SPACは舞台芸術の専門機関ということで、年間を通じて国内外から様々な方が、視察や研修にいらっしゃいます。
現在は、大阪で活動する「人形劇団クラルテ」で制作に携わる佐藤結(さとうゆい)さんが、研修でいらしています。
今回は、佐藤さんに書いていただいた稽古場レポートをご紹介いたします。
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SPACブログをご覧の皆様、初めまして。
文化庁委託事業・芸団協による国内専門家フェローシップ制度で、12/12(~1/22)よりSPACにてお世話になっております、佐藤結と申します。研修先は第3希望まで申請できるのですが、もともとSPACの作品が好きで(観始めてまだ3年ぐらいの新参者ですが)、静岡から世界へ羽ばたく作品を生み出すSPACという集団の秘密が知りたくて希望しました。普段は大阪の人形劇団クラルテというところで制作の仕事をしていますが、SPACは規模も大きく、何より静岡芸術劇場と舞台芸術公園の施設を使って活動しているということで、普段いる環境とは全く違い、驚きと発見の毎日です。
研修初日は、ちょうど1月に初日を迎える『冬物語』(シェイクスピア/作)の稽古が始まるということで、稽古を見学させていただきました。
このブログを読んでいらっしゃる方は、SPACの作品を度々ご覧になられているかと思います。SPAC芸術総監督の宮城さんの作品の特徴のひとつに、台詞を話す人(スピーカー)と動きを担う人(ムーバー)でひとつの役を演じる手法がありますが、『冬物語』はほぼ全編この形式で上演されるそうです。そして、生演奏。人形劇の世界でも、見覚えがあります… そう、大阪が誇る伝統芸能「文楽(人形浄瑠璃)」に似ているんですよね。人形劇のための戯曲を数多く執筆した近松門左衛門も、芸というものは虚(ウソ)と実(ホント)の皮膜にあることだと論じており、人形劇の虚構性を愛しました。もともと演劇にも虚構の要素がありますし、二人一役という手法にもそんな印象を受けます。
さて、『冬物語』を書いたシェイクスピアと、日本の近松。同じ劇作家ということで並べられることも多い2人ですが、宮城さんによると、その趣向は大きく違うようです。しゃべればしゃべるほど人物の個性が現れるシェイクスピア劇に対し、近松作品(および日本の伝統芸能)の登場人物は、立場・シチュエーションを体現しており、個性ではなく類型的な人物として描かれているのだそう(とは言えシェイクスピアも最晩年には個性的な人物を描くことにさほどの関心を寄せていないようで、『冬物語』に関してはそのかぎりではないとのこと)。そういう意味で、近松作品は二人一役に向いているが、シェイクスピア作品(晩年の作品を除く)は向いていないという傾向があるそうです。そのことは、文楽では作品ごとに人形を作るのではなく、登場人物の類型に合わせた首(かしら)を選び用いることからも見てとれます。よく、人形劇の世界では(人形劇作品のために書かれた戯曲が少ないため)、人形劇に向く作品とそうでない作品と戯曲を分類して話すことも多いのですが、そのことの意味をここへ来てはじめてわかったように思います。
現在、稽古場では棚川さんの指揮の下、音楽の制作も同時に進行しています。楽器の演奏、ムーバー・スピーカーの稽古、そして稽古場以外でも各スタッフが動いており、まさに圧巻の集団創作といった趣。SPACという劇団の底力と奥深さを感じる日々です。
シェイクスピア作の『冬物語』が、どんな二人一役の舞台作品になるでしょうか……? 今から楽しみです。
皆様も、どうぞお楽しみに。
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯4
シェイクスピアの『冬物語』
一般公演:1月21日(土)、22日(日)、29日(日)
2月4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)
演出:宮城聰 作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子
音楽:棚川寛子 出演:SPAC
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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