ブログ

2022年4月18日

ギルガメシュ叙事詩/パリ日記2022(番外編)ル・フィガロ紙劇評全訳

ル・フィガロ紙 2022年3月25日
Florence Vierron

「『ギルガメシュ』、とても同時代的な叙事詩 ケ・ブランリー美術館で日本の宮城聰がこの世界文学の記念碑的作品から創意に富んだ舞台を創造する」

「人類は謙虚さを取り戻し、自然を支配したり地球の全てを制御したりできるなどと思う傲慢さを断念すべきだ。わたしが思うに、これが今日浮かび上がるギルガメシュ叙事詩のメッセージです。」日本の演出家宮城聰の言葉はこの上なく明瞭だ。紀元前三千年紀のメソポタミアに生まれたこの英雄の物語と、我々の時代にうごめくさまざまな策謀を結びつけずにはいられない。
王国の首都ウルクはすでに繁栄し、壮麗だが、ギルガメシュ王は大きな野望をもっている。街をさらに発展させるために、彼は友エンキドゥとともに杉の森に向かって旅立ち、木々を守る任に当たる巨人フンババに立ち向かう。巨人は倒され、木々は切られて、ウルクに運ばれていく。こうして街は美しく飾られたが、森林伐採によってギルガメシュの運命は急速に陰りを見せていく。フンババの殺害を裁く神々によってエンキドゥに死が宣告されるのである。だがギルガメシュは悔い改めるかわりに、不死を求めて旅立っていく。

ケ・ブランリー美術館クロード・レヴィ=ストロース劇場の舞台上には、軽いパネルが組み立てられては解体され、壁になったり、船になったり、木々になったりする…。パネルは登場人物が現れたり消えたりする場ともなる。その幾何学的な形は主要登場人物や人形の色とりどりの衣装とは対照をなしている。木琴の澄んだ音色と体に響く打楽器の音を組み合わせた音楽にのせて、正座した語り手たちが声帯の強弱・高低の振幅全てを駆使して物語を語っていく。語り手たちは重低音からとぎれとぎれの高音まで自在に行き来しながら、殺陣や落ち着いた会話など、俳優たちが身ぶりで演じる場面のそれぞれにふさわしい強さの声を創り出していく。クライマックスは、ギルガメシュとエンキドゥが布でできた巨大な人形のフンババが闘う場面である。

私たちの内なる小さな声

宮城聰と劇団SPACは観客を時代から時代へ巧みに移動させる。上演の形式は観客を幻想的な物語の内へと誘っていくが、その内容は現代の一大絵巻となっているのである。巨大だったりすごく小さかったりする人形たちは、私たちに取り憑き、私たちを導いていく内なる小さな声を表している。ギルガメシュの野望、自然の搾取、神聖なものの侵犯は、昔も今も変わらぬ人間の行いである。不死に至ったとされる伝説上の人物ウトナピシュティムだけが自然と人間の間に位置している。この人物は女性なのか、それとも人形なのか。この場面の演出は、その答えを曖昧なままにしておくことで、目的を達成している。不死の命というのが幻想に過ぎないとしたら私たちはそうすべきなのか、と問いかけているのである。

翻訳:SPAC文芸部 横山義志

====================
★ゴールデンウィークに静岡市・駿府城公園にて上演★
フランス国立ケ・ブランリー美術館委嘱作品/SPAC 新作
『ギルガメシュ叙事詩』

台本・演出:宮城聰
翻訳:月本昭男(ぷねうま舎刊『ラピス・ラズリ版 ギルガメシュ王の物語』)
音楽:棚川寛子
人形デザイン:沢則行

美術デザイン:深沢襟
照明デザイン:吉本有輝子
衣裳デザイン:駒井友美子
ヘアメイク:梶田キョウコ

出演:阿部一徳、大高浩一、石井萠水、大内米治、片岡佐知子
榊原有美、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木陽代、関根淳子
大道無門優也、舘野百代、本多麻紀、森山冬子、山本実幸
吉植荘一郎、吉見亮、渡辺敬彦
/沢則行(操演)、桑原博之(操演)

公演日時:
2022年5月2日(月)、3日(火・祝)、4日(水・祝)、5日(木・祝)
各日18:40開演

会場:駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場

★公演詳細はこちら
====================