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2012年3月7日

SUAC生によるインタビュー①

 静岡文化芸術大学(SUAC)の講義が6日間にわたり、静岡芸術劇場と舞台芸術公園にて行われました。その授業の一環として、中沖 英敏さん(専務理事兼事務局長)と佐伯 風土さん(芸術局制作部)へのインタビューも学生たちにより行われました。
今回、その模様をご紹介します。

↓↓↓<中沖英敏さんへのインタビューはこちら>↓↓↓
【編集:山下実彩さん、蒔田佳純さん、鈴木美奈子さん(芸術文化学科)】

今回はSPAC専務理事兼事務局長の中沖英敏さんに、主に中沖さんご自身のご経歴とSPACを中心とした今後の静岡県の文化政策の在り方についてお話を伺いました。

Q.中沖さんは元々静岡県庁の職員として設立の当初からSPACに携わっていたと伺いましたが、それ以前にも芸術関係の事業には参加なさっていたのでしょうか?

A)今から20年ほど前に、静岡県に新しい文化事業を立ち上げるというお話を初めて伺いました。それ以前は土木や税金、子供福祉などの事業には参加しましたが、芸術関係の仕事に関しては携わる機会は全くありませんでした。ただ、劇団四季の公演を何度か鑑賞したり、音楽が好きだったのでクラシック音楽のコンサートに行ったりといった機会は以前からありました。そういったこともあって、事業概要を最初に伺った際に「舞台芸術」という言葉を聞いたときには「およそこのようものだろうか」と、イメージを浮かべることはできました。それまでは演劇のようなものにほとんど接点がなかった私でしたが、お話を聞くうちに「自分はもしかしたらこういう世界にどこかで縁があったのかもしれない」と感じるようになりました。そのためか、仕事にも割と自然に取り組めたように思えます。今では舞台芸術には誰にも負けないくらい興味を持っているし、音楽も含めて色々な作品にも触れました。舞台芸術という非常に魅力的で裾野が広い文化に関わることができ、本当に運が良かったと思っています。

Q.現在の中沖さんのお仕事とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

A)SPAC専務理事兼事務局長の仕事に就いて3年になります。私の場合は周囲の勧めもあり、県庁を退職後それまでの仕事とも関わりのあるSPACで再就職させていただくことができました。SPACは正式名称を財団法人静岡県舞台芸術センターと呼び、理事長、副理事長、そして私が現在就いている専務理事の位置があります。専務理事とは実際の経営責任者です。年間の予算の範囲内で各部署が平等な運営が行えるよう調整します。SPAC全体の運営責任を担う非常に大切な仕事だと受け止めています。事務局長としては、芸術総監督の宮城さんが代表する劇団を支える事務局をまとめるのが仕事です。こちらでは事務や管理など、あらゆる面でのサポートが重要になってきます。

Q.静岡県民の舞台芸術に対する意識についてどのようにお考えですか?

A)実は静岡県では高校演劇が非常に盛んで、そのレベルはトップクラスに位置します。これは20年ほど前に、舞台芸術の事業を興す際にリサーチした結果初めてわかったことでした。実際に静岡県には、全国コンクールである高校がグランプリを受賞した例や、浜松市の市民劇場の会員の人数が全国一である例などがあります。こういったことからも、県民の演劇に対する意識は昔から高かったということが見受けられます。普段はなかなか気づきにくいことですが、静岡県民は全国でも特に演劇に触れやすい環境に恵まれているのです。また磐田市には、現代舞踏作家の佐藤典子さんが率いる全国トップクラスのバレエ団があります。東京都だけでなくこういった地方にもレベルの高いバレエ団が存在し、多くの子供たちがそこで活動しているのです。このように舞台芸術に対する県民の意識は以前から非常に高かった静岡県ですが、宮城監督も常におっしゃっているように最終的な「受け皿」が今までは存在しませんでした。県内に就職先や所属先がないために、多くの優秀な人材が県外へ出て行ってしまう事態が起きていたのです。これは日本全国どこにでも共通した問題です。この事態を受けて今芸術の世界では、地方でも十分な施設や技術を整備し優秀な人材を育成していこうとする動きが見えます。SPACはその中でも先進的なモデルケースと言えるでしょう。静岡県内での舞台芸術の地位の高さを見直す契機になるかもしれません。また、静岡県民の方々にも舞台芸術の必要性を改めて知っていただき、更に理解を深めていただく機会が増えるのではないかと期待しています。

Q.日本初の公立文化事業集団として幅広く活動をSPACですが、今後更なる発展を遂げるために必要とされてくるものは何だとお考えですか?

A)やはり「人」ですね。優秀な人たちが安心して頑張れるような環境を作っていくことが1番大きな目的だと思います。そのためにはSPACだけでなく、静岡県も一体となった政策を進めていくことが重要です。文化や芸術という分野は、如何に才能が花開くか開かないかといった世界です。機会に恵まれず、埋もれていく人たちもたくさんいます。逆にたった1度の機会でその人自身も気づいていなかった才能が一気に開花する人もいます。SPACでは多くの人に機会を与えるためにあらゆるジャンルの演劇を製作したり、小中学生や一般向けのイベントも展開しています。常にオープンで在り続け、人々に希望を与えられる機会を生み出していくことが今後のSPACに必要とされてくる役割なのではないでしょうか。

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 限られた短い時間の中でしたが、貴重なお話をたくさん伺うことができました。中沖さんのSPACへの熱いお気持ちには深く感銘を受けました。静岡県の大学で勉強していてもまだまだ自分が知らないことが多くあることがわかり、非常に勉強になりました。今回の経験を胸に、静岡県の今後の文化政策について真摯に考え、その未来を見据えていきたいと思います。

静岡文化芸術大学 芸術文化学科
山下実彩・蒔田佳純・鈴木美奈子

〔静岡文化芸術大学 文化政策学部 芸術文化学科1学年「芸術表現B」2012年1月4日~6日、2月8日~10日開講〕