て、「せいぎ」とも読める正義という名前を付けたのかなぁなんて思いました。それに、ああいう田舎町で自分は農業をしていて、息子を大学にやるっていうのはいろんな考えがあったんじゃないかと思います。
–いろいろなことを考えながら役作りをされているのですね。
まだまだこれからです。(今の話は)背景であって表には出て来ませんし。平八は周りから見てるとなんだかわからないけど、偏ったところのない人間だと思います。
–猪原家を見守ってきた立場からして、正義は息子として何点でしょうか?
そうですねぇ……63点ですかね。教師という職に就いて、妻子をもち、けっこう出来た息子だとは思うんですけど、退職後はやっぱりどうもいまひとつ頼りないんですよね。
現役時代には、教師を天職だと思って生徒と向き合っていたようで、まぁみんなから慕われているのを見るといい先生だったのだろうなと思います。しかしある事件をきっかけに教師を辞めることになったのですが、その過去をずっと引きずって、家で「はぁ~」とかなんとか言ってるのを15年間見ているので、どこか少し弱いところがあるんだなと。基本的には「お前しっかりしろよ」って思ってるだろうし。
平八は、孫の智子が抱える恋愛問題にも、正義よりも先に気付いて、気にかけています。嫁として家を出ていってしまったら、家に残るのは平八と正義の年寄り二人だけですから。そんなこともあり、63点くらいでしょうか。
–これまで色々な演出家の作品に出演されてきましたが、古舘さんの演劇の作り方はいかがですか?
そんなに多くの演出家のことは知らないんですけど、古舘さんもまた独特な考えですね。役者がハプニングなど実際に起こることに反応する姿がいいっていう。私はこれまで強靭な様式性を持った演劇しか知らず、ここ5年くらいでリアリズムとは何か、あるいは力まない演劇とは何かを考えている演出家の作品に出演する機会がありまして、今回は必然的な出会いだった気がします。
–稽古はいかがでしょうか?
(クロード・)レジさん演出の『室内』(2013年初演)と通じていると思うことがあります。古舘さんから「吉植さん、あなた音を聞いてないでしょ、聞いてほしいんです」と言われたときに、レジさんから「荘一郎、君は素晴らしい共演者がいっぱいここにいるのに、それを見ずに自分のイメージだけで喋っている」ってよく言われたことを思い出しました。
この作品は日常の生活を描いているので、「演技をしてません、っていう演技」ではなく「この人なんもしないね」って見えるようになればと思います。ただ、私は88歳という今の自分とかけ離れた年齢の役をやるので、がけっぷちですね。それに古舘さんから「老人ぽく痩せてくださいね」って言われてますから、期待に応えてなんとか痩せたいとは思っています。
–遠州弁はなんとかなりそうですか?
川根に行って地元のおっちゃんたちの言葉を聞いたときに、まさにこれだよこれって感じました。私は構えてしまって固い言い方をしているなと思いますので、もうこれからやり込むしかありません。
–ありがとうございました。
公演情報はこちら。
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯2
『高き彼物』
一般公演:11月3日(木・祝)、5日(土)、13日(日)、19日(土)
演出:古舘寛治 作:マキノノゾミ 舞台美術デザイン:宮沢章夫
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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