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2020年6月30日

社会人3ヶ月日記/SPAC制作部 川口海音

今年4月から制作部に加わった新メンバーが、未だかつてない状況のなかでどのような日々を過ごし、何を感じていたのかを自身の言葉で綴ってくれました。
まだ劇場でお会いすることはできませんが、いつもSPACの活動を支えてくださる皆様へ「はじめまして」のご挨拶ブログです。
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みなさま、こんにちは。
SPAC制作部の新人 川口海音(みお)と申します。皆様いかがお過ごしでしょうか?
新型コロナウイルスの影響で生活様式や常識自体が大きく変わりつつある日々の激流に、新社会人の私は息継ぎもままならぬ様な思いで過ごしています。
しかし、そんな状況下であったからこそ体験できたこともありました。
今回は私の視点から、出勤初日から現在までの出来事を日記形式でご紹介したいと思います。
どうぞお付き合い下さい。

 

四月一日
本来なら初出勤の予定が、コロナウイルスの影響で劇場へ行くのは2週間後に延期に。顔合わせはZoom(テレビ会議アプリケーション)上にて行うことになりました。
前日までZoomのズの字も知らない私は、なんとかタブレットにアプリを入れたものの、開始時間の30分以上前から半ベソ状態。
しかし、いつまでも弱気ではいられません。応援してくれる学友や両親の顔を思い浮かべ、必死に食らいついて頑張って行こう!と決意したのですが……緊張のボルテージがMAXだった私は、終わった際には顔合わせの記憶が全くなく、ただ手元のメモに震える字で制作部スタッフのみなさんの名前と、特徴を覚えるための似顔絵が描いてあるばかりでした。

四月十日
制作部各セクションのチーフの方からZoomでブリーフィングをしてもらいながら1週間とちょっとが経ちました。「営業」「広報」といったような一般企業にもありそうなチームから、「チケット」「アウトリーチ」といった劇団らしい名前のチームまで様々なチームの役割について教えていただきました。
また数日に及ぶブリーフィングの合間に「くものうえ⇅せかい演劇祭」用の『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』デザイナー・インタビュー《舞台美術編・カミイケタクヤ》の一部分を文字起こししました。送ってもらった映像を見ながら、カミイケタクヤさんの言葉を書き起こします。何度も何度も映像を見て、止めて、書いてを繰り返していくうちに「舞台装置にこんなこだわりがあったんだ」「奥に見えた扉は厠だったのか!」とお客さんの目線で楽しんでしまいました。
午後からは『おちょこ』の衣裳デザインを担当している駒井さんインタビューの文字起こしをしました。既にご覧になった方も、もう一度見ると新たな発見があるかもしれません……!

五月七日
劇場に行ったり在宅勤務をしたりの日々。毎朝行われるZoomでの朝礼にも、少しずつ慣れてきました。五月から「一言看板(劇場前にある、偉人の一言を紹介する看板)」を任せて頂き、毎回張り切って調べています。(もし劇場に来ていただく機会があれば、感想など頂けると大変嬉しいです)
 

 

演劇祭期間中は、まず駅や劇場前に飾る「くものうえ⇅せかい演劇祭」のポスターやチラシの印刷などからスタートしました。先輩に教えていただきながら、印刷したポスターを劇場周りに貼り終わったときは、なんとも言えない達成感を感じました。また、数回だけでしたが「でんわde名作劇場」のご予約の電話対応をしました。
まだまだ慣れない電話対応におっかなびっくりしてしまうのですが、6月6日から「でんわde名作劇場」が再開したので、完璧な予約の受け答えができるようになりたいです。

「でんわde名作劇場」は、劇場に来ていただけない今だからこそ味わえる格別な企画だと考えています。
私は舞台を観るとき、俳優の声も聞きますが、それよりも視覚の影響が大きく「セリフ」自体が持つ言葉の意味やエネルギーを聞き逃してしまう事があります。しかし、「でんわde名作劇場」は文字通り「電話」から俳優の声を直接耳に入れる事で、言葉に込められた感情や意味、何より強いエネルギーを感じる事ができると思っています。
また読書の延長線上のようなイメージで「言葉のシャワーを浴びる」「言語の海に潜り込む」といった感覚に近いものがあるのかな、と考えています。
「聞く」という行動は人に会っていないと衰えてしまうものですし、日常生活でも役立つのでこの機会に「聞く力」を鍛えてみてはいかがでしょうか。
ただ、中には「俳優さんと電話で一対一!?緊張しちゃうよ〜」という方も、いらっしゃると思います。しかし「お話をする」という感覚よりは、「その場で思った事も言える朗読CD」を聞くというイメージをもっていただけると気楽に聞けるかなと思います。
八月三十一日まで、電話の前でワクワクどきどきご予約お待ちしております。

話がだいぶ逸れましたが、五月十一日
YouTubeにアップされた「くものうえ⇅せかい演劇祭」の対談動画の字幕入れも担当しました。
YouTubeやプレミアエレメンツなどの作業に慣れておらず、先輩に何度も何度もご迷惑おかけしながら作業を進めました。Excelに書いてある訳と原文と睨めっこしながら、延々とパソコンに字幕とそれが表示される秒数を打ち込む、そんな日々でした。だんだんとコツを掴んだ今は、そんなに苦労しないのですが、始めてすぐは丸二日かけて打ち込んだりしていました……(コピー&ペーストの存在に気づくまでチマチマ作業をしていました…)

そんな中、オリヴィエ・ピイさんが宮城さんとの対談でおっしゃった忘れられない言葉があります。新型コロナウイルスによる自粛の真っ最中で、劇場や演劇の再開の目処が立たない中でも「続けることだけが勝利なのだと思います」という言葉です。
作業中にもかかわらず、私は「なんて力強く、素敵なのだろう」と涙が滲みました。
私は四月の初めての出勤日から、誰もいない舞台を見ては寂しい思いをしていました。
普段なら大勢のお客さんやスタッフ、シアタークルーの方々で賑わうであろう劇場が、しいんと静まり返る様子は、本当に劇場という文化が消えてしまうんじゃないかと何度も不安になりました。
「続ける」ということは容易なことではありませんが、少しでも多くの方に、劇場に来て楽しんでいただける機会を作り出せるように精進したいな。と考えました。(ここに記録し何時でも気持ちを思い出せる様にしたいと思います)


▲制作室のみに灯りがつく、静かな芸術劇場

五月二十三日、二十四日
二日間、「くものうえdeこども大会」を拝見しました。涙腺が壊れているのかと思うほど、最初から号泣してしまい、二日でティッシュボックスを一箱開けてしまいました。休校が続き活動を制限され、大人でも参ってしまうような日々の中で、何かを表現するというエネルギーを持ち続ける子どもたちの姿にとても胸を打たれました。

そして、六月現在
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
現在は、データの整理やクルーの皆さんへ送る記念缶バッチの封入作業など、出来ることから少しづつ仕事を覚えいっています。
一刻一刻と状況が変わるような未曾有の事態の中で、私は日々「今、演劇は何ができるだろうか」「私がSPACで役立てることはどんな事だろう」と考えるようになりました。その答えは、まだまだ見つかりそうにありませんが、お客様を劇場でお迎えし、舞台を楽しんでいただく日がまた来るまで、コツコツできることから続けて行けたらと考えています。

川口海音